8 公爵令嬢は俺のおもちゃ

 「アシュレイ、一体何があったんだ?」

 

 ひとしきり泣いたアシュレイは落ち着きを取り戻し、レノと2人でソファに座っていた。

 

 「いじめられてるの…………」

 

 誰がこんなに追い詰めるまでにアシュレイをいじめるというのだろうか。

 学校では身分制度を考慮しないことになっていた。身分を誇示しようとすれば、すぐに生徒指導である。

 

 だからと言って、公爵令嬢のアシュレイをいじめようとする度胸のある者がいるのだろうか。

 そう考えたレノは首を傾げる。

 

 「アーヴィングっていう男が暴力を振ってくるの」

 「アーヴィング?」

 「レノ、Fクラスには行ってきたの?」

 「うん。Fクラスに入ることになったし、自己紹介とかもした」

 「その時に細身の男子がいなかった? ずっと勝手に話をしている男子」

 

 レノは今日のことを思い出す。

 聞いてくれていなかったので2度挨拶したところ、レノを睨んできたやつ。

 どうやら、それがアーヴィングらしい。

 

 「そいつからいじめられるのか?」

 「うん……………………」

 

 何たる度胸。

 まさか彼も公爵家の人間なのだろうか。

 しかし、アシュレイ曰く彼は男爵家の人間らしい。

 

 「なんで男爵家の人間がアシュレイを…………」

 「身分なんか関係ない、からじゃないかな」

 「そうなのか?」

 「うん。あと彼ね、よくいうの。『お貴族様は嫌いだ』って。自分も貴族なのに」


 男爵家と公爵家とでは差がありすぎる。そのせいもあるのかもしれない。


 「ずっと教室に顔を出していないのか?」

 「ううん。今日はその…………行きたい気分じゃなかったの」

 

 顔を俯かせるアシュレイ。

 長らく教室に行っていないのは明白だった。

 

 「明日は行く?」

 「うん。レノがいるから行けそう」

 「そうか」


 レノが立ち上がろうとすると、アシュレイが服を引っ張った。


 「ど、どうした?」

 「レノ、気をつけてね」

 「気を付けて、とは?」


 「レノがハジェンス家の魔導士ってことはもうアーヴィングの耳に入っていると思う。きっとレノに目をつけるだろうから、気をつけて」




 ★★★★★★★★




 次の日の放課後。

 アシュレイの忠告通り、アーヴィングはレノに近づいてきた。


 「なぁ、転入生。ちょっくら話をしねぇーか」

 「ああ、俺もあんたと話をしたいところだったんだ」

 

 そうして、レノとアーヴィングたちは人気のない校舎裏に移動。

 アーヴィングは1人ではなく、いつも行動をともにしている仲間を引き連れてきた。

 レノとアーヴィングたちは向き合って話し始める。

 

 「なぁ、あんたハジェンス家の魔導士さんらしいじゃねぇか。そんなやつがなんでFクラスにいるんだ?」

 「さぁな……………………なんであんたこそ、アシュレイをいじめるんだ」


 レノがそう尋ねると、アーヴィングたちはハハハと笑いだす。

 

 「そりゃー決まってんじゃねーかよ。アイツがお貴族様だからだよ」

 「あんたも貴族だろ」

 「俺は貴族じゃねぇよ。脳みそ腐ったあんなクソ野郎なわけがないだろ」


 この様子だと、アーヴィングはかなり貴族を嫌っているようだった。低いとはいえ、自分も貴族であるのにも関わらずだ。

 すると、アーヴィングは両手をばっと広げ、奇妙な笑みを浮かべる。

 

 「アイツさ、いくら殴っても蹴っても、怪我が治るんだ。顔をぐちゃぐちゃにしても次の日には元通り」


 すぐに怪我が治るのはアシュレイが聖女魔法を使っているから。

 かつて彼女のその魔法を受けたレノはそう予測する。

 しかし、アーヴィングコイツはそれを利用して、最低ないじめをしていた。


 「だから、別にいいだろ。あの公爵令嬢は俺のおもちゃなんだよ」


 その言葉を受け、レノはコイツがFクラス行きになった理由が分かった。

 人間性がないから。


 能力があるにも関わらず、もったいないやつである。

 そして、レノはこうも予想した。

 アーヴィングは中等学生の頃もこんな感じの問題児だったのだろうと。


 「お前、クズだな」

 「あ゛あぁん? 誰がクズだって?」

 「お前らだよ」


 レノがそう言うと、アーヴィングはハッと鼻で笑った。


 「これでもな、俺はFクラスを支配しているんだよ。お前、言葉には気を付けた方がいいぜ」

 「ウソだな。お前はFクラスを支配なんかしていない。女子グループと対立しているじゃないか」

 

 アーヴィングと言い合いになっている男勝りな女子がいた。

 彼女はある女子グループのリーダーのように見えた。また、アーヴィングたちのグループと対立しているようだった。

 

 「キアナのやつらはこれから支配していくんだよ。アイツらは俺たちに偉そうな態度を取っているからな、痛みつけてやらないと。でも、その前に俺たちにはすることがある」


 すると、アーヴィングは腰にしまっていた杖を取り出した。

 

 「きっとお前はアシュレイから助けを求められて、来たんだろ? 俺たちはさ、もうちょっとアイツ公爵令嬢様で遊びたいんだよ――――――――――――だから、お前には消えてもらうぜ」


 アーヴィングの背後にいた仲間も杖を出し始める。

 レノもしまっていた杖を取り出した。


 「この人数相手に、お前1人でやるのか?」

 「ああ。俺ならあんたたちに勝てる」


 コイツらは弱い――――――――――――レノはそう確信していた。


 「ちょっとは楽しませてくれよ、ハジェンス家の魔導士さんよぉ」 

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転生者支配下のFクラス ~転生を繰り返した少年は問題児クラスを再生する~ せんぽー @senpo

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