第1章
7 レノ、Fクラスへ
レノが学校に入学して約1ヶ月後の、7月。
その日もレノはいつも通りに学校に登校。
寮から教室に向かっていると、Fクラスの話題がいつも聞こえてくる。
今日はレノの前方にいる女子生徒2人が話しているようだった。
「Fクラスが最近荒れなくなったらしいって聞いたんだけれど、何か知ってる?」
「ええ、知ってるわ。どうも最近転入してきた方がFクラスをまとめているらしいの」
「ええ!? あの問題児クラスを?」
「そうなの。Fクラスは彼が支配したようなものよ」
「噂によると、あの人転生者らしいわ」
「ウソでしょう? 転生者だなんて」
「本人が言っていたそうよ。ほら、あそこにいる人。あれがFクラスの…………」
そんな声が彼の耳に入ってくる。
訝し気な視線を送られているにも関わらず、彼は晴れやかな表情を浮かべていた。
「おはよう! レノ」
「おはよう」
転生者の彼はFクラスの支配者と呼ばれていた。
★★★★★★★★
1ヶ月前。
「…………レノくん、本当にいいのかい。今なら副校長に交渉はできると思うよ」
「はい、いいんです。俺はFクラスに行きます」
「僕は…………その…………おすすめしないよ。君のような子がFクラスに行くことはね。引き返す気はないかい?」
レノの事情なんて知りもしないソーンズ先生。
彼はレノのことを本当に心配しているようだった。つまりFクラスはそれだけヤバいところ。
様子からするにこの人はFクラスの担任なのだろう。
「ないですよ、先生。僕はFクラスじゃないとダメなんで」
「そ、そうかい」
教室からはただならぬ臭いとオーラがしてきた。
まさか、こんなところにアシュレイがいるのか?
生粋のお嬢様がこんなところにいれば、精神状態もおかしくなるのも当然のこと。
レノは思わず鼻を押さえる。
しかし、ソーンズ先生は慣れているのか、表情一つ変えなかった。
レノはソーンズ先生に促され、教室に入る。
入る前に予想していたことではあったが、思った以上に教室の雰囲気もひどいものだった。
細身の男子を中心にして会話をするグループ。
男気のありそうな女子を中心としたグループ。
楽しそうにおしゃべりをしている男女5人組。
そして、各々で勉強や読書をしている人たち。
Fクラスは誰がどう見てもバラバラだった。
アシュレイはどこにいるのだろうか、と教室を見渡す。
ノエリアと2人で過ごしているのだろうが。
しかし、どこを探してもFクラスにアシュレイの姿はない。ノエリアの姿もなかった。
後ろの方には何個かの空席。
アシュレイの手紙を考えたレノは、アシュレイたちは休んでいると判断した。
「どうも、レノ・キーロックです」
レノが挨拶をするが、クラスの一部だけが拍手。男たちは見向きもしなかった。
「あのー! 俺、レノ・キーロックって言います! よろしくお願いします!」
と叫んでやっと男たちがこちらに向いてくれた。まぁ、レノに向けられたのは睨みだったが。
空けてもらっていたのかは分からないが、レノは一番後ろの席に座ることになった。
レノの左側には金髪美少女、前の席には黒髪の少年がそれぞれ座っていた。
右隣の席は空席。
「君の右隣の席はアシュレイさんがいつも座っているよ」
とご親切に金髪美少女が教えてくれた。
アシュレイの前の席にも空席があった。きっと休んでいるノエリアの席だろう。
レノはもう一度Fクラスの教室を見渡す。
学校が始まってまだ2か月。
ここまで険悪な雰囲気になるのだろうか。
一体このクラスに何があったのだろうか。
そして、レノはふと窓の外を見る。
しかし、空に雲があるかどうか確認できなかった。
★★★★★★★★
その日の放課後。
レノはFクラスの女子寮へ向かっていた。
もちろん、アシュレイに会うためである。
寮長に許可を貰えれば、男子でも女子寮に入ってもいいことになっているらしい。優しいことだ。
レノは女子寮の寮母に案内してもらい、アシュレイの部屋に向かう。
彼女は静かに外を眺めていた。
「アシュレイ、俺だけど…………」
レノが話しかけても、反応なし。アシュレイは背中を向けたまま、外を眺めていた。
侍女の方に目線を送っても、侍女は肩をすくめるだけ。
アシュレイはどうやらずっとこんな調子のようだ。
しかし、レノがアシュレイの方に近づいた瞬間。
「え」
アシュレイがレノに向かって走り、そして、彼の胸に飛び込んだ。
ぎゅっとハグをするアシュレイ。
どうしたものかと悩むレノは、彼女の頭をそっと撫でる。
「レノ、レノ…………」
その声は震えていて、彼女の瞳からは涙でいっぱいになっていた。
アシュレイの体はずっとずっと震えていた。
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