6 特別試験

 「入学したいですか……………………」

 「はい」


 アシュレイの手紙を受け取った数日後。

 レノはノーザンクロス高等魔法学校にいた。

 しかし、教室ではなく客が案内される応接室。

 

 レノの向かいにはおじいちゃん副校長が座っている。

 副校長は顔をしかめ、悩みに悩んでいた。

 一方、レノは真剣な眼差しを副校長に向けたまま。人の見方によっては一種の圧ともとれる様子であった。


 なぜ、こんなことになったのか。

 それは数日前のことから遡る。


 

 

 ★★★★★★★★


 


 アシュレイの手紙を読み終わると、レノはすぐに公爵の元に向かった。

 公爵はアシュレイの事情を知らないと予想し、相談しにいったのだ。

 公爵との話し合いの末、レノ自身も学校に通うことになった。


 「そうか…………そういうことなら、至急アシュレイを助けてくれ。そして、Fクラスも」


 アシュレイは分かる。だが、Fクラスも?

 そう疑問に思ったレノは首を傾げる。


 「Fクラスもですか?」

 「ああ。確かにFクラスに問題児が集められるのはいつものこと」


 公爵は訝し気な顔を浮かべる。


 「しかし、今回は違うような気がするんだ」

 「…………公爵様は嫌な予感がすると?」

 「ああ。だから、調べてきてくれないか。Fクラスがどうなっているかを。君ならきっとできるだろう」




 ★★★★★★★★



 

 そうして、レノは今入学交渉中なのである。

 副校長はカップを取り、紅茶を一口飲む。そして、答えた。


 「あなたがハジェンス家の魔導士とはいえ、そう簡単に入学していただくわけには行きません。

 「はい、分かってます。だから、試験を受けさせてください」


 やたらと押しの強いレノ。彼に圧倒する副校長。

 副校長は目を閉じ、一時考える姿勢を示すと、渋々頷き始めた。


 「分かりました。特別試験を受けていただきましょう。それで私どもが不合格と判断した場合には――――――――――――」


 


 ★★★★★★★★




 「え?」


 副校長は思わずすっとぼけた声が出ていた。

 広い運動場にポツンと置かれた巨大な石。

 その石は、


 『魔法でも物理的な方法でもどちらでもいい。時間内にあの石を粉々にしてみせよ』


 という試験に使われるのである。入学試験時には何個もこの石が用意されるのだ。

 魔法学校のくせに、なんという試験と言われることは多い。

 実際、魔法なしで入学したクレイジーな者もいる。


 しかし、今はあの巨大な石が粉々。

 石はもはや砂であり、副校長が驚くのも無理はない。


 ある程度割れ、何個かに分かれることがあっても、あの石がこんなになるところは誰も見たことがなかった。

 少なくとも学校に入学してくる半分の人間は壊せない。


 驚く副校長の隣に立つのは、1人の少年。

 魔法を放ったレノはなんともない様子で立っていた。


 「ねぇ、君」

 「はい、なんでしょう? 副校長?」

 「…………あまり魔力がないって言ってたよね?」


 「はい、全然ないですね。だから、いつも魔石を持ち歩いているんですけど、今日使うのはまずいと思って使っていません。ご安心ください、不正なんかしませんよ」

 「あ、そう……………………」


 副校長は驚きを通り越して、呆れた様子。そして、手で額を抑えるのであった。


 「ソーンズ先生」


 副校長は控えていた黒髪男に声を掛ける。男はこの学校の教員のようだ。

 その男は疲れ切った様子で、彼の目元にはクマがあった。


 「彼をあのクラス案内してあげて」

 「はい」


 弱々しくながらも、返事をするソーンズ先生。

 レノはその先生についていく。これからFクラスに案内されるのだろう。

 問題児のクラスFクラス――――――――――――どんなところなのだろうか。

 レノの心中は半分ウキウキ、半分警戒があった。


 そして、レノが去った後。

 運動場には寂しい風が吹いていた。

 レノが去ったとも、彼の背中を見続ける副校長。


 「彼がハジェンス家の魔導士か…………ハジェンス家ねぇ」


 そして、彼は空を見上げる。空は薄暗い雲が広がっていた。


 「彼をハジェンス家から引き抜ければ……………………」


 副校長はそう小さく呟いていた。

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