恋を知らない僕達は 1ノ続

常に香る花の甘い香り

触れるとそのまま潰れてしまいそうなほど柔らかく

いつか壊してしまうのではと怯えていた



「……やだっ、柊っ、やっ」

 ふと頭に流れ込んできた声が意識を引き戻す。紅潮させ顔を歪ませた千代子が俺の身体の下にいる。胸元が少しはだけ、小さな膨らみが少し覗かせている。両手は俺の両手で布団に抑えつけられている。

「……千代」

 俺の声に反応し、千代子はぎゅっと目を瞑る。俺はなにをしてしまったのだろう。…どこまでしてしまったのだろう。千代子みたいに何も知らなければ無意識になにかできることもなかったのに。

 ふっ、と薄く笑う。これは俺の穢れにより引き起こされたことか。千代子はもう俺を大切な幼馴染みと見てはくれないんだろうな。もう、誰よりも君の心の傍に置いてくれることはしないんだろうな。俺が…この関係を壊してしまった。

「千代、ごめん千代。」

 いつものように優しく頭を撫でる。一度強く目を瞑ったが、ゆっくりと俺のことを潤んだ瞳が覗いてくる。

 可哀想に。怖かったよね。

 千代子の小さな身体を強く抱きしめる。

「ごめんね。……でも、千代子が悪いんだよ?」

 そのまま細く白い首に口を這わせる。甘い香りが鼻を刺激する。続いて舌を首元から顔にかけて舐めあげる。

「なんでっ…んっ、柊!柊!」

 必死に背中を叩く姿すら愛おしい。可哀想に。小さな身体に、抗えない程の力。気が強く我儘な女の子でいられたのは何故だと思う?こんなに可愛らしくても誰も言い寄らなかったのは何故だと思う?まるで守られるために生まれてきたような人。千代子が千代子でいられるようにずっと見守ってきたんだ。

 でも俺が壊してしまった

 だから、俺の手で全て壊してしまおう

執拗に首に舌を這わせる。その度に身体を反らせ甘い声を溢す姿が愛しくて、愛しくて。

 ああ、食べてしまいたい…って。

浴衣をはだけさせ肩を露出させる。柔らかな肌が露わになる。その肌に歯を突き立て力を加える。

「いっ…痛いいいいい、やだ、柊、痛い、痛いよぉ」

 可哀想に、と頭を撫でる。しかし噛むことをやめようとは思わなかった。どうしてだか、千代子を取り込みたくなってしまった。食べたい、という欲が未だ頭を占領する。そっと口を離すと、白い肌には赤々と半円の傷がついている。その姿にドッと血液が全身を巡るのを感じた。

「よしよし、痛かったね」

と頭を撫でながら、千代子をみつめる。そして俺を見つめかえす瞳が、俺を吸い込む。

 ゆっくりと顔を近づけ、唇を重ねる。柔らかく薄い。他の唇を知らぬ唇。一度離し、また重ねる。そしてまた重ね、唇で千代子の唇を挟め離す。そしてもう一度重ね…舌を口の中に忍ばせる。

「ッ…!んんんっ、んんんんん」

 足をバタつかせ何かを言っているが、気にも止まらない。顔を押し付けさらに奥へ奥へと千代子を求める。千代子の舌は逃れようと右へ左へと動くが捕らえるのに時間はかからなかった。絡め、舐め尽くす。逃れようとしても何度も絡め合う。千代子の唾液を舐めとり、口を離し、飲み込む。

「……甘い。千代子、甘いね」

と、笑いかけると、顔を真っ赤にして顔を逸らす。息が苦しくなり、思考が奪われていく。頭がぼんやりとしてただ千代子を求める。

 口に唾液を溜め、再び口づけをする。強く閉じる口を舌で無理矢理開け、再び舌を絡めそして唾液を流し込む。背中を叩かれているけど、だめ。舌を絡め続け、そして千代子の喉が動く。口を離し、千代子をみつめる。ぼんやりとした瞳で息を荒げる千代子は普段の可愛らしい姿とは違っていた。

 首に唇をあて強く吸う。離しまた繰り返す。手を小さな膨らみへと伸ばし、掌におさまるほどのそれを優しく包む。

「んっ…」

甘い声が欲情を煽る。腰紐を解く音ですら鼓動を早くした。

 浴衣の前をはだけさせようとすると、千代子の手が俺の手を掴む。

「柊、恥ずかしい…。どうして?柊…。私たち……やっ、待って!」

 全てを聞く前に、力のままに浴衣を掴む。体の全貌が露わになる。俺を掴んでいた両手は一纏めに千代子の頭の上に持っていき左手で抑え込んだ。右手で直接胸を触る。柔らかいようで弾力がある。円を描くように揉みつつ、反対の胸に顔を近付け、口に含む。首よりも柔らかい。胸の頂点を舌で擦ると千代子は小さく声を漏らした。そのまま胸を舐め続け、そのまま吸い上げる、また舐める。

唇を腹部に移動し、口づけを落とす。

ふぅと息を吐き、顔をあげると、無数の深い口づけの跡と歯型が残されていた。

「千代子、綺麗だよ」

自然とそう言っていた。穢れも知らない綺麗な千代子の身体は、自分の穢れをこんなにも受けてしまった。その哀しみの感情が大部分、そんな千代子を穢した支配欲が少し。

 腰を浮かし、組み敷いていた膝を曲げさせる。足先に舌をあて、なぞるように太腿までを味わう。恥部を指でなぞると、滴るほどに濡れていた。

 本来なら指で慣らすべきだろうけれど、千代子はこういうことは初めてだ。処女の子の相手は初めてだから、下手して指で膜を破ってしまうのは…惜しい。

「……千代子、なるべく優しくするからね。」

千代子の身体を引き、腰と腰の位置を近づける。自分の恥部を露出させ、千代子の恥部に押し付ける。

「えっ、柊?それはなに?柊?ねぇ、柊?」

「そうだなぁ…千代子、俺を受け入れてくれる?」

その言葉とともに怒張した恥部をぐっと押し入れる。しかし、まるで拒むかのように中には入っていかない。指で陰唇を開き、強引にさらに強く押し入れる。

「なにっ!?柊っ、痛い!」

阻むように一点から進まないのを無理矢理押し入れ続けると、急に奥へと入った。と、ともに千代子の顔が歪む。

「痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃ」

挿入った。

そう思った。根元まで中に入れ、千代子を抱きしめる。

「よしよし、痛いね。よしよし」

「うっ…ううっ…柊…痛い…中が痛い…」

縋る様に俺の身体を抱きしめ、涙を浮かべている。女の子の初めてというのはこんなに辛いのか、と少し驚いた。

優しく口づけをする。唇を離すと、千代子から口づけをしてきた。

「柊、柊ぃ…」

流れる涙を舐める。千代子が俺を求めている。高揚感と、支配欲。優しくしなきゃと思っているのに千代子を求めて身体が疼く。ゆっくり腰を引き、再びゆっくり腰を近付ける。

「うっ…」

顔を歪ませる。まだ痛いのだろうか。徐々に腰を振る速度を上げていく。千代子は苦しそうに声をあげ、俺を強く抱きしめ、背中に回した手は爪をたてている。酷いことをしているとわかっているのに、満たされた気持ちになる。

千代子の中は異物のように拒んでいたが、次第に温度が同じくなり、二人の境が曖昧になる。まるでそこだけ別々の存在ではなくなったかように感じる。感情のある性行為とはこんなにも快感を得られるとは知らなかった。

奥に、奥にと腰を振る。肌と肌がぶつかる音と、粘気のある水の音、そして苦しそうな千代子の声と同じリズムで繰り返される荒い息。

 無心で千代子を求めた。千代子を支配したいと思っていた。千代子の中がきつく締まり、出したくて苦しい。下半身の熱が上がり、怒張が限界となる。

 反射的に千代子の中からそれを引き抜くと同時に、白い液体が吹き出し、千代子の腹部を汚した。

「ひいらぎ……」

千代子は息を荒くしぼんやりとした瞳のまま俺をみつめ、両手を伸ばす。

「……ごめんね、千代子」

掌に口づけをし、強く抱きしめると、千代子も弱々しくも抱きしめ返した。優しく接吻し、額にも唇を落とす。

「千代子ごめんね。よく頑張ったね。よしよし。」

優しく頭を撫でる。千代子は、何も言わなかった。













 朝の陽射しで目を覚ます。千代子は…隣にはいなかった。

 ふふっと薄く笑いが溢れた。これまでの努力が水の泡だ。綺麗なままでいてもらいたかったのに、自らの手で穢した。大切にしたかったのに、自らの手で壊した。反射的に外に出したのは家庭を持つ勇気がなかったからだ。あんなに性欲に溺れても、臆病な俺はそれを恐れた。そんな弱い人間なんだ。

千代子はもう自分の隣を歩いてはくれないだろう。どうせ自分はこんな人間だ。どうせ自分の人生はこんなものだ。

 気怠げに朝の支度を整える。

 応接間に足を運ぶと、そこには、千代子が椅子に腰掛けていた。首には不自然に包帯が巻かれている。

 んっと息が詰まり、何て声を掛ければいいのかわからず足が止まる。千代子も足音に気がついたのか、伏し目がちにこちらを見上げる。

 一瞬の沈黙。そして、

「お、おおはよう柊。しづめさんが朝食の支度をしてくださっているわ」

 精一杯の普段通りを振る舞った言動だった。

「うん、おはよう千代。」

 自分も精一杯のいつも通りの自分を演じる。少し離れて腰掛けると、ふわりと石鹸の匂いがした。きっと朝一番で穢れを落とそうとしたのだろうと思った。

 しづめさんが普通に朝食の支度をしているということは、千代子は昨夜のことを誰にも言わなかったのだろうか。久間家のお嬢様にそんなことをして許されるわけがないのに。

「ねぇ、千代。俺さ」

と言いかけたところで千代子が口を開く。

「今日は昨日の死人のことについて青桐さんとお坊様に伝えなければならないわね。」

「う、うん。あのね、千代。俺はもう」

「なんですか!何かありましたか!…一緒にいられなくなるような何かはありませんでした」

顔を真っ赤にし、目線を逸らしながらもハッキリと言い放った。正直驚いた。千代子がこんなに察しの良い子だったなんて。

千代子の隣へ身体をずらす。

「千代、俺のこと許してくれるの?」

顔を覗き込むと顔を逸したまま、

「私たちの間に許すも許されるもないわ」

と答えてくれた。

 その答えに胸が熱くなり、吐きそうな程に満たされた気持ちになる。千代子はこんなに穢くて賎しい俺を知っても尚必要としてくれるんだ。

 包帯で巻かれた首元をそっと撫でる。千代子は小さく身体を震わせる。

「ありがとう千代。俺嬉しいよ。」

笑いかけると千代子の顔が驚いたように俺を見上げた。

 誰かの足音が近づく。

「何やってんで、旦那」

カガが珈琲を2つ運び俺の前に置いた。

「何でもないよ」

千代子は穢い俺でも受け入れてくれることがわかった。そして千代子はもう穢れてしまった。他者から守る必要はあれど、もう俺から守る必要はないよね。どうせ穢れてしまったのならば、全て俺の穢れで染めてしまおう。

 珈琲を一口、ごくりと喉を通した。



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幾年のこひ~千代に八千代に~ 久間ねねこ @kumaneneko

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