つばめだに見舞へ病みふすひとのかど

【読み】

つばめだにみまへやみふすひとのかど


【季語】

つばめ(燕)〈春〉


【語釈】

だに――①仮定・意志・願望・命令などの表現を下に伴って、取り上げた事柄が最小限であることを強く示す。せめて……だけでも。②軽い事柄をあげて他のより重い事柄のあることを類推させる意を表す。……さえも。……でさえ。……だって。

[デジタル大辞泉]


【大意】

せめてツバメだけでも(文字通り)見舞ってほしいものである。病床に臥せっているひとの家を。


【付記】

近年のひとは薄情だと簡単には言えない。しかし個人主義が世を席巻して、従前のような濃密な人間関係を期待することは難しくなったと言えるのではないか。ヒトが見舞いに来てくれることに期待できない以上、小鳥などがたまたま軒先に立ち寄るのを待つばかりである。


なぜ病人などを慰問することを「見舞う」というのであろう。あるいは「見回る」などが変形したものか。


まったくの余談だが、当文章を執筆中に、「潮」は朝しお、「汐」は夕しおであると知った。まったくの盲点であった。


【例歌】

人はいさ心もしらずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける 紀貫之


岩の上に小猿米焼く米だにもげて通らせ山羊かましし老翁をぢ

三輪山をしかも隠すか雲だにも心あらなも隠さふべしや 額田王ぬかたのおおきみ

風をだに恋ふるはともし風をだにむとし待たば何か嘆かむ 鏡女王かがみのおおきみ

恋ひ恋ひて逢へる時だにうつくしき言つくしてよ長くと思はば 大伴おおともの坂上郎女さかのうえのいらつめ

追風にやへの潮路を行く舟のほのかにだにもあひみてしかな


【例句】

薬飲むさらでも霜の枕かな 芭蕉

病雁の夜寒よさむに落ちて旅寝哉 同

あさがほや是も又我が友ならず 同

旅に病で夢は枯野をかけ廻る 同

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