【約1,100文字】うぐひすの声のかそけき朝明かな

【読み】

うぐひすのこゑのかそけきあさけかな


【季語】

うぐひす(鴬)〈春〉


【語釈】

かそけし(幽し)――光・色や音などがかすかで、今にも消えそうなさま。

[デジタル大辞泉]


朝明――(「あさあけ」の変化した語)夜が明ける時分。夜明け方。あさあけ。多く歌語として用いられる。

[精選版 日本国語大辞典]


【大意】

ウグイスの鳴き声が消え入るようにかすかに聞こえる夜明けよ。


【付記】

春は曙という。それを大伴家持(717/718-785)の「春愁三首」と併せたふうである。あらゆる独創は既存のものの組み合わせであるとも聞くが、問題は独創性をみとめられるくらいにうまく合体させられたかどうかである。


「朝明」は「夜明け」にほぼ同じであろう。比重を朝におくか夜におくかという気持ちの問題かと思う。


【例歌】

春の野に霞たなびきうら悲しこの夕影にうぐひす鳴くも 大伴家持

わがやどのいささ群竹むらたけ吹く風の音のかそけきこのゆふへかも 同


秋立ちて幾日いくかもあらねばこの寝ぬる朝明の風はたもと寒しも 安貴王

けさの朝明雁かりさむく聞きしなヘ野辺の浅茅あさぢそ色付きにける 聖武天皇

あしひきのきぎしなきとよむ朝明の霞見れば悲しも 大伴家持

わがせこが朝明のすがたよく見ずて今日の間を恋ひ暮すかも 作者不詳

このころの秋の朝開に霧隠り妻呼ぶ鹿の声のさやけさ 作者不詳

朝烏早くな鳴きそ吾が背子が朝明のすがた見れば悲しも 作者不詳

物思ふとねず起きたる朝明にはわびて鳴くなり庭つ鳥さへ 作者不詳


【例句】

鴬も笠きていでよ花の雪 利休

おのづから鴬籠や園の竹 望一もいち

藪医師や鴬啼いて捨枕 調古

鴬や下駄の歯につく小田をだの土 凡兆ぼんちょう

鴬や餅に糞する縁の先 芭蕉

鴬や竹の子藪に老を鳴く 同

鴬に又来て寝ばや寝たい程 惟然いぜん

鴬や弓にとまりてのりの声 嵐雪らんせつ

鴬や二升五合の藪年貢 曲翠きょくすい

竹と見て鴬来たり竹虎落たかもがり 其角きかく

うぐひすにこの芥子酢からしずはなみだかな 同

鴬も笠着てあがれ小屋のやね 北枝ほくし

茶の花や鴬の子のなき習ひ 浪化ろうか

法華経は仏が先かうぐひすか 亀洞

うぐひすや山は音羽おとはの遅朝日 貞佐ていさ

普請場ふしんばにうぐひすなくや朝日和 芙雀ふじゃく

鴬の小がろきなりややぶ椿 微房

鴬や尻をもためずいとまごひ 計徒

谷川やうぐひすないて鮠二寸 水颯

今朝なりけり鴬雑煮霞礼かすみふだ 一鉄

鴬や名は雲雀ひばりより上になく 也有やゆう

鴬の其手はくわぬ小春かな 同

うぐひすや黒木になく八瀬やせの里 存義ぞんぎ

うぐひすや蓋はねのけて筥根山はこねやま 同

鴬の目には籠なき高音たかねかな 太祇たいぎ

鴬や野中の墓の竹百竿ひやくかん 蕪村

冬鴬むかし王維が垣根かな 同

人間に鴬啼や山ざくら 同

鴬の声白梅紅梅か 青蘿せいら

鴬の静かに啼くや朝の雨 成美せいび

黄鳥うぐひすの引て出たり田毎の日 蒼虬そうきゅう

くはの柄に鴬鳴くや小梅村 一茶

鴬の茶畠に鳴く四月かな 船山

鴬を飼ひて床屋の主人哉 夏目漱石

鴬やうた中山なかやま清閑寺 藤野ふじの古白こはく

鴬や梅の根岸のぬかり道 同

町内の鴬来たり朝桜 泉鏡花

鴬や茜さしたる雑木山 芥川龍之介

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