【約1,200文字】この冬があればこそ咲けうめの花

【読み】

このふゆがあればこそさけうめのはな


【季語】

冬〈冬〉


【大意】

この冬があればこそウメの花も咲くのである。


【付記】

与謝蕪村(1716-1784)の句の本句取りである(例句に後述)。十七文字のうちただの四文字しか違わない。そのひとの句のなかでもっとも人口に膾炙したものがどれかわからないが、その句はもはや格言になっている。ふるい句が格言化したものは他にもいくつかある。


「うめ(梅)」は春の季語である。標題の句のように、一句のうちに季の異なる複数の語句をふくむことを「季違い」と称して現在は一般に忌むべきものとされているようである。


なお、俳句や和歌においては単に「梅」といえば白梅をさし、「紅梅」とは区別するならわしであった。句における「白梅」の標準的な読み方はシラウメかと思う(「紅梅」はコウバイ)。


【例句】

この泥があればこそ咲け蓮の華 蕪村


香は四方よもに飛び梅ならぬ梅もなし 貞徳ていとく

浪速津なにはづにさく夜の雨や梅のはな 宗因そういん

梅の花になひおこせよ植木売 西鶴

灰すてて白梅うるむ垣根かな 凡兆ぼんちょう

此梅に牛も初音となきつべし 芭蕉

旅がらす古巣はむめに成にけり 同

まづ祝へ梅を心の冬籠り 同

梅椿早咲き褒めん保美ほびの里 同

のうれんの奥物ぶかし北の梅 同

梅の木に猶やどり木や梅の花 同

梅若菜鞠子まりこの宿のとろろ汁 同

春もややけしきととのふ月と梅 同

梅が香にのつと日の出る山路かな 同

しんしんと梅散りかかる庭火かな 荷兮かけい

初寅や道々匂ふ梅の花 言水ごんすい

桜まで曙いくつ梅の宮 同

高潮や海より暮れて梅の花 去来きょらい

白雲の竜をつつむや梅の花 嵐雪らんせつ

鬱として嵯峨は竹あり梅の花 才麿さいまろ

たたく時よき月見たりママめの門 其角きかく

山里や井戸のはたなる梅の花 鬼貫おにつら

むめが香の畳に渡る月夜哉 露川ろせん

梅が香に鼻うごめくや猫の妻 史邦ふみくに

たて横の川や野梅のうめの枝くばり 素覧そらん

梅咲いて朝寝の家となりにけり 沾州せんしゅう

金物かなもののひかりに寒し梅の花 寂芝

あら土の畑にちるや梅の花 浪化ろうか

むめがかや土気もとれず活大根いけだいこ 此筋しきん

手水場てうづばのまだほのぐらし梅の花 嵐青らんせい

梅が香や隣は荻生をぎふ惣右衛門そうゑもん 作者不詳

梅が香や鶏出る宿はづれ 我峰

矢場もまだ片肌寒し梅のはな 也有やゆう

咲いてゐる梅にもあふや寒念仏かんねぶつ 太祇たいぎ

春もやや遠目に白しむめの花 同

虚無僧のあやしく立てり塀の梅 同

ぬす人の梅やうかがふ夜の庵 同

ちる螺鈿らでんこぼるるしよくの上 蕪村

しら梅に明る夜ばかりとなりにけり 同

山陰やまかげや煙の中に梅の花 闌更らんこう

夕暮や飼ひ猿下りて梅の月 同

暮るる日や庭の隅よりうめの影 樗良ちょら

つぼみたる玉も匂ふや臥竜梅ぐわりようばい 珪峨

かつしかの香や行とどく梅の時 晩得ばんとく

白梅の大げしきなる野中かな 士朗しろう

鴬も啼たいままの野梅かな 小春

早梅さうばいの匂ひは年の飛脚哉 錦水きんすい

しらうめやまだ風あらき岩の注連しめ 蒼虬そうきゅう

雪とけたばかりの庭や月と梅 同

梅がかに障子ひらけば月夜哉 一茶

さくやせうじに猫の影法師 同

梅さくや手垢に光るなで仏 同

梅見客つとは亀戸のしじみかな 馬琴

梅が香や雪の箕輪みのわ女駕をんなかご 機夕

梅が香の来てはうごかす灯かな 穂積ほづみ永機えいき

夕月や納屋なやうまやも梅の影 内藤鳴雪

野の梅や手折たをらんとすれば牛の声 同

山伏の並ぶ関所や梅の花 夏目漱石

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