野田のふぢ太閤様のしつぽかな

【読み】

のだのふぢたいかふさまのしつぽかな


【季語】

野田藤〈春〉


【語釈】

野田藤――フジのこと。藤の名所である野田(大阪市福島区野田)にちなむ名。

[デジタル大辞泉]


太閤(大閤)――①摂政・太政大臣に対する敬称。のち、関白辞任後も内覧の宣旨を受けた人、または関白の位を子に譲った人の称。②豊臣秀吉のこと。

[デジタル大辞泉]


【大意】

太閤様がしっぽを出す野田のフジの花房である。


【付記】

豊臣秀吉(1537-1598)は主君の織田信長(1534-1582)にサルと言われていたという。秀吉にゆかりがあるのある野田のフジの花房をそのしっぽに見立てた。


いまはそうでもなかろうが、往時はフジに藤原氏の影がついてまわったことであろう。


特に前近代には、豊臣秀吉を太閤(様)と言ったり、徳川家康(1543-1616)を神君といったり、紀貫之(?-945)を幼名とされる「阿古久曾(あこくそ)」と呼んでみたりと、(成人後の)実名を出すことを避ける風習があったとみえる。わたしにはそれが何とはなしに好ましい。


余談だが、わたしはシラフジを見たことがない。ついでに言うとシラハギも見たことがない。


【例歌】

藤波の花は盛りになりにけり奈良の都を思ほすや君 大伴四綱おおとものよつな

恋しけば形見にせむと我がやどに植ゑし藤波今咲きにけり 山部赤人

多祜のうらの底さへにほふ藤波をかざして行かむ見ぬ人のため 内蔵くらの縄麻呂なわまろ

藤波の繁りは過ぎぬあしひきの山ほととぎすなどか来鳴かぬ 久米くめの広縄ひろなわ

わがやどにさける藤波立ち帰りすぎがてにのみ人の見るらん 凡河内躬恒おおしこうちのみつね

ゆく月日おもほえねども藤の花見れば暮れぬる春ぞしらるる 紀貫之


【例句】

関越えてここも藤しろ三坂かな 宗祇そうぎ

藤棚や池にうかべるはないかだ 宜陳

水影やむささびわたる藤の棚 其角きかく

狼のによろりと出るや藤の花 荒雀

藤の花雲のかけはしかかるなり 蕪村

しら藤や奈良は久しき宮造り 召波しょうは

なつかしき湖水の隅やふぢの花 同

藤咲て田中の松も見られけり 几董きとう

藤咲くや遠山うつす池の水 井月せいげつ


夜あらしや太閤様の桜狩 園女そのめ

加茂堤太閤様のすみれかな 蕪村

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