蚊帳つりてわが家ならざるごときかな

【読み】

かやつりてわがやならざるごときかな


【季語】

蚊帳〈夏〉


【大意】

蚊帳を釣って自分の家ではないようになるのであった。


【付記】

1960年代ごろまで蚊帳は夏の夜の風物詩であっただろう。蚊帳はちゃぶ台が普及するはるか以前の中近世から必需品になっており、「伝統」なる概念を認めるとすればさしずめ「伝統のなかの伝統」である。


わたしは蚊帳のなかで寝た経験がないばかりか、昭和の時代を活写したという(漫画が原作の)『サザエさん』においてすら蚊帳をみた記憶がない。わたしの記憶にはないが、スタジオジブリのアニメーション映画『火垂るの墓』や『となりのトトロ』では蚊帳が見られるという。いまや蚊帳はすたれて「蚊帳の外」なる慣用句だけが残ったようである。


そんなだから、カーテンなしで夜を過ごしたりさるアニメで見たりした最近の経験から類推して言うのだが、蚊帳を釣って寝ると自分(たち)が世界から切り離されたような、非日常的な気分になるだろうと考えた。かつては間違いなく日常だったにしても、特に童心のうえにはそれに新鮮味を添える大道具であっただろう。この世界は異世界ではなく魔法のような便利な技術はないものの、古今の文明の利器を侮るには当たらないように思う。


なお、蚊帳の第一の名産地は近江とされ、色は萌黄(萌葱)が標準的だったようである。また、紙製の紙帳は防寒の目的でも用いたという。

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