【約1,300文字】猛禽の名のむづかしきかれ野かな

【読み】

まうきんのなのむづかしきかれのかな


【季語】

かれ野(枯野)〈冬〉


【語釈】

猛禽――鳥獣類を主食とする鳥類の総称。上嘴の先端が鉤状に鋭く下曲し、強く曲がった鋭い爪をもち、獲物を引き裂いて食べる。この特徴をもつタカ目とフクロウ目の鳥を合わせたものの称として用いられることが多い。ただし、この両者の中には魚を主食とする種や腐肉を主食とする種もあり、小形種は大形昆虫を主食とすることが多い。また、この両者以外にも、モズ類などのように猛禽としての嘴・爪・習性をもつ鳥があり、これらをも含めていう場合もある。猛禽類。猛鳥。

[精選版 日本国語大辞典]


【大意】

そこに来る猛禽の名前が判然としないかれ野である。


【付記】

辞典に総称とあるように、「猛禽」とは系統分類上の一群ではない。猛禽には、ワシ、タカ、ハヤブサ、フクロウ、ミミズクやモズが含まれる。一般的にタカ目のうち大型のものをワシ、小型のものをタカと言うようである。「ワシ」と「タカ」が英語の'eagle'と'hawk'とにどれほど一致するかわたしにはわからない。


生物界最速の飛行速度を有するというハヤブサや同じハヤブサ科のチョウゲンボウはタカ目とされていたが、近年の遺伝子の解析の結果インコやオウムに近縁であることが判明したと聞く。


フクロウ科の鳥うち、「耳」を持つものがミミズク、持たないものがフクロウである。


標題の句は、枯野に猛禽がいるが、鳥のことに明るくない身のこととてその名前がわからないという状況である。タカのなかには標準和名に「タカ」の名を持たないものもあり、逆にハヤブサ科のチョウゲンボウのように「馬糞鷹」なる異名を持つ例もある。


なお、「鷲」は冬、「鷹」は冬、「鶚/雎鳩(みさご)」は冬、「鳶(とび)」は無季、「隼」は冬、「梟(ふくろふ)」は冬、「木菟(みみづく/づく)」は冬、「鵙/百舌/百舌鳥(もず)」は秋の季語のよし。


【例句】

ししくふたむくいぬは鷹の餌食かな 勝興

鷹一つ見付けてうれし伊良古崎いらごさき 芭蕉

いらご崎似るものもなし鷹の声 同

夢よりもうつつの鷹ぞ頼もしき 同

鷹の巣に初雪白し岡の松 許六きょりく

それ鷹の鈴振廻るみぞれかな 正秀まさひで

珍しき鷹わたらぬ対馬船 其角きかく

青雲や鷹の羽せせる峯の松 鬼貫おにつら

秋篠の雪ほの白し鷹の鈴 支考しこう

朝鷹のぬれて出るや花の中 同

夏山や雲井をほそる鷹の影 同

雪ちるや鷹すえながら酒のかん 北枝ほくし

しぬるまでみさを成らん鷹のかほ 旦藁たんせん

聞初ききそめて忘ぬ物ぞ鷹の風 宋屋そうおく

鷹がりや君待きみまつ霜の武者震ひ 蓼太りょうた

鷹の眼の水にすはるや秋のくれ 暁台きょうたい

あら鷹や山を出羽いではの朝曇り 同

鷹来るや蝦夷を去る事一百里 一茶

鷹それし木のつんとして月よ哉 同


波こえぬちぎりありてやみさごの巣 曽良そら

秋風にしら波つかむみさご哉 闌更らんこう


鳶の羽もかいつくろひぬはつしぐれ 去来きょらい

蛙なく田のいなづまや鳶の影 野坡やば

五月鳶さつきとび啼くや端山の友くもり 同

春雨や背戸の立木に鳶の声 自来

二里程は鳶も出て舞ふ汐干哉 太祇たいぎ


梟やぬくぬくとして春のかほ 乙訓おとくに

梟にあはぬ目鏡や朧月おぼろづき 其角

辻堂にふくろ立込む月夜かな 丈草じょうそう

ふくろふも立のく花の夜明哉 浪化ろうか

ふくろふの猶ふくるるや青あらし 諷竹らんちく

梟の梢をかえて啼夜かな 長翠ちょうすい


木菟や上手に眠る竿の先 一茶


百舌鳥なくや入日さし込む女松原めまつばら 凡兆ぼんちょう

どかぶりの跡はれ切るや鵙の声 史邦ふみくに

なくや夕日の残る杉の末 也有やゆう

古寺や野は黄昏れて百舌鳥の声 蘇山人そさんじん

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