憎かりしねこさへしのぶ蒲団かな
【読み】
にくかりしねこさへしのぶふとんかな
【季語】
蒲団(布団)〈冬〉
【大意】
ふとんのなかにいると、憎たらしかったネコさえ懐かしく思いだすことである。
【付記】
飼いネコが蒲団のなかにもぐり込んでくるのはよくあることらしい。夜行性といえど、南国に出自をもつネコがいささか冷えこむ日本の冬を越すためには合理的な行動なのであろう。
ネコの飼育には育児にも通じる苦労があることと想像する。アレルギー持ちならずとも、糞尿にまつわる問題、ところかまわぬ爪研ぎ、睡眠の妨害、キーボードの占領、エサの選り好み、体調不良、脱走等、いまは飼っていない人間でさえ要らぬ心配をしてしまうほどである。そんな生き物と過ごした受難の日々をなつかしむ夜があるとすれば、憎んでいるうちが華であると結論しても大きくは間違っていないのではなかろうか。
ここに「蒲団」とあるのは、こたつぶとんとも読めるかと考える。ただし、座蒲団とするのはさすがに苦しかろう。
ところで、わたしは助動詞の「き」(ここでは連体形で「し」)の扱いに慎重な自覚がある。その理由のひとつは、いまの世に過去とされているものの多くが、往時の基準では現在の範疇にはいる気がすることである。すなわち、過去とは単に現在よりまえの謂いではなく、現在との関係により認定されるところのものである気がしてならない。
ここにひとつ譬話をしたい。「チューリップが咲いた」と言うとき、それが「咲いた」のはたしかに過去のことかもしれない。しかし、それを件の助動詞(だけ)を用いて言うと、それはすでに枯れているとの暗黙の了解が生じたのではないか。話しはもどるが、わたしは「死」を、それを「過去」にするもっとも典型的な事象と思っている。
【例句】
ひごろ憎き烏も雪の朝哉 芭蕉
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