ねことゐてうきよ語らん月のまへ

【読み】

ねことゐてうきよかたらんつきのまへ


【季語】

月〈秋〉


【語釈】

うきよ(浮世/憂き世)――①仏教的厭世観から、いとうべき現世。つらいことの多い世の中。無常のこの世。②死後の世に対して、この世の中。現実生活。人生。③つらいことの多い男女の仲。 ④定めのない、はかない世の中。はかない世なら、浮かれて暮らそうという俗世の気持ちを含む。⑤遊里。また、遊里で遊ぶこと。 ⑥他の語の上に付いて、当世風・今様の、または好色・風流などの意を表す。

[デジタル大辞泉]


【大意】

ネコと共にいて、この世について語り合いたい秋の夜の月のまえである。


【付記】

李白(701-762。字は太白)の「月下独酌」と似通った趣向である。李白が月とみずからの影を飲酒の友としたように、わたしはみずからの独言をネコに聴いてもらって対話としたいと言った。もとよりネコは人語を解すまいが、それはこの際問題ではない。それをつねに問題にしていたら、夏目漱石(1867-1916)の『吾輩は猫である』など生まれないことわりである。


和語の「うきよ」は広範におよぶ概念をもつものであり、漢語の「浮世」と同様に語れるものではない。標題の句においては、上記の②、③あたりにさしあたり該当しそうである。わたしは仏教徒ではなく(少なくともそうなった記憶はない)、秋の月夜を浮かれて過ごすほど享楽的でもない。ネコが人語を解するとすれば、わたしは②の意味でつかい相手は③の意味で受けとるといった事態も想定できよう。


何かといえばネコを詠みたがるのはわたしの悪癖である。ヒトにはほとほと愛想がつきたというでもないが。


【例句】

父ありて明ぼの見たし青田原 一茶

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