すき腹にせみの音ひびくあつさかな

【読み】

 すきはらにせみのねひびくあつさかな


【季語】

 せみ(蝉)・あつさ(暑さ)〈夏〉


【語釈】

 すき腹(空き腹)――(「すきばら」とも) 食べ物が何も入っていない腹。腹のへっていること。くうふく。すきっぱら。[参考:精選版 日本国語大辞典]


【大意】

 からっぽの腹にせみの鳴き声がひびく暑さよ。


【附記】

 冬の寒さもそうだが夏の暑さもやはりかなわない。どちらがましかを考え出すと際限がなさそうだが、虫が嫌いなひとには秋の到来が心底待たれることであろう。


【例歌】

 石走いはばしる滝もとどろに鳴く蝉の声をし聞けばみやこし思ほゆ 大石簑麻呂

 夏深き杜の梢にかねてより秋をかなしむ蝉の声かな 寂蓮じゃくれん

 雲井までひびきやすらん夏山の峰より高き蝉の諸声もろごゑ 藤原有家

 坐りゐて耳にきこゆる蝉のこゑ命もつもののなどか短き 島木赤彦

 蝉時雨せみしぐれながらふ聴けば母の手の冷たき手触てぶみにおもほゆ 北原白秋


【例句】

 やがて死ぬけしきは見えず蝉の声 芭蕉

 閑さや岩にしみ入蝉の声 同

 草蒸して蝉のとりつく鳥居かな 言水ごんすい

 蝉鳴くや秋の近さも一里塚 也有やゆう

 半日の閑を榎やせみの声 蕪村

 鳥稀に水また遠しせみの声 同

 蝉なくや行者の過る午の刻 同

 立枯れの木に蝉なきて雲のみね 同

 せみの声茶屋なきそまを通りけり 召波しょうは

 はつせみや初瀬の雲の絶え間より 暁台きょうたい

 降晴て杉の香高し蝉の声 白雄しらお

 松風の絶へ間を蝉のしぐれかな 夏目漱石

 門外の潭や幾樹の蝉時雨 芥川龍之介


 空腹に雷ひびく夏野かな 一茶

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