蚊遣火にすずしさつくす民家かな

【読み】

 かやりびにすずしさつくすみんかかな


【季語】

 蚊遣火・すずしさ(涼しさ)〈夏〉


【語釈】

 蚊遣火――蚊を追いはらうためにいぶす火。かやり。かいぶし。[参考:精選版 日本国語大辞典]


【大意】

 蚊遣火にすずしさをつくす民家であることよ。


【附記】

 「空腹は最高のスパイス」ではないが、熱いものこそが却って涼しさを呼ぶのだとの仮説である。

 昭和のようないわゆる「古きよき時代」への郷愁もある。むかしはよかったと思うのは変化を厭う人間の性であろう。


【例歌】

 山がつの蚊遣火たつる夕暮もおもひの外にあはれならずや 式子内親王


【例句】

 旅寝して香わろき草の蚊遣かな 去来きょらい

 三日月にふすりのかかる蚊遣かな 野紅やこう

 弘法を狸にしたる蚊遣かな 支考しこう

 あさがほや宵のかやりの焼ぼこり 昌房しょうぼう

 ほろりとも降らで月澄む蚊遣かな 焦桐

 かやり火や窓にさしこむ月の影 蘆文

 雪隠せつちんの小城を責る蚊遣り哉 也有やゆう

 蚊はこちへはいる隣のかやり哉 同

 いざさらば蚊やりのがれん虎渓まで 蕪村

 腹あしき隣同士のかやりかな 同

 いとまなき身にくれかかる蚊やり哉 同

 蚊遣火のけぶりの末に鳴く蚊かな 白雄しらお

 蚊はつらく蚊遣いぶせき浮世かな 几董きとう

 秋たつやよひの蚊遣の露じめり 同

 宿かさぬ主人つれなき蚊遣哉 湖陸

 夕月の正面におく蚊やり哉 一茶

 たなびきて跡なき須磨の蚊遣かな 梅室ばいしつ

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