わがこころひとに見せたし五月雨

【読み】

 わがこころひとにみせたしさつきあめ


【季語】

 五月雨〈夏〉


【語釈】

 五月雨――「さみだれ」に同じ。陰暦五月ごろに降りつづく長雨。梅雨。つゆ。[参考:デジタル大辞泉]


【大意】

 (鬱屈とした)このわたしの心のうちをひとに見せたい梅雨の日である。


【附記】

 やるせない思いに沈んでいるのがこの世にわたし一人のはずもないが、やりきれない思いはひとに聞いてもらうのが最良のくすりと心得る。

 わたしがこの句をつくった2021年5月21日は旧暦の四月(卯月)十日らしく、「五月雨」は創作上の虚構と言える。枝葉末節にこだわらないのがわたしの創作における態度である。


【例句】

 五月雨さみだれに火の雨まじる蛍かな 守武もりたけ

 五月雨に家ふり捨てなめくじり 凡兆ぼんちょう

 海山に五月雨添ふや一とくらみ 同

 五月雨や桶の輪きるる夜の声 芭蕉

 五月雨ににほの浮巣を見に行む 同

 五月雨の降り残してや光堂 同

 五月雨をあつめて早し最上川 同

 さみだれや蚕煩ふ桑の畑 同

 さみだれやつきあげ窓の時明り 曽良そら

 さみだれの尻をくくるや稲びかり 去来きょらい

 五月雨にしづむや紀伊の八庄司 同

 湖の水まさりけり五月雨 同

 つづくりもはてなし坂や五月雨 同

 さみだれや蚯蚓みみずの徹す鍋のそこ 嵐雪らんせつ

 里の子の五月雨髪や田植笠 許六きょりく

 五月雨や桃の葉寒き風の色 才麿さいまろ

 五月雨やすしの重しもなめくじり 鬼貫おにつら

 さみだれに小鮒をにぎる子共哉 野坡やば

 五月雨の仕舞は竹に夕日哉 支考しこう

 五月雨やふり草臥くたびれし空のいろ 木導もくどう

 咄しさへうちしめりけり五月雨 同

 五月雨や合羽かつぱの下の雨いきり 北枝ほくし

 五月雨に船で恋するすずめかな 助然じょねん

 さみだれや植田の中のかいつぶり 泥足でいそく

 さみだれや風つれて来て戸をたたク 吾仲ごちゅう

 五月雨に隣も遠く成にけり 如行じょこう

 牛流す村の騒ぎや五月雨 諷竹ふうちく

 五月雨の晴間を不二の雪見かな 存義ぞんぎ

 五月雨や田舟の中になく蛙 同

 さみだれや夢かとおもふ宇津の山 同

 さつき雨田毎の闇となりにけり 蕪村

 さみだれや大河を前に家二軒 同

 紙燭しそくして廊下よぎるやさつき雨 同

 五月雨や三味線かぢるすまひ取り 大魯たいろ

 さみだれやけぶりの籠る谷の家 白雄しらお

 さみだれの空や月日のぬれ鼠 几董きとう

 五月雨盛りいちごの雫かな 留里

 挑灯てうちんの底ぬかしけり五月雨 鳳朗ほうろう

 五月雨の竹に隠るる在所哉 一茶

 五月雨や夜の山田の人の声 同

 五月雨や猫かりに来るふねの者 卓池たくち

 五月雨や庭を流るる竹の皮 吟江ぎんこう

 五月雨や蘆の上行く淀の舟 太無

 五月雨の狐火うつる小窓かな 内藤鳴雪

 五月雨や月夜に似たる沼明り 小川芋銭おがわうせん

 温泉烟ゆけむりの田にも見ゆるや五月雨 河東碧梧桐

 五月雨や尾を出しさうな石どうろ 泉鏡花

 五月雨や泪羅べきらの水のうす濁り 羅蘇山人

 五月雨や雨の中より海鼠壁 芥川龍之介

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