川底にながれもあへぬ月さむし

【読み】

 かはぞこにながれもかへぬつきさむし


【季語】

 さむし(寒し)〈冬〉


【大意】

 川底にながれかねている月の寒々しいことである。


【附記】

 純然たる叙景の句である。もっとも、いつの世にもそうした作品に裏の意味を見出そうとするひとがいるものにちがいない。


【例句】

 さむくともひになあたりそ雪仏 宗鑑そうかん

 かゆ煮たる鉢のこ寒し棚の隅 智月ちげつ

 底寒く時雨しぐれかねたる曇りかな 猿雖えんすい

 貧山の釜霜に鳴く声寒し 芭蕉

 水寒く寝入りかねたるかもめかな 同

 ねぶか白く洗ひたてたる寒さかな 同

 塩鯛の歯ぐきも寒しうをたな 同

 両の手に朝茶を握る寒さかな 杉風さんぷう

 茶をすする桶屋の弟子の寒さかな 惟然いぜん

 みあかしもこほりて寒し鳩の声 路通ろつう

 みちばたに多賀の鳥居の寒さ哉 尚白しょうはく

 世中よのなかはこれより寒しはちたたき 同

 鈴鴨の声ふり渡る月寒し 嵐雪らんせつ

 うへ竹に川風寒し道の端 土芳とほう

 使者ひとり書院へ通るさむさかな 其角きかく

 高取の城の寒さやよしの山 同

 うづくまる薬の下の寒さかな 丈草じょうそう

 井戸掘は此世の風の寒さかな 野坡やば

 一夜一夜さむき姿や釣干菜 探丸たんまる

 しかられて次の間へ出る寒さかな 支考しこう

 湖の鏡に寒し比良ひらの雪 同

 うぐひすの肝つぶしたる寒さかな 同

 鮫洗ふささらの音の寒さ哉 木導もくどう

 落葉してはらわた寒し猿の声 北枝ほくし

 鹿の影とがつて寒き月夜かな 酒堂しゃどう

 炭の火の針ほど残る寒さ哉 文鳥ぶんちょう

 深閑と星崎寒し草まくら 舎羅しゃら

 干鮭の逢坂あふさか越る寒さかな 吾仲ごちゅう

 月影に乾て寒し標冷みをつくし 乙由おつゆう

 打よする藻屑も寒し浪の跡 同

 猫のめし干からびてある寒さ哉 山店さんてん

 馬の息ほのかに寒しけさの霜 民丁

 星│とんで風の笛ふく寒さ哉 存義ぞんぎ

 引越た鍛│ママやの跡のさむさかな 也有やゆう

 易水にねぶか流るる寒さかな 蕪村

 皿を踏む鼠の音のさむさ哉 同

 真がねはむ鼠の牙の音寒し 同

 寺寒くしきみはみこぼす鼠かな 同

 痩脛やせはぎや病よりツ鶴寒し 同

 海苔一重下行く水の寒さかな 吐月とげつ

 月寒く出づる夜竹の光かな 暁台きょうたい

 まなじり比叡ひえのはなれぬ寒さかな 几董きとう

 寒き野を都にいる葱売ねぶかうり 同

 石寒し四十七士が霜ばしら 同

 白鶏の竹の中行く寒さかな 成美せいび

 本町の木戸りんとして寒哉 一茶

 元日はあらたまりたる寒さかな 卓池たくち

 のり行灯あんどんともす寒さかな 梅室ばいしつ

 筏士いかだしの丹波の寒さ語りけり 内藤鳴雪

 一つづつ寒き影あり仏達 村上鬼城

 真木割つて寒さに堪ふや痩法師 同

 弁慶に五条の月の寒さ哉 夏目漱石

 温泉をぬるみ出るに出られぬ寒さ哉 同

 暁の埋火消ゆる寒さ哉 同

 雨やみて風風やみて寒さかな 正岡子規

 電燈の木の間に光る寒さかな 同

 薪舟の関宿せきしゆく下る寒さかな 同

 汐引いて棒杭寒き入江かな 同

 物言へど猫は答へぬ寒さ哉 寺田寅彦

 禿山はげやまの月の夜すがら寒さかな 同

 門内の敷石長き寒さかな 芥川龍之介

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