旧友に会ふごとむしを聴く夜かな

【読み】

 きういうにあふごとむしをきくよかな


【季語】

 むし(虫)〈秋〉


【語釈】

 会ふごと――会う(会った)ように。

 むし――美しい声で鳴く昆虫。スズムシ・マツムシなど。[参考:デジタル大辞泉]


【大意】

 旧友に再会したような気持ちでむしのこえを聴く夜である。


【附記】

 かつて、日本人と西洋人で虫の鳴き声を聞く際に活性化する脳の部位が異なると聞いたことがある。いわく、かの国の人らはそれを雑音として処理するが我々はそうではないと。仮にそれが本当だとしたら、何ゆえそうなったのかすこし興味がある。


【例歌】

 我が待ちし秋はぬらしこの夕べ草むら毎に虫の声する 良寛りょうかん

 ともしびのきえていづこに行くやらん草むら毎に虫のこゑする 同


【例句】

 猶あはれ選り残されし虫の声 貞室ていしつ

 盆過ぎて宵闇暗し虫の声 芭蕉

 名月や籾臼もみうすやみて虫の声 朱拙しゅせつ

 屋根裏に虫の音寒し辻行燈 来山らいざん

 行水ぎやうずいの捨てどころなき虫の声  鬼貫おにつら

 窓の火や山を請込む虫の声 丈草じょうそう

 虫の音の中にせき出す寝覚かな 同

 相撲場の後ろは寒し虫の声 李由りゆう

 売家うりいへや猫も杓子も虫の声 支考しこう

 秋風に品を付けるや虫の声 北枝ほくし

 借らばやと借家に入れば虫の声 舎羅しゃら

 虫の音や火をけして寝る一重壁 巴流

 虫のねの掃れて遠し寺の庭 也有やゆう

 暁の籠をぬけけんむしの声 太祇たいぎ

 古御所や虫の飛びつく金屏風 蕪村

 月消て虫は嵐の下音したねかな 闌更らんこう

 虫なく木賊とくさがもとの露の影 樗良ちょら

 暁や雨もしきりに虫の声 暁台きょうたい

 虫聞くや子規の墓ある山続き 内藤鳴雪

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