第8話 老騎士と白い獣物と仲間の死と
目が覚めるとワシはピックルとヤニスとかいう若者と共に広間のような部屋にいた。
「突然、目の前に光が覆ったと思ったらな…なんじゃここはさっきとは別の場所ではないか」
「ずいぶんと広く豪華な部屋に飛ばされたみたいですね」
「チッ!ボミエとはぐれちまったじゃねぇか、」
そんなヨハン達の目の前にマリーヌが姿を現した。
「アラアラ仲間割れかしら———そんなんじゃこの
マリーヌはバキバキバキバキと音を立てて異形の姿へと変化しようとしている。身体が大きくなり目と体毛がボロボロと抜け落ち、真っ白く太い足と長い爪と牙を持った姿に変わっていった。
「ギアァァァアア――!!」
白い化け物となったマリーヌから獣物のような咆哮が腹の底から噴出した。それは聞く者の肌の毛が一斉に立つような叫び声が響き渡ると殺気が巻き散らかされ、ビリビリと空気が振動する。
それは彼女にとって血祭りを始める瞬間の号砲だった。目の前にいる獲物に向かって………
「
マリーヌは魔法でヨハン達を強引に引き寄せようとするがピックルが防御魔法を展開して必死に
「オイお前ら絶対ここから出るんじゃねぇぞ!」
突然、マリーヌが目の前に現れ、恐竜のような口を開けて来たが防御壁に阻まれてた。
「だ……誰か助けてくれえぇぇぇぇぇっ!」
ヤニスは恐怖のあまりに自制心を失い防御壁から抜け出し、泣きながら走り出してしまった。
「バカ、防御壁から出るな! 喰われちまうぞ」
マリーヌはヨハン達に目もくれずに4本の足で駆け出し、まるで獲物の場所を認識している猟犬のように迷いの無い走りでヤニスを追いかけて行った。
「オイ爺、お前なんで止めなかったんだよ」
「あんなの追えるわけないわい」
マリーヌがヤニスをくわえたまま戻って来た。
ヤニスの両足は踏みつけられたのかあらぬ方向に捻じ曲がってしまった。
「助けて… ローグフェルドさん何で助けに来てくれないんだ……死にたくにゃい…… 死にたくにゃい……たしけてくだひゃ……い」
マリーヌはそのままヤニス頭を噛み砕いた。
「——っ!!」
断末魔すら上げられずに頭部を粉砕されたヤニスの足がビクビクと痙攣している。マリーヌはその鋭い爪で死骸を突き刺しガリッボリッグチャと事切れた彼の肉を生々しい咀嚼音を響かせながら喰らってゆく。
「グウゥゥゥ……ウ」
ヨハンはあまりに醜悪なマリーヌのその姿に、あまりの連続した恐怖に、そしてヤニスだったものを咀嚼しながらも聴覚と嗅覚を頼りにヨハンに向かって笑みを浮かべた。その眼球なき視線に射すくめられたヨハンは捕食者の鋭い威圧を向けられ恐慌に陥った。
「ひいぃぃっ————!」
その時、背後からヨハンの足を思いっきり蹴った者がいた。ずっと隣にいたピックルである。
「オイバカ爺、お前あんなのにビビってんじゃねぇ
気合いと根性で切り抜けるんだよ。」
「えっう…うむそうじゃが?」
「いいか自分を見失うな、常に冷静でいろ。じゃなきゃ向こうの思うツボだぞ。アタシには待ってるヤツがいる……そいつのために絶対にコイツを倒してアイツの元へと帰るんだ。」
ピックルは防御魔法の詠唱をするとその横でヨハンは僅かに身構え、踏み込むと同時にマリーヌの巨体に斬りかかって行ったが前足の爪で受け止められ、後ろ足で蹴り飛ばされ壁に当たって倒れ込んだ。
「クソが、
ピックルは魔法を唱えると彼女の周りに壁が出来たがマリーヌは4本の足で勢いよく駆け出して来た。巨体を生かした体当たりを何度も何度も繰り返され
魔法壁にビキビキとヒビが入っていった。
「そんな、ウソだろオイ?」
マリーヌの爪が魔法壁を突き破り、そのままピックルの腹を貫いた。
「て…てめえよくも……よくもやりやがったな」
ピックルは腹を貫かれた状態でマリーヌの腕を持てる力一杯強く押さえた。
「うあぁぁぁっ! バカ爺、はやくしやがれ!」
瞬足一線!
ヨハンの剣は一瞬でマリーヌの首をはねた。
ヨハンはすぐに倒れ込んだピックルの所へ駆け寄った。彼女は致命傷を受けてしまったらしく回復魔法でもおそらくはもう助からない……
「あ…ううっ……ど…どうやらアタシはもう……ダメみたいだ、ボミエの事をたの…むよ!アイツああ見え……て意外にいいヤツなんだぜ……」
ピックルは最後に一言言い残して息を引き取った。
亡国の老騎士と猫魔法士と吸血鬼の城と—— ルイカ @994-9294
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