千古不易のこの世界で、彼らは叫び続ける

ねも

プロローグ 叫びを知らぬ少年

 この花の種を植えたのは、僕が生まれる少し前だったらしい。

 人間は面倒臭い。怒るし、うるさいし、気を使わなくちゃいけない。だけどこっちが気を使った所で、何か見返りがある訳でもない。 その点花は何もしなくても綺麗だし、放っておいても何も言わない。ただ眺めていればそれでいいんだ。だから僕は花が好きなのだ。

 未来世紀元年1月9日、それが僕の誕生日だ。一応は誕生日というものになるらしい。ともあれ現代人にとって誕生日とはさほど重要なものでもなく、これと言って何かする訳でもない。強いていえば、ご飯がちょっと豪華になる。やったね。

れい〜! ご飯よ〜!」

 下の階から母さんの呼ぶ声がする。

「すぐ行く〜」

 適当な返事を返し、僕は手に持った文庫本を本棚にしまう。今時紙の本を読む人間など殆ど居ないのだが、僕は紙を愛している。そろそろ紙の製造が終わるなんてニュースもあるけど、まだしばらく大丈夫そうだ。

 僕はふと疑問に思った。

「今日で何歳になるんだっけ?」

 気になった事は放っておけない主義なのでカレンダーを確認する。少し前まではカレンダーも紙だったのだが、近代化の流れには逆らえずに紙のカレンダーという商品はこの世界から消滅してしまった。悲しいが受け入れなくてはならない事だ。そんなどうでもいい事を考えつつ、ホログラムカレンダーを確認する。




「未来世紀124年1月9日」

 カレンダーにはそう記されている。

「ああそうか」

 今日で僕は123歳になったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

千古不易のこの世界で、彼らは叫び続ける ねも @pdfjpg

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ