&α カーテンコールは行われず.

 体育館の照明が、すべて消えた。


 劇は、これで終わり。


 終わりだから。


 もう、泣いていいかな。


 膝から、崩れ落ちた。


 終わった。ようやく。劇が。私の、脚本が。


 スポットライト。


 私と、私の好きなひとを。彼と、彼の恋人を。


 照らす。


「わるかった。ずっと、ほうっておいて。ごめん。本当に」


 私の好きなひとが、私に、かたりかける。


 なんてこたえていいか、わからない。わからなかった。もう、泣いてしまっている。止められない。


「もういちど。好きになってくれるか。俺のことを。おれも。君のことが」


 差し出された手。そこだけが、光に照らされて、輝く。


 その手を、握った。


 後ろでは、抱きあう二人。彼と、その恋人。


 再び照明が消えて。


 拍手が。


 ゆっくりと。


 そして、次第に大きく。


 真っ暗な体育館を包んだ。


 暖かい気持ち。全身を支配するこの、暖かさは。


『これにて公演は終了となります。カーテンコールは行われませんので、あらかじめご了承ください』


 一拍置いて。


『謝りたいひとには、すぐに謝ることです。以上です。繰り返します。公演は、これにて終了となります』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

演劇 春嵐 @aiot3110

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ