クライマックス

「お前らのやってることと、世界を支配する相手がやってることは、同じだ。おれたちは、同じことをしている」


「じゃあ、なぜ俺と俺の恋人は、結ばれないんだ」


「ほかのひとが、そう思ってるからだよ。自分の心を変えるのは、自分で出来る。でも、ほかのひとの心を変えるのは、自分だけでは、できない」


「だから、俺は世界をもういちど」


「ほかのひとだって、守られる対象だ。たとえ俺達を人として扱わなくたって、俺たちの友達にいじわるをしたとしても、それでもだ」


 彼の恋人が、客席を見る。女子生徒に、語りかけているのか。


「ここにいる全員が。ひとなんだ。道具じゃない。すききらいがあって、こころがある。全員だ」


 彼が。彼の恋人が。私を抱えている好きなひとが。


 私を見る。


 私の台詞。


「でも」


 全員の注目が、自分に。


「でも。それでも」


 彼の腕の中からもがいて、脱出する。


「私には無理。どんなに親切にしたって、みんな、私のことをばかにするもの」


 せいいっぱい、声と身体を張って、動く。


「私がなにをしたの。彼とは幼馴染みなだけ。そして、このひとが、好きで。それだけ。それだけなのに。なんで私が」


 涙が溢れてきたけど、こらえた。


 ここは泣くところじゃない。


「私にはいや。できない。みんながみんな、誰かのことを、許すなんて」


「ほら見ろ。これが真実だ。守れないものを守るには、それこそミサイルを落とすぐらいじゃないと、だめなのさ」


「そんなことは」


「じゃあどうしろっていうんだ」


 また、殺陣がはじまる。


 私の好きなひとが、私に近づく。


 その頬を。


 思いっきり。


 張った。


 てのひらが頬にクリーンヒットする、とても大きな音が、体育館じゅうに、響く。


「なにも言わずに、つかみかからないで」


 全員が。


 私を見る。


 そうだ。


 主人公は、私なんだ。


 私が、なんとかしなきゃ。


 私自身が、演劇のクライマックスなんだ。


「私は、いやだったら、いやって、いいます。だからみんなも、いやだったら、面と向かって、いやって言ってよ」


「でも、それじゃおれは」


「私は、あなたのことが好き。でも、みんなのためにがんばるあなたは、きらい」


 息継ぎ。


 泣くな。泣くな泣くな泣くな。


 ここは泣くところじゃない。


「私と、そう。おはなししましょ。みんな、どこか、好きで、きらいなところがある。すべてをすべて好きなんて、そんなことは、ありえないから。だから」


 涙をこらえながら。


 最後の台詞。


「ごめんなさい」


 もうひとこえ。


「だいすき」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る