第5話 青天

 目覚ましがなる。ほんの数時間前のとりまるとの会話を思い出し、思わず頬が緩む。もうすっごく楽しみだがもう期末テストまで日にちがない。今はテストに集中しよう。そう思い、気持ちを切り替えるため頬を両手で軽く叩く。よし、今日も頑張ろう。


「行ってきます」

 先ほどまで雨が降っていたのだろうか。地面が濡れている。しかし、今は青空だ。

 今日は学校に早く行きたい。

 学校につき、「おはよう」とクラスの人と挨拶をする。教室を見渡すと、とりまるは今日はちゃんと来ていた。ちょっと眠そうだ。私の視線に気づいたのだろうか、とりまるがのそのそと顔をあげる。眠そうな目がこちらを見る。今日は目をそらされなかった。

「おはよう、ポカリ」

 挨拶をされると思っていなかったので少し驚いた。

「とりまるおはよう。眠そうだね」

「ポカリは全然眠そうじゃないね。本当に大丈夫なんだ」

 とりまるは面白そうに言う。

「ちゃんと眠った方がいいよ」

「大丈夫、大丈夫。俺、授業中寝てるから」

 それ、ダメだろ。心の中でツッコミながら席に向かう。色々考えたいことはあるけど、まずは期末テストだ。今日は授業をちゃんと聞こう。とりまるとはテストが終わった日の夜に例の公園で集合することになっていた。テストが終われば夏休みで、もう楽しみばっかりだ。


 頑張ろうと決心したはずの期末テストは結局集中できなかった。出来は正直言えるようなもんじゃない。通知表は中間テストに救われた。

 でもそんなことはどうでもよくて、とりまるとの約束で頭がいっぱいだった。いつもは好きじゃない夜が今日は待ち遠しい。


 深夜零時。親が寝静まったのを確認して制服に着替える。とりまるに神様に会いに行くから正装で来てと言われたのだ。言われて見ればとりまるも会った時は制服だった。

 セーラーのスカーフを結び、髪も後ろで1つに結ぶ。準備万端。

 さあ行こう。


 公園に着くと、とりまるはもう来ていた。

「こんばんは? おはよう? 何が正しいんだろ?」

「Good night がいいんじゃない?」

「いやそれおやすみじゃん。でもまあ確かにmorningよりもeveningよりもafternoonよりもnightだねえ」

 予想外のとりまるの答えに呆れながらも、ちょっといいと思ったのは本当だ。

「本日はポカリのデビューの日なので、近い場所に行きます! お面は着いたらつけてね」

 とりまるが私の分のお面を手渡す。やっぱり真っ黒な烏のお面だった。

「師匠、よろしくお願いします」


 こうして私達の夏は始まった。

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