第4話 雨晴れ

 夜が来た。 

 お母さんもお父さんも寝たようで、私だけの時間が始まる。今日は少し肌寒い。家に何となくいたくなく、パーカーを羽織り昨日に続き、外に出る。どうやらルールというのは一回破ると破りやすくなるようだ。


 今日はちゃんと道を考えながら歩いてみた。夜の世界をもっと知りたかったのだ。

 信号を待っていると、見間違えだろうか。向こう側に烏丸くんが見えた。違う道にしよう、そう思ったら信号が変わり、どうやら私を見つけたらしい烏丸くんが走ってきた。

「またあったね帆刈さん。どうしたのこんな時間に?」

「眠れなくて」

 烏丸くんがこんな時間とか言うなよ、と思いながら深く考えずに答えた。あ、しまった。眠らないこと言っちゃった。説明するのは面倒だ。

「烏丸くんは?」

 慌てて話題を変えようと思い尋ねる。

「とりまるでいいよ。呼びやすいでしょ。立ち話も何だし、そこに公園行かない? 穂刈さんが良ければ」

 思いがけず話題をそらされ返された。何か言いたくないことでもあるのかな? 特段やることもないし、何よりとりまると話してみたくて、とりまるの提案にのることにした。

「じゃあ私もポカリでいいよ、とりまる。公園行こう」


 公園はまた一段と明るかった。ふたりでブランコに座り、テストはどこがでそうとか、夏休みどこ行くとか他愛もない話をした。

 お互いに触れられたくないようで、何でこんな時間外にいるのかは聞けなかった。見えない壁を破ったのはとりまるだ。とりまるはやっぱり眠れないというのが気になっていたのか聞いてきた。

「さっき言ってた眠れないって何か嫌なことでもあったの?」

「とりまるがこんな時間に何してたのか話してくれるならいいよ」

 適当にごまかすこともできたが、なぜかとりまるに話してみたくなって言ってみた。ちょっと意地悪だったかな。

 とりまるは少し考えると笑って言った。

「わかった。俺も話すから教えて」

「眠れないって言うのはね、嫌なことがあるから眠れないとか、今日はたまたま眠くないとかそういうんじゃなくて、ちょっと色々あって、眠らなくてもいいんだよね、私」

「ん? どういうこと?」

「えーと、だから眠らなくても眠たくならないっていうか、今まで一度も眠ったことがない」

 話してから自分が馬鹿だったと思った。こんな話信じてもらえる訳がない。私だって信じない。せっかく友達になれそうだったのにな。せめてもっと上手に説明できたらな。そう思ってとりまるを見るととりまるは意外にも羨ましそうに笑っていた。

「えーめっちゃ便利じゃん。いいな。確かにポカリが授業中眠そうなの見たことないな」

「信じてくれるの?」

「信じるよ。だってそんなことでもなきゃこんな夜に二回も会わないでしょ。」

 眠れないことがあんなに嫌だったのに、とりまるに言われると何だか眠れないことがラッキーな気がしてきた。


「じゃあ次とりまる話して。」

 照れくさくなってとりまるを急かす。

「俺はね、神様に会いたいの」

 今度は私が戸惑う番だ。どういうことだろう? そう思ってるととりまるは何やら紙を取り出して説明を始めた。

「これは、家に代々伝わる伝説みたいなもの何だけど、この地図と説明の通りにいろんな神社を巡って、そこの神社の神様が預かってくれてる家宝を全部集めると家の神社の神様が出てきてお願いごとを二つ叶えてくれるらしいんだよね」

「えーと、とりまるの家は神社なの?」

 これは重要でないとわかっていながらもどこから考えていいのかわからない。

「つっこむとこそこ?

そうだよ、俺の家は神社やってるの」

 とりまるは優しく笑いながら答えた。

「何で夜じゃないとだめなの? 家宝って何? 何を叶えたいの? 昨日のお面と関係あるの?」

 少し遅れて次々に疑問が浮かんできた。

「おうおう、めっちゃ訊くじゃん。なんかね、夜じゃないと家宝現れないらしいんだよね。他にも細かい条件が色々あって結構大変でさ。他は秘密です~」

 いたずらっ子みたいにとりまるはまた笑う。

「あ、でも、もし神様に会うのポカリが手伝ってくれるなら教えてもいいよ。もちろんタダでとは言わない。俺がお願いしたいことは一つだからもう一つはポカリが使っていいよ。どう? やらない? 俺、ポカリはぴったりだと思うんだよ。眠らなくてもいいんだろ?」

「やる! やりたい!」

 気づいたときにはそう答えてた。ちょうど夜家にいたくなくてどうしようかと思っていたところだ。こんな楽しそうな話に乗らない手はない。しかもお願いごとが一つ叶うなんて。

 不思議と突拍子もない話なのにとりまるを疑う気持ちは一切なかった。

「やったね! ありがとう」

 とりまるは満面の笑みでお礼をいい、家宝というのを見せてくれた。これで半分くらい集まったという家宝は色とりどりのきれいな小さいガラス玉のようなものでざっと五十粒くらいあり、全部に穴が空き紐が通されていた。全部揃うとネックレスになるらしい。ガラス玉は公園の街頭で薄暗いなか、月明かりに照らされて美しく輝いていた。お面は家宝を集める時につけなきゃいけないらしい。お面は烏のお面だった。

「似合う?」

 とりまるはお面をつけるときいてきた。

「うん、かっこいいよ」

 笑いながらそう返す。昨日見たときは不気味に見えたのに、今は全然そうは見えなかった。

「でしょ。じゃあこれからよろしく、ポカリ」

 とりまるがお面をはずし、照れたように右手を差し出した。

「こちらこそ」

と私も右手をだし、握手しながら微笑む。


 今日はついてない日ではないのかもしれない。帰り道、真っ黒な空に少ないながらも星を見つけながらそう思った。

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