第3話 狐日和

 学校に着くと、何となく烏丸くんを探してしまった。烏丸くんはまだ来ていないようだった。烏丸くんは来ないまま一時間目が始まった。


 寝る人。内職する人。いつも通りのみんなにどこかほっとする。授業が残り十分をきったとき、烏丸くんはやってきた。

「烏丸、遅刻しすぎ。欠課だぞ」

と先生が言う。私の学校では二十分以上の遅刻は欠席扱いなのだ。

「すみません、寝坊しちゃって」

 へらっとしながら答える烏丸くんはクラスのみんなから「とりまるー寝坊すんなよ」などとからかわれながら席に向かう。ああ、こういう人なんだ。そう思ってると思いっきり目があってしまった。気まずかったのだろうか? さっと目をそらされた。そうこうしてるとチャイムがなり、一時間目が終わった。


 高校生になり、時間が過ぎるのが早く感じるようになった。気づけば六時間目は終わっていたし、外は雨になっていた。

 結局、烏丸くんとは話さなかった。まあ目をそらされて、話しかける勇気もなかったんだけど。家に帰りたくないなと思い、友達を誘ってどこか行こうとも思ったが、生憎の雨だ。

「帰ろー」

「ごめん! 今日委員会あるから先に帰って!」

「わかった。委員会頑張って! また明日」


 今日は何だかついてない。仕方なくひとり、学校から駅へと続く坂を下る。折りたたみ傘持っててよかったな。そう思ってるとすぐ脇を誰かが走り去った。

「ばいばい」

 その人は確かにそう言った気がする。私に? 誰だかわからぬまま、反射的に挨拶を返す。

「あ、ばいばい」

 声の主がこちらを振り返る。

 烏丸くんだった。

 烏丸くんは手を振りながらすぐに前を向きまた走り去って行った。笑ってる? 雨でよくわからなかったが、一瞬そう見えた。

 そうだといいな。


 電車に乗り、最寄り駅に着くころには雨は上がっていた。 

 家にはいつも通り一番だった。

「ただいま」

 誰もいない家に声をかける。小さいときから何となくやっていたのだが、防犯にいいとテレビでやっていたのでそれ以来続けている。


 三時間くらいあとに帰ってきたお母さんは私を気遣ったのか、プリンを買ってきてくれた。お礼を伝え、プリンを食べながらさらっと昨日のことを謝った。お母さんは悪くないのに、お母さんにきっかけを作ってもらえないと謝れない自分が恥ずかしい。


 今日は疲れたな。

 自分の部屋に戻ると思わずため息をついてしまった。しかし不思議と朝より元気になった気もした。

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