さよなら、小さな扉

紫 李鳥

さよなら、小さな扉

 


 アンの誕生日に、新しいパパが庭付きのドールハウスをプレゼントしてくれました。


 白い家の庭にはピンクのバラが咲き乱れています。


「わ~、きれい」


 アンはその美しさに目を輝かせました。


 庭の日差しを浴びた窓には白いレースのカーテンがかかっていて、部屋の中を見ることができません。


 アンは小さな扉を開けました。すると、窓辺の椅子に金髪の女の子が座っていました。背を向けているので顔は分かりません。


 アンは開いた扉から手を入れると、女の子が座っている椅子をつまみ、こっちに向けました。


「アッ!」


 顔を見たとたん、アンは声を上げました。なんと、アンにそっくりだったのです。


 瞳の色も、髪の色も、リボンの色までも。


「パパ、ありがとう」


「アンにそっくりだったので欲しくなってね。気に入ってくれてよかった」


 パパがニヤリとしました。




 その夜のことです。


「たすけてーっ!」


 女の子の叫び声で、アンは目を覚ましました。


「たすけてーっ!」


 また、聞こえました。それは、窓辺のテーブルに置いたドールハウスからです。アンはベッドから降りると、ドールハウスの扉を開けて中を覗きました。すると、





 男が、ベッドで寝ている人形におそいかかろうとしていました。窓明かりに映し出された男の顔はパパにそっくりでした。


「あっ……」


 ビックリしたアンは急いで人形をつかむと、外に出して扉を閉めました。


「開けろっ!」


 パパにそっくりな男が怒鳴りながら扉を叩いています。アンは扉に鍵をかけるとドールハウスを持ち上げ、キッチンに行きました。そして、冷凍庫の中にそれを入れました。


「さよなら、小さな扉の向こうにいるパパ」






 アンはいま、ママとふたりで暮らしています。……ううん。魔の手からアンを救ってくれたアンにそっくりな人形と3人で。

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さよなら、小さな扉 紫 李鳥 @shiritori

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