淳之介誕

 ソワソワ……

麻沙音「んー…どしたの兄?なーんかいつも以上に落ち着きがないじゃん」

淳之介「な、何を言うんだ妹よ。俺はいつも落ち着いているだろう?」

麻沙音「めっちゃ不自然じゃん……」

淳之介「いやなに、今年も色々あったなあと思ってだな――」

麻沙音「ん……そだね。青藍島この島に来てから色々あったねぇ」

淳之介「だろ?そしてそんな一年を締めくくるに相応しい今日という日が――」

 ピンポーン――

奈々瀬「家事代行サービスの者ですがー?淳ー?開けてくれない?」

麻沙音「はいぃただいまぁーでゅふふふ……」

淳之介「おいまだ俺の話は終わって――」

奈々瀬「ふぅー…っと。アサちゃん、アリガト」

淳之介「奈々瀬どうした?今日は家事代行の日じゃ無かったと思うが――まさか」

奈々瀬「え?ほら、明日から新年でしょ?どうせアンタたちのことだから大掃除とか文乃にまかせっきりなんじゃないかって思って、手伝いに来たのよ」

文乃「奈々瀬様、お気遣いいただきありがとうございます。ですが……」

奈々瀬「いいのよ文乃。ほらちゃっちゃと終わらせてゆっくりと新年を迎えましょう。どこまで終わったか教えてくれるかしら?」

 そういうと2人して奥に行ってしまう――


淳之介「まったく……みんなして俺をないがしろにしやがって――」

美岬「ほんとですよ全く。せっかく皆さんと年越しそばを食べようと思ってきたのにまだなんですかねぇ」

淳之介「…………なんで居るの?」

美岬「えぇ!?さっき奈々瀬さんと一緒にお邪魔したではありませんかっ!?」

淳之介「気づかなかった……」

美岬「ヒドくないですかっ淳之介くん!?アタシをないがしろにするだなんてぇ」

麻沙音「いっそそのまま無になればいいのに」

美岬「私をムニエルしたって美味しくないですよぉ」

麻沙音「だーめだ、耳にラード詰まってて日本語すら成り立たねぇ」

淳之介「いやそもそも年の瀬に人んちに勝手に上がり込んでだなぁ――」

桐香「あら?先輩、部屋に居ないわ…?どうしましょう」

礼「ちょっと桐香様!?だから糸で二階の窓から入るのは不法侵入ですってあれほど…」

淳之介「…………」


 恐らくあの3人が居るのだろう

どこか辟易としながら階段を上がり、部屋のドアを開けると……

郁子「あはっ、ダーリンかーわいぃっ。こーんなところにエッチな本隠すだなんて、ほんと定番だよねぇ」

礼「おいこら郁子!勝手に淳之介の部屋を漁るな!あぁもうほら桐香様も、そんなことしてたら淳之介に怒られ――」

淳之介「お前ら何してるんだっ!!!」

桐香「あら先輩、おはようございます」

淳之介「おはようございます、じゃないだろっ!?なんで俺の部屋に勝手に上がり込んでるんだって聞いてるんだよっ!!」

礼「すまない淳之介。私は止めようとしたんだが……な」

郁子「そんなことよりダーリン、ドスケベに興味無かったんじゃなかったのかなぁ?こういうのが好きなら、イクちゃんがお相手してあげるのにぃ~」

淳之介「~~~~!!!いいから出ていけぇぇ~~~!!!」

 まったく……

奈々瀬「ねぇちょっと淳ー?悪いんだけど、ちょっとお使い行ってきてくれない?アタシが行ければいいんだけど、お掃除とおせちで手が離せなくって」

淳之介「ああもうわかったよっ!!!!」


 みんなして俺の誕生日を覚えてないばかりか、むしろ年越しのお祭り騒ぎにかこつけていつもより悪ふざけしやがって――

ヒナミ「あれ?淳くんだ?おーい、どうしたの?なんか元気無さそうだけど?」

見るといつもの椅子と、何かビニール袋を持って歩いてくるわたちゃんの姿が――

淳之介「あぁわたちゃんじゃないですか。いえ、なんでもないですよ」

ヒナミ「んー…そっか。それより淳くんはお買い物?」

淳之介「えぇ奈々瀬のやつ、予約してたお寿司を受け取りに行かなきゃいけないの忘れてたみたいで」

ヒナミ「そっか。今から淳くんのお家に行こうと思ってたんだけど…一緒に行った方がいいのかな?」

淳之介「受け取ったらまっすぐに帰るだけですし…その荷物も大変でしょうから先に上がって待っててください」

ヒナミ「んー……そっか。一緒に行ってあげられなくてごめんねぇ」

淳之介「はは。そんなこと気にしないでくださいよ」

ヒナミ「それじゃ、先に待ってるからね。気をつけて行ってきてね」

淳之介「えぇ、ありがとうございます」


 っと…頼まれてた寿司屋は…この辺りか?

スス子「へいらっしゃい。ススのすす屋にようこそっ。おすーすすにはススっとすすでもすすって過ごすのが一番すよ、お兄さん……って、バナぱいせんじゃないっすか?どーしたっすか?」

淳之介「……お寿司は啜るものじゃないぞ、スス子」

 というか、よりにもよってここなのか…?

チュパちゃん「ジュビボ。オショウガツススルススル」

淳之介「……啜るのはお雑煮だけにしとけな?」

 というか。寿司屋にペットはダメだろう

衛生観念が無いのか、この島は……

スス子「あー、ナナさんに頼まれてたおすすっすね。ちょっとお待ちを――」

シューベルト「おや、淳之介じゃないか。誕生日にどうしたんだい、こんなところで?」

淳之介「シュウ君っ!!!!」

 ガシッ!!!

シューベルト「うわっと…どうしたんだい淳之介。急に叫びながら手を握られるとビックリするじゃないか」

淳之介「あぁいや済まない――。シュウ君のデータに感謝する日が来るとは思わなくてな」

シューベルト「それはどういう――」

水引「あれ?淳ちゃんに中村君。こんにちは。奇遇だねぇ、こんなところで会うだなんて」

淳之介「あぁ水引ちゃんか。なに、ちょっと友情のありがたさを再確認していただけさ」

水引「?っと、そうだ。淳ちゃん確か今日がお誕生日だったよね。おめでとう」

淳之介「――っ!!!」

 ガシッ!!!

水引「ちょ、ちょっと淳ちゃん。ほら、みんな見てるから、ね?」

淳之介「ありがとう……ありがとう……」

スス子「アンタら、人の店の前で何やってんだ」


淳之介「っと、いけないいけない。みんなを待たせてるんだった」

シューベルト「おや、そうなのかい?だったら、さっそく歩きながら向かおうじゃないか」

水引「そうだね。私もちょうど淳ちゃんとお誕生日お寿司パーティーするつもりだったし」

淳之介「お前ら……やっぱり持つべきは”友”だなっ!!!」

シューベルト「どうしたんだい淳之介。今日はいやにテンションが高いじゃないか。僕のデータも驚いているよ」

水引「でも、これだけ喜んでもらえるのなら私たちも嬉しいかな。お祝いする甲斐があるよ」

淳之介「全く……普段は兄だ仲間だ先輩だ言ってる薄情者共に爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいぜ…」

シューベルト&水引「…………ふふっ」

淳之介「………?どうした、お前ら?」

シューベルト「何でもないさ。な、水引ちゃん」

水引「ねー、中村君」

淳之介「何だよー、二人だけでコソコソして俺を除け者にするなよー」

シューベルト「そんなつもりは無いからやめてくれよ淳之介ぇ~」

水引「そーだよー。もうすぐわかるんじゃないかな?ほら、そろそろ淳ちゃんの家が見えてきた」

淳之介「何だよー、教えてくれたっていいじゃんかよー。しょうがないなぁ…」

 ガチャッ

じゃれあうように軽く不満を口にしながらドアを開ける――と


 パンッ――パンッ――

「兄、お誕生日おめでとう」

「淳之介様、お誕生日おめでとう御座います」

「淳之介くん、お誕生日おめでとうございます」

「お誕生日おめでとう、淳くん」

「お誕生日おめでとう御座います、先輩」

「お…おめでとう、淳之介」

「ダーリン、お誕生日おめでとう」

一斉に掛けられるクラッカーと祝福の声


 パンッ―

シューベルト「改めておめでとう、淳之介」

水引「みんな、淳ちゃんの誕生日を忘れるわけないじゃない、おめでとう」

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ぬきたし小噺集(予定) @takamineyuto

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