文章修行家さんに40の短文描写お題

ねこK・T

文章修行家さんに40の短文描写お題

65文字以内で場面を描写するというお題に基づき書いた作品です。

お題はこちらからお借りしました。「文章修行家さんに40の短文描写お題」(http://cistus.blog4.fc2.com/)

短くはありますが、その中にそれぞれの世界を感じ取って頂けたら嬉しいです。


  * * * * *


00. お名前とサイト名をどうぞ。また、よろしければ一言なにか。

 ねこK・Tと申します。とにかく頑張ります。たとえ描写じゃないと自分で分かっていようとも!(笑)


01. 告白(64文字)

 ごとりと音を立てて気持ちは沈む。そして言えなかった言葉は胸の中で痛みとなる。――体中を刺す棘は、勇気の無い自分への罰なのだろう。


02. 嘘(62文字)

 口はするすると言葉を紡ぎ、そして誰もが気付かない。私だけが、真実に紛れたそれを後ろめたく思い続けるのだ。誰に言う事も出来ず。


03. 卒業(61文字)

 唇を噛んで。涙など流さずに、白菊に飾られた写真を睨む。今日から君が居なくとも一人で歩いてゆくからと、自立の誓いをその胸に。


04. 旅(61文字)

 夏色の山に登り、深呼吸。感慨が胸を占める。しかし風は笑って通り過ぎるのだ。何処に行くかではなく、何を思うか、だろう? と。


05. 学ぶ(63文字)

 書かれた文字を頭に叩き込む。言葉の羅列が頭を巡り口をつく。そんなものは忘れてゆくと知っていながらも、今日も私はページをめくる。


06. 電車(61文字)

 密着する汗ばんだ肌、耳元の吐息。普通なら耐え難いそれが、何故か平気なのは――きっと他人の存在を消去しているからに違いない。


07. ペット(61文字)

 頭を撫でて、餌をあげましょうと唇は言った。そしてその微笑みの向こうに僕は見る。繋がれた自分の姿を、捨てられる自分の姿を。


08. 癖(63文字)

 組んだ指が知らせても、私はそ知らぬ顔で話を続ける。ホッとした様に彼は笑う。どうせ彼も私のを知っているのだろうから、お互い様だ。


09. おとな(64文字)

 金糸銀糸の錦の着物。でも喜ぶ両親を横目に私は溜息。だって飾り立てても昨日の私と今日の私、何処が変わるでもないと知っているからさ。


10. 食事(61文字)

 半透明のパックから管へ。血液に乗って全身を巡る、計算された栄養素。しかし物足りなさが自らの心を、身体を痩せ衰えさせてゆく。


11. 本(63文字)

 触れると背から外れ、握るだけでいとも容易く形を失くす、黄ばんだページ。その姿が示すのは、知識の終焉と、消費と言う欲望の始まり。


12. 夢(61文字)

 極彩色の絵画、唱えるは欲望の言葉の羅列。曖昧な筈の想いは、現実という枠組みに歪められ、黒ずんだ輪郭を持って形を成してゆく。


13. 女と女(63文字)

 相手を見つめる互いの瞳は、濁った思考を呼び起こす。しかしそんな気持ちだけでは無いと、彼女達は微笑むのだ。淵の底を覗かない様に。


14. 手紙(59文字)

 掌に落とされた、紅葉ひとひら。見上げた先には夕陽に染まって広がる枝。そうそれは、物言わぬ君が僕に伝える、秋の訪れの証。


15. 信仰(64文字)

 見上げた緑の大木を、吹きゆく風を、踏みしめる大地を。その全てを、私は言葉も無く想う。瞳を閉じても其処に確かに感じられる、何かを。


16. 遊び(63文字)

 空を舞うボール、降り注ぐ笑い声。待って待って。声は響き、靴音が近付く。――そして。踏み潰された蒲公英は、一人静かに涙を流した。


17. 初体験(65文字)

 首筋の花弁に触れ、自身を抱きしめた。思い出される温もりに体が震える。外の朝日は普段より甘く、その光は瞳の奥で音も無く溶けていった。


18. 仕事(61文字)

 お前はいいな。白い花を見つめながら男はそう呟き、肩を落として去る。その背広姿を見送ると、林檎の花は不思議そうに首を傾げた。


19. 化粧(60字)

 薄く引いた下地に、紅を少々。覗いたところで、鏡の中の自分は大して変わってはいない。しかしそれでも。何処か自分が誇らしい。


20. 怒り(61文字)

 水底から水面へ湧き上がる泡、ふつふつ。そして段々、ぶくぶくと大きくなって――ぱつん。それが弾けた瞬間、私は声を張り上げた。


21. 神秘(59文字)

 空の向こうでも海の底でもなく、手近な沈丁花の葉の裏をそっと。決して破らぬよう覗き込む。そう、扉は直ぐ傍にあるのだから。


22. 噂(63文字)

 さざめく声を冷笑一つでせき止めた。こんなものなど欲しくは無い。彼女が欲するのは、自らを飲み込んでしまえる様な波、ただそれだけ。


23. 彼と彼女(62文字)

 掌を合わせて、笑う。定義などに縛られない二人の関係の真実は、誰にも分からないまま。しかしその笑顔が、その全てを物語っていた。


24. 悲しみ(62文字)

 鯨幕に響く泣き声が白々しい。自分にあるのは涙の無い乾いた瞳と、頭の中の暗い穴。思いは言葉になど出来ないと、今日初めて知った。


25. 生(64文字)

 視線の先には物言わぬ躯が。返り血に染まった震える腕、乱れた呼吸、真っ白になった頭、そして感じる自らの鼓動。――ああ、これこそが。


26. 死(65文字)

 切り立った崖に張り付く様な、狭い道を歩く。見えて来たのは血色の川、黒塗りの門。もう帰れないな。川渡しはそう言って、きひひと笑った。


27. 芝居(65文字)

 主よ我等を救い給え。その言葉に頷くと、民は歓喜の声を上げた。民は自らを救う事すら知らないのか。その光景を見ながら彼は薄く微笑んだ。


28. 体(58文字)

 ああこの重ささえなかったら。空飛ぶ翼を見つめて、彼は思う。足の裏にある大地の感触など、疾うに忘れてしまったその頭で。


29. 感謝(63文字)

 言葉にしたら、形にしたら。きっと逃げていってしまう、そんな直感が胸にあって。だからそっと抱きしめた。言葉を飲んで微笑みながら。


30. イベント(65文字)

 電灯を消した部屋に、細く白い光が差し込む。遠く聞こえる花火の音。心が疼いて一睡も出来なかった瞳を擦り、彼は布団から身体を起こした。


31. やわらかさ(63文字)

 手の内のそれは、儚く白く。力を込めれば簡単に形を崩してしまうに違いない。だから、掌に乗せるだけ。この首を抱きつぶさないように。


32. 痛み(65文字)

 音を立てる心臓、ふらつく頭。きっとそこからは黒い血が流れ出ている、そう思えてならない。この胸の奥、心の傷は決して見えなかったが。


33. 好き(60文字)

 喉の言葉は口の中で噛み砕かれて。震える指は文字など描けない。だから今彼女にできるのは只一つ。目の前の彼を見つめる事だけ。


34. 今昔(いまむかし)(65文字)

 胸元から出された写真は茶色。しかし写った若い笑顔は、傍に佇む今の彼女と寸分違わず。彼は皺だらけの顔で嬉しそうに微笑み、瞳を閉じた。


35. 渇き(64文字)

 早くと叫ぶ頭に急かされながら。空色の理由を求めてページをめくる。寿命という時間制限、その中でも、世界を少しでも知りたいがために。


36. 浪漫(65文字)

 この空の向こうへ。その想い故に鉄の塊が空を駆け、人は月へと降り立った。けれど僕はため息。傲慢の結果白く濁った空など見ていても、と。


37. 季節(64文字)

 カレンダーを何度も眺める。あと、三日。時は続き、その日で繋がりが切れるはずも無い――けれど気になり不安に思う、それが春という時。


38. 別れ(65文字)

 彼は知っているのだ。太陽が昇ったら、肌に届く温もりも耳に響く鼓動も、この手からすり抜けるのだと。だから彼は抱きしめる。強く、強く。


39. 欲(64文字)

 音も無く震える花弁。その花も風も決して彼の物ではない、そう分かっていてもどうしても手元に置きたくて。彼はシャッターを切り続ける。


40. 贈り物(63文字)

 形も色も無く、証明するのは紙切れ一枚――それでも背中に圧し掛かる、名前という重荷。けれど。頭を振って一歩、彼は足を踏み出した。

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