戦士たち 4

 当代きっての戦士イグレーゴ。

 戦士たちの先陣を切ったイグレーゴ。

 四肢をもがれてなお、ついに最後まで辿り着いたイグレーゴ。

 一つの錐となり、遺された力で最後のふるいへ挑んだイグレーゴが老若の戦士の到着と時を同じくして、力尽きた。


 さすがだよ、と呟いた老戦士の心中によぎったのは、役目を果たした者への尊敬と哀悼である。

 誰よりも強く、速く先頭を駆ける役目を担ったのがイグレーゴだ。

 尖兵たちをひきつけ、後続に可能性を拓いて果てるはずの戦士は、最後のふるいまでたどり着いた。

 

 老戦士の隣で、イクスが呆然としている。彼らにとっては「あのイグレーゴ」である。その気持ちもわかる。だが老戦士には老戦士の役目がある。

「ボヤボヤしてんなら、オレが運命をもらうぜ!」

 

 言い残して、老戦士は跳ぶ。

 イクスが負けじと追って跳んでくる。

 わかりやすい奴だと老戦士はほくそ笑み、空中で若者の身を捕まえた。


「何をする老いぼれ!」

 慌てる若者へ、老戦士は言い渡す。

「役目を果たさせてもらうぞ!」

 最後の篩に挑む体力など、もうとっくに残ってはいないのだ。もとより、運命を手に入れるのは自らの役目ではないと知っているのだ。

 イグレーゴが最後の力を振り絞って削った、その一点をめがけて老戦士は、両腕のないイクスの身を、槍のように投げた。


「このっ、糞爺がぁっ!」


 若者の叫びが遠ざかるのを聞きながら、老戦士は落ちていく。

「同朋を新たな世界へと、ってな」

 落ちながら、ミヤの透明な壁の向こうに、艶やかなる「蘭の君」の姿を見た。

 上々だぜ、と老戦士は地に落ちた。

 



 イクスは力を振り絞り、回転する。




 戦士の頭髪が「最後の篩」を削る。いつまで削れば終わるのか、なんの見当もつかない。

 全身の感覚が薄れていく。


 世界がこのように在る限り。世界がこのように求める限り。同朋を新たな世界へと。

 誰かが。自分でなくても誰かが。


 イグレーゴが削った窪みを自分がさらに削っているように、いま力尽きたとしても、後続の誰かが挑んで、やがて蘭の君へと辿りつければ、それで。


「否!」


 運命を手にするのは、俺だ。この俺だ。


 イクスの耳にかすかに、壁の内側から声が聞こえている。今までまったく耳にしたことのない、心地よい声が呼んでいる。運命の君がイクスを求めて呼んでいる。

 途切れそうな意識を、その声が繋ぎとめる。

 俺が、俺が、蘭の君、あなたの元へ。


 ぱしり、音がして壁に走る虹色の光が途切れる。

 ついに穿たれた孔に、あとはその身をねじ込めばという所で、イクスの身から力が抜けた。孔に手をかけようにも、両の腕は既にない。

 もはやこれまでか。イクスがそう観念した瞬間、先ほどから聞こえていた声が力強く響いた。


「根性みせろ!!」

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