蘭の君 4
最後の
ミヤを包む硬く透明な壁を打ち破った者が、私の運命。
私を呼んでくれる者。
私は花の玉座から立ち上がる。
その者の姿を目にしたい。私たちが待ち焦がれた瞬間が、私に訪れるのか。
黒い流星が透明な壁に激突する。
干渉が起こって、泡の壁に虹色の光が幾層にも滲んで走る。
錐揉み回転する黒い流星の正体が見えた。
四肢を失い、目の光も絶えぬばかりの、ひとりの戦士。
その姿が見えたのは、回転する勢いが弱まったからだと、私は気づいた。
あんな姿になってまで、私を目指すのか。
世界がそのように在るからか。
あんな姿になってまであがく者に、私ができることは、こうして見ていることだけか。
そんな事が、あってたまるか。
私は跳んだ。はるかミヤの天井どころか、花の玉座の座面さえ越えられないような、みじめな跳躍。
「頑張って!」
身勝手な言葉が喉をついた。
なんのために頑張れというのか。私のためか。私の姉妹たちのためか。
「負けないで!」
涙が出て来た。座して待つだけの生を、なぜ世界は私たちに宿命づけたのか。
かつて運命を迎え入れた姉も、このような気持ちを味わったのか。
何度かのみじめな跳躍の末に、私は花の玉座につまずいて、花びらの上に倒れた。
花。
このミヤが私のものであるなら、玉座が植物であるならと、私は願う。光へと伸びるものなのだろうお前は。
ただ待ち続けて死ぬ私たちのわがままを聞き入れろ、私の玉座。
「蘭よ、私を連れて行きなさい!」
ぱきぱき、と音がした。
蘭の茎が、根が伸びる。
戦士の元へと。
虹色に輝く干渉の光を目指して。
透明な壁に手をつき、まぶしさに目を細めながら、私は壁を叩き、声を振り絞る。
せめて目の前の命が、その望みを達することができるように。私は声をあげつづけ、その私の目の前で、戦士は回転することをやめ、微笑みをたたえて力尽きた。
水に漂う藻のように頼りなく、最後の篩から遠ざかっていく。
なぜ、なぜ、なぜ。
なぜ微笑んでいるのか。そのような姿で、道半ばで果てるというのに。
その答えが、激しく回転しながら降ってきて、再び虹の光を走らせた。
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