蘭の君 2

 とうに地鳴りはやんでいた。


 時折、こういう事がある。地鳴りがあるとそわそわする。何か起こるのではないかと、身構えてしまう。

 もっとひっきりなしに地鳴りを聞いた時期もあった。その頃いちど、姉が待つミヤに運命が訪れた。


 運命は逞しく黒光りする肉体をまっすぐにめ、ミヤの周りを一粒の泡のように包む「最後のふるい」に対して、一本の錐のように頭を突き立てて孔を穿っていた。

 最後の篩を撃ち破る唯一の武器が、彼らの頭髪なのだという。

 あの時、最後の篩に挑んだのは一人ではなかった。

 ただ、孔を穿ち、ミヤに入れたのは一人だけだった。


 運命がミヤ入りを果たしたあの瞬間、待つことしかできないこの身の無情が、私の身に纏わりつく姉たちの無念が、晴れていったのを覚えている。


 おめでとう、と言葉がでた。

 おめでとう。さようなら。元気で。行ってらっしゃい。


 運命を招き入れたミヤは黒く閉ざされ、やがて泳ぐように舞い上がって、やはり天の門から出て行った。

 紅の流れに乗って出て行くのと、黒く閉ざされて出て行くのと、いったいどのように違うのか。

 誰も見たことはないけれど、あの後しばらく、どの姉もミヤ入りしなかった。

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