第14話:決断・聖女アリス視点

 神様に教え諭していただき、私は目が覚めました。

 本気で人を救いたいのなら、この手を血で染める覚悟が必要なのだと。

 怖気に襲われるような汚い心と対峙しても、眼を背ける事も逃げる事も許されず、戦って背後にいる人を護らなければいけないのだと。

 だから、私は転移魔法で王都に戻る事にしました。


「邪悪な心を持つオリビア、私が貴女を殺して人々を護ります」


 私は高らかに宣言してから、オリビアの胸をこの手で貫きました。

 剣で斬り殺す事も、守護神様の与えてくださって神通力で殺す事もできましたが、己の覚悟を定めるために、あえてこの手で刺し殺しました。

 文字通り自分の手を血で染める事で、不退転の決意を固めたのです。


「私は何も悪い事はしていない、自分の欲望に正直に生きただけ。

 国王も王太子も、操ったわけではないは。

 心にある欲望を正直に出せるように、手伝ってあげただけよ。

 それを汚いというのなら、人は全て汚らしいわよ!」


 オリビアの言葉に間違いなどない、人はみな汚れた生き物だ。

 その本性は邪悪で身勝手で欲深いが、理性で抑えられる者もいる。

 何百何千年と己を律していけば、人の本性も変わるかもしれない。

 私はそれを信じて人を助け救う事に全力を尽くす。

 わずか数十年の人生では、とても時間が足りないから、守護神様の求愛を受け入れて、神としての寿命を手に入れる。


 その考え自体が、人の邪悪で身勝手で欲深い所かもしれない。

 もしそうなら、守護神様以外の神が、私を罰してくださるだろう。

 それを信じて、私は神の寿命を手に入れ、人を導いていく。

 本当なら、全ての人を一度許して救いたのですが、哀しいかなそうはいきません。

 王太子や国王といった王侯貴族は、責任ある立場にもかかわらず、己の欲望を剥き出しにして民を傷つけました。

 それを見逃すわけにはいかないのです。


 彼らは、オリビアに無理矢理操られたのではないのです。

 欲望のままに振舞いたいと思い、操られたいと願っていたのです。

 だからこそ、あれほど簡単に薬を飲んでいたのです。

 心底正しく生きたいと思っていたら、口にするモノには気を付けていたはずです。

 普通に考えても、毒殺される恐れがあるのが王侯貴族なのですから。


 だから、魔人化した王太子達も、国王も王妃も重臣達も、私がこの手で胸を貫き一撃で殺しました。

 今でも脈動する心臓を刺し貫いた感触がこの手に蘇ります。

 それこそが、私の迷いを断ち切ってくれるのです。

 スミス公国に逃げ込んだ人たちは、この手で護り抜きます。

 己を高め、人を進化させようとする気高い人間を堕落させようとする者は、この手で叩き殺します!

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

婚約破棄追放された元聖女は、王太子たちに監視されています。 克全 @dokatu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ