第13話:提案・守護神視点

「やあ、アリス、そろそろどうだい、もう人間に愛想が尽きたんじゃないかい?」


 私の求愛もこれで何度目だろうか?

 守護神ともあろう者が少々情けないが、アリスの魂の輝きはとても人間とは思えない美しさで、女神にも匹敵する神々しさだから、つい甘い対応をしてしまうのだが、もう見逃すのも限界だ。


「これは守護神様、このような場に降臨下さり、感謝の言葉もございません。

 ですが、私も人間でございますから、同じ人間を見捨てる事はできません。

 この身の朽ち果てる最後の最後まで、人間を信じ救う道を歩みます」


 やれ、やれ、強情な性格にも困ったものだが、この慈悲の心と諦めない強さが神に列するに相応しいともいえる。

 だが、私の妻となり神に列するのなら、時には苛烈ともいえる天罰を下す非情さも必要なのだが、それが行えるだけの愛情深さはあるのだろうか?


「信じて救うだけでは、心悪しき者に操られている人間は救えないぞ。

 人間とは持って生まれて邪悪で弱い生き物だから、よほど強く厳しく諫めなければ、直ぐに悪の道に進んでしまう。

 しかも薬物で操られてしまったら、元の心が美しかったとしても、邪悪な行動に走ってしまうのだ。

 そのような者を救うには、殺してやるか、薬物を用いて人を操る者に天罰を与え、操られていた者を解放してやらねばならない。

 アリスが本当に人を救いたいと思うのなら、時に苛烈なほどの罰を与える決断が必要だぞ」


 さて、アリスなら私の言葉を理解してくれるだろうが、理解したからといって、実行できるかどうかはまた別の話だ。

 心優しい人間ほど、理解はできても実行できない事がよくある。

 だが、たとえ実行できなくても、私のアリスに対する愛情は変わらない。

 同列の神として愛し合う事はできなくても、護り導く対象の人間として愛する事はできるのだから。


「守護神様は、私に悪しき人間を裁けと申されるのですか?

 確かに私は守護神様から聖女の力を与えていただきましたが、それは人々を癒し救うための力であって、罰するための力ではないのではありませんか?」


 優し過ぎるのか、それとも勇気が足りないのか?

 先程の言い方が悪かったのかもしれないから、言い方を変えてみよう。


「もう一度率直に言うが、人間を誑かす者に天罰を与えなければ、騙される人間を救う事はできないぞ。

 言葉巧みなだけならば、騙された人間が悪いとも考えられるが、この国の王や王太子のように、薬物で操られてしまったら、それは本人に責任ではないぞ。

 これ以上薬物で操られる者を見て見ぬふりをするようでは、人々を救いたいという言葉も、空々しく聞こえてしまう。

 本当に人々を助けたいのなら、自らの手を穢す覚悟も必要だぞ」

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