第6話 サヨナラ、小さな俺

 ケンとケン


 ケンは片付けの中であることに気づいた。今まで過ごしてきた部屋はケンの分身のようなものだ。片付けが終わった。やっと、長い道のりだった。窓から見える景色やいつも使っていた椅子。茶の間の柱に背比べをした傷が残っているように、ケンの部屋の柱には落書きが残っている。すり減った畳。引越し先には持っていかないことにきめた布団。全部がケンと共に過ごしてきた、もちろん新入りもいるし長い長い時間のものもある。途端に片付いた部屋が別ものに見える。これから一人暮らしの部屋が決まったら、引っ越しの準備もする予定だ。


 ケンは異世界への扉を開く。そこにはもう一人のケンがいた。剣と魔法が使えて自信に満ち溢れ、仲間を連れて堂々と歩く勇者ケン。すぐに扉を閉じると、いつもの部屋に戻った。そおっともう一度開くと、ケンは仲間のヤマとマツと協力してモンスターを倒しているところだった。黄色いマントをひるがえすもう一人のケン。信じられなくて目をこすってよく見るといつもの部屋でカーテンが強風で暴れていた。バカみたいだ。あくびを一つして、ラジオのスイッチを入れた。少し前に流行った曲が流れている。


『また一つ罪を重ねた、気づかないままで。気づいても知らないふりをして。今と昔の僕はどちらがマシかな』



 片付けてもまた汚れる

 サヨナラしてもまた出会う

 教えられてもまた忘れる

 バカな俺と小さな罪よ

 サヨナラ


 ハロー少しでもマシな

 バカな俺と小さな罪よ


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サヨナラ、小さな罪 新吉 @bottiti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説