考え事をしている時は、窓から見える景色はまるで見えない

赤い自転車の持ち主は

想像していた人間像とは

まるで違っていたが、

なんとなく他人には思えずにいた。


私は今

その男の寝顔を眺めている。

放っておけば良いものを

救急隊員に半ば強引に、

 

電話された方ですよね!

どういう状況か聞きたいので、

一緒に乗ってください!


と促され、

言われるがままに

病院に付き添わされたのだ。


なんとなくこのまま帰るのも

気持ちが落ち着かず

仕事も休めた事だし

めざめるまで

目覚めなくとも

夕方までは付添おうと決めた。


病院は嫌いだ。


具合が悪くて来てるのに、

いつも冷たい目線で上から物を言われる。


先生と呼ばれる人は、

 学校の…

 代議士の…

 会計書士の…

 そして病院の…。

どうしてか説教じみた事を言いたがる。

自分の思想を押し付けてくる人に

ろくな人間はいないと思うのだ。

つい先日も嫌なお客さんにからまれた。


アルバイトの娘が

社員を呼んでこいと言われ

私のところにやって来たので

仕方がないので話を聞きに行った。


そこにいた自称画家の先生が、


接客とはどういうものかわかってる?

この店はおかしい!


とクドクドと説教しはじめたのだ。

たまたま店が暇だったのをいいことに、

結局20分以上喋り続けられた。


あっ


そうか…。

目の前で意識を失っている男が他人に思えない理由がわかった。


私が勤める喫茶店の常連さんだ。


仕事以外の会話なんてした事なかったのに、私が画家先生に絡まれている時に


すいません!


と声をかけて遠ざけてくれた…。

そして帰り際に


まともに聞いていたら疲れちゃうでしょう。適当に聞き流した方がいいよ!


と言ってくれた。

それを聞いて、

あれは意図的に引き離してくれたんだ。

と思った。


その彼は今病院で意識を失って私の前で眠っている…。


少し疲れが溜まっているのか、

昼過ぎに買ってきたサンドイッチを食べたら急激に眠気がおそってきた。


帰ろうかな…。


とも一瞬考えたが

考えながら意識が遠のいていくのを

感じていた。


無意識的にメガネをはずし、

右手に持ったまま、

窓際の壁にもたれて

私は素性を知らない男の前で

眠りにおちてしまった…。

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やまない雨 Chika @3485

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