第3話 真月の再会

日向たちが尾坂のもとで直談判を行っている時、真月は尾坂に頼まれて警視庁までお使いに出ていた。

普段は遥や直政が定期的に訪れるので、その時に一緒に持っていくのだが、二人が不在の今だれかが持っていかなければならない。

今回、白羽の矢が立ったのが真月であった。

真月が頼まれていた書類を警視庁の偉い人に届けた帰り道。

「…あれ?どっちだ…」

真月の行く手にはスマホ片手に道に迷う青年が一人。白銀の髪、青灰色の瞳をした桜賀や日向くらいの青年である。

声をかけるか否か迷った。だが、同じ場所で行き来を繰り返している青年を追い越さなければ真月は帰ることができない。

それに困っている人を無視するのもなんだか目覚めが悪かった。

「…あの、お困りですか?」

おずおずと真月は青年に声をかけた。

真月の声に反応して、青年は振り返った。その顔には安堵の表情を浮かべている。

「はい、道に迷って……」

青年は真月を視界にとらえると、大きく目を見開いて言葉を失ってしまった。

「…あの?」

動かなくなった青年の様子を見て、真月は再び声をかけるが返事はない。

何の返答を返さない青年に真月は戸惑いを隠せないでいた。

「……まつき?」

呆然とした青年の口からこぼれ落ちたのは、真月の名前だった。しかし、真月は会ったこともない青年が自分の名前を知っていることに不信感を抱く。

それは当然のことだ。真月はまだGMUとその関係者以外の人間と接触する機会が、ほぼないに等しいからだ。

「何で、俺の名前をしってるの」

臨戦態勢をとり、真月は青年に険しい表情で問いただした。

真月のことを一方的に知っている人物だ。先月あった天選教の一件に関わりのある人物である可能性も否定できない。

「あ、えっと、真月…だよな。俺だよ、嗣月しづき

「しづき……?」

青年が慌てて名乗った嗣月という名前に真月は聞き覚えがあった。真月は記憶をさらうように、青年の名前を反芻しながら首を傾げる。

暫しの沈黙の後、真月は「あ!」と声を上げた。

それは、懐かしい記憶。真月という名前をくれた友人との思い出。

「…思い出したみたいだな」

嗣月はホッと安堵のため息を吐いた。臨戦態勢を解いた真月の様子から、自分のことを真月が思い出したことが分かったからだ。

「嗣月、何でここにいるの?」

嗣月のことを思い出したと同時に、彼がずいぶん前に引っ越して行ったことも真月は思い出した。

父親の転勤で各地を転々としていた嗣月は、真月と知り合って数か月後には関西のほうへ引っ越して行ったはずだ。

「ちょっと色々あってな。この町の学校に通うことになったんだ」

「ふーん」

「真月は、元気そうで良かった。ずっと心配してたんだ。この前、真月を探しに行ったときは見つけられなかったから…」

嗣月の話によると以前住んでいた町にわざわざ足を運んで真月を探し回ったという。住んでいた家には別の家族が住んでおり、それらしき家を探したが有久という表札は終ぞ見つけられず、真月の行方は分からず仕舞いだったらしい。

嗣月が探しに町を訪れた時には、すでに真月はGMUの寮で生活していたので、もちろん見つかるはずもないが。

「あ、嗣月。道に迷ってるんじゃなかったけ?」

ついつい、長話をしてしまったが唐突に真月は嗣月に声をかけた理由を思い出した。

真月が声をかけた時はそうでもなかったが、すでに辺りは夕日で赤く染まり始めている。早くしないと日が暮れてしまうだろう。

「ああ!……えっ…と、ここに行きたいんだけど」

真月の言葉に、嗣月も当初の目的を思い出したのか、手に持っていた目的の住所が書かれた紙を真月に見せた。

千季せんきえにし通り二丁目二の八……」

そこに書かれていたのは、真月もよく知る場所の住所。GMUの社屋がある場所だった。

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紅色髪の混成獣 天木 るい @Harmonia

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