第2話 日向の訴え

「おかしいですって!もう四日も帰ってこんのですよ!?しかも!連絡もないなんて!!」

そこは調査部の部長室。日向は直政と遥が一向に帰還しない件について、尾坂の座る机に両手を叩きつけ、身を乗り出して迫る様に直談判していた。

「分かっている。いま方々に問い合わせて二人の行方を追っている所だ」

興奮している日向とは反対に、尾坂は至って冷静だった。

調査の仕事に限らず何かしらの事件や事故で怪我をしていれば警察や病院に世話になる。

それを踏まえた上で、二人からの連絡が途絶えた翌日から警察や病院などに二人について問い合わせを行なっていたのだ。

「だから、俺らも捜索させてくださいって言ってるやないですか!」

それでもなお日向は、二人を探しに行かせてほしいと尾坂に訴えていた。

何かしていないともどかしい、そんな思いが日向の胸中に渦巻いているのだ。

「まあまあ、落ち着けよ日向」

その様子を後ろから見守っていた桜賀は、興奮する日向の肩を優しく叩いく。

たしなめる様に肩を叩かれ我に帰った日向は、うつむき唇を噛み締めた。

日向の行動は確かに冷静さを欠いた行動だ。

「…すんません。頭に血が昇ってたみたいですわ」

「いや、君の気持ちはよくわかる」

「桜賀もありがとうな」

桜賀は日向にフッと笑いかけ、うなずいた。礼は不要と言わんばかりである。

そんな桜賀を見て日向の表情も柔らいだ。

「日向も冷静になったことだし、俺からも一つ話したいことがある」

そう言って桜賀は日向と尾坂の顔を見た。そして、二人が頷くと桜賀はおもむろに話し始める。

「最近、ネットのごく一部で神隠しの噂がある。年齢、性別、問わず突然街中で人が消える…ってな」

「桜賀それって…」

息を呑む日向に、桜賀は険しい顔を向けた。

「ああ、その噂があるのは二人が行った達海町だ」

桜賀が告げたのは、あくまで可能性。だが、尾坂も日向もそれが偶然とは思わなかった。

「最初は二人の失踪はレインコートの女の一件に関わりがあると思って、色々調べてたんだ。で、あるオカルトサイトにたどり着いた」

桜賀はスマホからそのサイトを開いて二人に見せた。それは古今東西、様々なオカルト事件を取り上げるサイトで、『河童の目撃情報』や『雪女の出現スポット』など有名な妖怪話が大きく取り上げるように記載されている。神隠しはそのサイトの片隅に小さく取り上げられているだけだった。

「よう気いついたなぁ。俺やったら見逃してまうわ」

そのサイトを見た日向は感嘆の声をあげた。神隠しの話題が取り上げられ始めたのは最近で、掲載開始からひと月にも満たない。

サイトの膨大な情報の中から、大きく話題に上がっている訳でもない神隠しの話をよく見つけられてあものである。

「このサイトを見つけたとき偶然、神隠しを見たって話がチャットで上がってたんだ」

そして、桜賀はその神隠しの目撃情報があった場所が達海町だと知ったのだ。

いなくなった仲間、彼らが向かった町で起きた神隠し事件。

当然、考えるのは一つだ。

「桜賀君。君は二人が神隠しにあったと考えているんだね?」

「……ああ」

怪異の調査中に何かあれば彼らは警察官でもある。当然、警察に情報が行くだろう。怪我をしたり、最悪の場合だが亡くなっていても何かしら連絡は回ってくるはずだ。しかし当人とは連絡がつかない、病院や警察から何の連絡もない。

神隠しに遭遇しこちらと連絡が取れないというのならば、二人が神隠しにあったという桜賀の考えは確かに一理ある。

だが、他の事件に巻き込まれた可能性だって捨てきれないというのが尾坂の考えだった。

「やっぱり、俺らに捜索させてください」

桜賀の話を聞いて、考え込んでいた尾坂は日向の言葉に思考の渦から引き戻された。

「……危険だ。だが、止めても聞かないだろうね……君たちは」

二人の顔を見て、尾坂は大きくため息を吐いた。彼らの顔つきから絶対に引かないという強い意志が見えたからだ。

それに、依頼の件も含めて達海町へは誰かが赴かねばならない。

「…条件がある。これを守れないなら捜索は許可できない」

そういって尾坂が提示したのは、GPSの使用、一定時間ごとに定期的な連絡を行うことなど、二人の居場所や安全を最優先に考える条件ばかりだ。

提示された条件を聞いた二人は条件を了承し、「「……!!ありがとうございます!」」と尾坂に向かって深く頭を下げた。

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