二章 調査員失踪事件
第1話 始まりの事件
天選教の一件からひと月が経過し、六月。
GMUにある仕事の依頼があった。
「「尾坂部長」」
「ああ、来たか」
部長室を訪れた遥と直政は尾坂に促され、部屋に置かれているソファーへ腰かけた。
「急に呼び出して済まない」
尾坂は執務机から立ち上がり、二人の向かいのソファーへ移動する。
「大丈夫ですよ。仕事が入ったと伺いましたが?」
「ああ、これが資料だ」
遥に話を促され、尾坂は二人にファイルを渡した。受け取ったファイルを開くと中には数枚の資料が入っている。
極秘の赤文字が右上に記載された資料は警察から回ってきたもののようだ。
「それは、ここから数キロ離れた
渡された資料には確かにレインコートを着た女が起こした事件についての記載がなされている。
「…それで何をするんですか?」
資料から顔を上げた直政は怪訝そうな顔で、尾坂に尋ねた。渡された資料を読む限り、普通の傷害事件にしか見えない。
この資料に書かれている女が固有能力者という可能性もあるが、それならば固有能力者であると言うだろう。
それを踏まえて、直政はGMUに依頼が来た理由が分からなかった。
どう見ても警察の管轄内の事件に見えるのだ。
「以前から、梅雨の時期にレインコートを着た不審な女が出没するという話があって、警察は捜査を進めていた。しかし、最近になってこの女が出会った人々に襲い掛かる事件が多発した。警察も初めは、人為的な事件であるとして捜査していたらしい」
「……「らしい」ということは」
遥が尾坂の言葉尻に眉をひそめた。尾坂の言いたいことが分かったからだ。
「…そうだ。「その女は突如その場に現れて消えた」という被害者の証言によって、レインコートの女は怪異である可能性が浮上した」
雨が降り視界が悪い中での犯行。当初は被害者の見間違いとして処理されていたが、あまりにも同じような証言が多かったことが決め手だ。
「なるほどな。今回の仕事はこの事件の解決。戦闘になった場合を考えての人選か……」
直政は自分たち二人が選ばれた理由に納得がいった。
怪異であれば、随分と好戦的な怪異だ。戦闘は避けられない。
そして、これがもし人為的な事件であればこの女は十中八九、
そうなれば、どう転んでも戦闘に発展する可能性が高い。
「了解した。すぐに取り掛かる」
「そうだね、ちょうど明日は雨だし」
そう、この女は雨の日にしか目撃されていないため、調査できる日時が限られてしまうのだ。
「二人とも、頼んだ。くれぐれも無理はしない様に」
尾坂の言葉にうなずいた二人は明日の準備のため部長室を立ち去った。
「視界が悪いな…」
直政がボヤきたくなるのも無理はない。現在、達海町に降る雨は豪雨と言っても過言ではない。
さらに、時間は夜八時で直政と遥がいる場所は街灯が少ない道路だ。
「仕方ないよ。それよりもレインコートの女性を探さないとね」
地元警察からの情報でその女が出現するのは夜の間に集中していると判明した。
そのため二人は昼間は町の地形把握と情報収集を行い、夜になってから目撃情報の多い場所を順次捜索している。
「探すって言ってもな…」
直政は困ったように髪をかき上げた。
昼間の聞き込みで今回の事件は怪異の可能性が濃厚になったが、怪異を探すとなると一苦労だ。
この怪異の原因は事故にあった女性の残留思念…いわゆる幽霊の類だ。
ある雨の日、いなくなった子供を探し回り車に跳ねられて死亡した女性がいた。彼女は、死したあと幽霊となって今でも子供を探し続けているのだ。
当時、その幽霊に子供を知らないかと声をかけられたという話が残っている。
そこから推察するに、今回の事件は
徘徊している怪異を探すには、最近の情報も事故当時の情報も少なすぎる。
「まあ、探すよりこの辺で出てくるのを待つほうが早いかもね」
探さないといけないと言ったそばから意見をひるがえした遥だったが、直政も目撃情報の多い場所で待つほうが現段階では遭遇率が高いと考えていた。
「…そうだな、待つか」
幸い、頻繁に目撃される場所は二カ所。その二つの場所は近い距離にあった。
一時間ごとに二つの場所へ行き来を繰り返しながら、探すこと約五時間。
ようやく現れたレインコートの女と二人は対峙することとなる。
そして、彼らはその日から姿を消した。
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