続・番外編 はじめてのお出かけ
目的の店がある場所までの道中、オシャレな雑貨屋があった。
そこに外からでも見える様に飾られた大きめのぬいぐるみ。それに真月の視線は引き寄せられる。
真月の隣を歩いていた桜賀は、真月の歩みが遅くなったことに気が付いた。
「どうした?」
ぬいぐるみに気を取られていた真月は「何でもない」と答えたが、桜賀は真月の視線の先にある店のぬいぐるみにすぐ気が付いた。
日向も桜賀と同様に真月の視線に気が付いたらしく、店に向かって颯爽と歩きだす。そしてぬいぐるみを手に取ると桜賀に連れられてそばにやってきていた真月に「はい」と渡してきた。
真月は戸惑いながらも、ぬいぐるみを抱きしめる。ふかふかのぬいぐるみは真月の腕にすっぽりおさまる大きさだった。
その姿を眺めていた、桜賀と日向は即買うことを決断した。可愛いは正義である。
元の場所に戻そうとする真月から桜賀はぬいぐるみを奪うと、真月が断る間もなく支払いを済ませて戻ってきた。
「ほら」
何事もなかったかのように渡されるぬいぐるみ。
「…でも」
「もう、買っちまった。今日の記念にでも取っとけ」
「せやな。こういう時は素直に貰っとき」
「ありがと…」
真月は言葉巧みに言いくるめられた気がしなくもなかったが、腕に真っ白なウサギのぬいぐるみをギュっと握りしめた。
絨毯やらなにやらの店を回り、ようやく三人は帰路に就いた。
少し傾き始めた夕日に向かって歩きながら真月は腕の中のぬいぐるみを見て、ふっと笑う。桜賀と日向に挟まれるように歩いていた真月は、二人を追い越してから振り返った。
「日向、桜賀。今日はありがとう。すごく楽しかった」
真月は満面の笑みを浮かべて二人に笑いかける。
「そうか」
桜賀はそういって目を細めて、真月が隣に戻ってくると真月の頭をグシャリと少し乱暴に撫でた。
真月の言葉に虚を突かれていた日向も優しく真月に微笑みかけてくれる。
「俺らも楽しかったで!な、桜賀!」
「ああ」
そして、日向はまた三人で行こうと真月と約束を交わしてくれた。
腕の中のぬいぐるみが夕日色に染まる。
(この子の名前は、夕日にしよう)
心の中で真月はぬいぐるみに名前を付けた。
安直な名前かもしれない。けれど、このぬいぐるみを見るたびに、今日のことを思い出すだろう。名前を呼ぶたびに今日の夕日の美しさを思い出すだろう。
真月はそっと桜賀と日向の横顔を盗み見る。二人にとってはきっと何気ない一日。でも真月にとっては特別な日だ。いや、特別な日になった。
繰り返される日々の中で、些細な出来事は忘れ去ってしまう。それが人として当然のことだ。
でも、このウサギが今日の思い出を確かなものにしてくれる。
図らずも桜賀の言った通り、記念のぬいぐるみになることを真月は確信した。
次の日、真月の様変わりした部屋のベッドの上には、白いうさぎのぬいぐるみがしっかりと飾られていた。
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