怖いことも忘れちゃう
「今日の夜、雷雨なんだって! 緊急避難させて!」、そう言って、彼女が私の部屋に駆け込んできた。
彼女は雷が死ぬほど苦手なのだ。
しばらくして、ポツリポツリと雨が降り始め、次第に強さを増していった。
遠くから雷鳴も聞こえてくる。
それがだんだんと大きくなり、近づいてくる。
「ううう、もうやだあ」
早くも涙混じりの声を震わせて、彼女が必死に私の胸にすがりついてくる。
震える彼女の肩を抱いて、頭を撫でる。
撫でながら頭に頬を寄せると、シャンプーかコンディショナーか、とにかく良い香りが鼻腔を満たした。
「大丈夫だよ」
「やだ、もっと強くぎゅってして」
言われるままに、彼女を抱く腕に力を込める。
「これでどう?」
返事の代わりに言葉にならない声を漏らし、轟く雷に肩を跳ねさせる。
こんなに怯える彼女を見るのは、やはり忍びない。
彼女を抱いたまま、できるだけ優しく呼びかける。
「ねえ、顔あげて」
彼女はそっと顔をあげ、濡れた瞳で私を見つめた。
右手で頭を撫で続け、左手を彼女の頬に添える。
彼女が不安げな表情のまま、目を瞑った。
唇を重ねて数秒。また雷鳴が響く。
彼女が身体を震わせて、重ねた唇の隙間から彼女の吐息が漏れ出た。
一度顔を離し、「大丈夫」と囁くと、彼女はコクリと頷いた。
再び唇を重ねる。
彼女が身じろぎをして、腰をきつく抱いて、唇を押し付けてくる。
すべての感覚が熱を帯びて、彼女と溶け合って、触れ合う唇からひとつになるようだ。
彼女も同じなのか、いつの間にか、外で鳴り響く雷など気にも留めないで、ただ私だけを求めていた。
そうしてひたすらにキスを交わす間に、雨は上がっていたのだった。
「おーい、もう雨止んでるよ。雷も鳴ってないし」
「あ、ほんとだー。そんなことよりもっとちゅーしよ」
ゆりきすのいろいろ やまめ亥留鹿 @s214qa29y
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