いつもと違うキス
私の恋人は、普段Sっ気があるくせに、いざこちら側からアクションを起こすと途端に照れだす可愛い人だ。
なんてことを、放課後の部室で、悪戯っぽく妖艶に光らせた彼女の瞳を見つめながら思うわけだ。
「ねーえ、ことり。寒いからあっためて」
そのなんだかねっとりした動作に、思わず声がうわずる。
「だ、暖房入ってますけど」
「入れたばっかりじゃん。それに私はことりの生々しい温もりが欲しいの。ことりの妄想力の発揮に期待してる」
なに、温めるにも何か工夫しろってか。
ぐぬぬぬぬ、やってやろうじゃないの! 思いっきり照れさせてやろうじゃないの!
対抗心を燃やしに燃やした私は、羽織っていたコートのボタンを外した。そして、向き合う綾里の身体を勢いに任せてガバりと包み込んだ。
正面から密着した二人の身体が、コートにすっぽりと収まる。
私の肩に顎を乗せて、綾里が耳元で囁く。
「はあ、すっごく幸せだよ。でも、あんまりことりらしいヘンタイさは足りないよね」
「くっ、わがままなヤツめ」
すると、綾里が私の腰に腕を回し、キツく抱きしめてきた。
そのまま頬に二度三度とキスをされ、じいっと見つめ合ってから、綾里は唇を重ねてきた。
キスを交わしながら、私はふと考える。
綾里と付き合って数ヶ月、そういえば私たちは唇を触れ合わせるだけのキスしかしたことがなかった、と。
いやまあ、彼女には指をくわえられたり首筋を舐められたり、とにかく色々とされてきたわけですけどね。
しかしお口同士のキスとなると話は別だ。
少しだけ、ほんの少しだけ先に進んでみるか。
私はタイミングを見計らって、軽く綾里の下唇をパクっとくわえてみた。
綾里がうっすらと目を開けた状態で、まばたきを繰り返す。
これは彼女が動揺している時のサインだ。
それを確認してから、唇ではさんだままの綾里の下唇に左から右へ、舌先を這わせた。
綾里がびくりと身体を震わせる。
コートの中に熱がこもる。綾里の全身が上気しているのがわかる。
そっと顔を離すと、綾里はとろんと瞳を潤ませて、その真っ赤に紅潮させた顔を背けた。
「ばか。心の準備くらいさせてよ」
よし、勝った。私の完全勝利だ。
そう思った瞬間、綾里がまた、顔を至近距離に詰めてきた。
「ね、今のもっとしなさい。もっとすごいのでもいいよ。準備できてるよ」
甘ったるい吐息が唇に触れて、頭がクラクラする。
この後どうなったかは想像に難くないだろう。
私は彼女のこの誘惑の仕方に、めっぽう弱いのである。
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