思い出の
「あっ、ねえねえ、あの中でさ……覚えてる?」
高校からの帰り、不意にリカが立ち止まって、若干演技臭い声音で公園を指さした。
「えっ……何かあった?」
「覚えてないの? 小学生の頃にあそこでキスしたじゃん」
リカの視線を追う。
ドーム型で、中が空洞になった遊具がある。
「そうだっけ。全然記憶にない」
なんてことは全くの嘘で、あの時のことは鮮明に覚えている。
だって、好きな子との初めてのキスだったんだもの。
「えー、ほらあ、薄暗い中で雨宿りしててさ、ミカが心細そうにするから色々したんじゃん」
「そうなの? やっぱり思い出せない」
とぼけてみせると、リカが私の手を引いた。
「なんか悔しいから思い出させてあげる」
「はっ? ちょっと」
リカに強引に連れられて、私たちは遊具の中に入った。
いくつか空いた穴から光が入るが、やはり若干薄暗い。
あと、なんか汚い気がする。
しゃがんだ格好で、リカの手を引っ張り返す。
「やだ、出たい」
私の訴えに、リカが私の手を離した。
かと思うと、正面から首に腕を回してきた。
「だーめ。今日は、長年積もり積もった私の気持ちを分かってもらうから。もうずっと我慢してたんだから。ミカってば、あの時以来こういうこと拒否ってくるんだもん」
「だって……」
「だって?」
「ドキドキして恥ずかしいの……」
私の言葉に、リカは目を丸くして瞬きを繰り返した。
思わず、私の方も驚いてしまう。
「え、何その反応」
リカは目を逸らして人差し指で頬をかいた。
「いやあ、正直そういう対象には見られてないから拒否られてたのかと思ってて。ってかちゃんと覚えてるんじゃん……決死の覚悟で強引に迫ってみるもんだね」
「ん、なんかごめん……そういう対象だから拒否ってた」
リカが私の頬に右手を添えて、額と額を合わせてくる。
至近距離で見つめるリカの瞳が、熱っぽく潤む。
「キスしていい?」
「やだ。ドキドキするの好きじゃないの」
リカの問いをまた拒否したはずなのに、彼女は問答無用で、私の口を彼女の口で塞いでいた。
心も成長したからなのか何なのか、この時の激しいドキドキは、不思議と嫌いじゃなかった。
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