第36話 はい。……スカート短めのは余計ですけれど
ここで読者様に――
ルンは、サロニアムの王子。
レイスは、アルテクロスの王女。
聖剣士リヴァイアは、サロニアムの王族。
法神官ダンテマはさりげなく言ったよね、リヴァイアの子孫。
そしてイレーヌは、ダンテマのニンジャ!
では、アリアは??
気になりますか。更に――
オメガオーディンを倒せない理由。
オメガオーディンは、サロニアムの王族の女性の生贄で生きてきた『雌蕊』
究極魔法で召喚されるダークバハムートは『雄蕊』
それを発動する聖剣エクスカリバーの使い手、聖剣士リヴァイアはサロニアムの王族――
つまり、近郊係数が高いから、また『雌蕊』へと還元してしまうのでした。
……うーん。
多分、オメガオーディンが永遠に死ねない存在となってしまったのは、ちゃんとした『子孫』を残したいからなんでしょうね。
では、続きを――
「……あのう」
ニンジャ、らしからぬ登場回数度々である。
「その……」
「なんだ?」
と、法神官ダンテマ。忍者とは視線を合わせずに、窓の外の港町アルテクロスの空を見上げながら。
「念のために言っとくけれど、恐れなくていいぞ」
ダンテマの口元が少し緩んだ。なんだかしてやったりな思いからだ!
「……はい。その混血の聖剣ブラッドソードですが、それがオメガオーディンを倒せると法神官さまはお思いで……」
いつに間にか、柱の傍に立っているニンジャ――もはやニンジャじゃないよね。
「ああ、私はそう思う。聖剣エクスカリバーでは近郊係数が高いから封印に留まっている。けれどな――」
法神官ダンテマは花びらを触りながら、
「なあ、ニンジャよ……。お前ならどう選ぶ。最愛の妹の犠牲で封印されるオメガオーディンと、最愛の妹が王子と結ばれで誕生するブラッドソード――その混血の聖剣は、もはや近親ではない。闇は闇へと帰る……。やっと帰ることが、それも……もしかしたらオメガオーディンの望みなのかもしれないな」
「望み……あやつがですか?」
「ああ……。そういう見方もできぬかという私からの提案だ」
法神官ダンテマは窓を見上げながら、なんだか寂しく……それが何に対しての思いなのかは分からないけれど、コクリと静かに頷いた。ダンテマは続ける――
「……ああ、ようやく子孫を残せるとしたら、なんだか魔族も人間も同じくに思えるな。そもそも、死骨竜から誕生したエクスカリバーもな」
見上げていた空から、今度はアルテクロスの城下を見つめる法神官ダンテマ――
「もな……?」
ニンジャが疑問に思った。
その疑問を感じ取るなり、ダンテマはしてやったりと――
「――聖剣士リヴァイアさまの名剣、聖剣エクスカリバーの基となった素材は死骨竜だ。死骨竜は……あれは魔獣だ」
「……ああ。だから近郊係数が関係してくると!」
うんうんと頷いたニンジャ。もはや柱に立つ使用人の如く……である。
「それもある……。元々倒せない名剣なのだ。それはリヴァイアさまも承知だろうと思っておる」
「……けどな!」
声を大きく……アルテクロスの平和な城下を見渡しながら、
「レイス姫も死ぬことは、魂の抜け殻になることはない! これからも存分に生きていかれると思う」
法神官ダンテマが再び窓の外を見つめて、
「思えば――スラムの日々。あの時にスラムの盗賊達がレイス姫をさらってくれなければ、今頃、また同じ封印が続く日々だったのだから」
ダンテマは俯いた。そして、ふと視線を変えた。
その先に見えるのはクリスタ王女の部屋である。
「クリスタ王女……。これで良かったのですよ。あなたがスラムの盗賊に渡した幼子――レイス姫。神官達の生贄から逃したあなた様のご決断――あなたの判断は間違っていなかったのですよ。そして、聖剣士リヴァイアさまにも。――お前と同じニンジャ、スパイのイレーヌにも感謝しなければな」
法神官ダンテマは目を閉じて……心底にすべてが上手くいきますようにと、オメガオーディンを倒すことができますようにと、目を閉じて――港町アルテクロスの平穏を取り戻すためにも、自分が発見した倒す方法を自分自身で確信していた。
なんだか寂しくとダンテマの心情をそう表現したけれど……、それは本来あるべき『受粉』の……自然という摂理の一端でしかなかったことを知ってしまったオメガオーディンの心情に、なんだか自分がもしも同じ立場であるならどう判断したのか……。
生存競争においては、自分達は同一なのでは……という気持ちからだった。
「あの……」
「まだ聞きたいことがあるのか? ニンジャよ」
せっかく感慨深く……だったのに、少しだけニンジャを睨み付ける法神官ダンテマだ。
「その……」
「なんだ?」
「恐れ……」
「だから、恐れなくていいって――」
ほいきた。お約束のこの返し……。と、ダンテマは心の中で笑った。
「はい。では……あの一人。アリアなるあの天然の女性は何者で?」
「ああ。じゃあ端的に教える。……ところで、お前それでもニンジャか?」
ダンテマが嘆息を吐いて言う。
「御意……、恐悦至極に」
それに気が付くなり、ニンジャは一層に身を構えてしまう。
「まあいい……」
捨て台詞のような物の言いようで、城下を見渡しながら法神官ダンテマが受ける。
「……アリアは、大魔導士ドガウネンさまの最後の弟子だ。まあ、アムルルのどこかの家に捨てられたけどな」
「大魔道士ドガウネンですか?」
「はははっ!」
よく笑うダンテマである。
*
「やっぱ……、なんとなく見覚えがあるな」
ルンは回廊を歩き天井とかを見上げながら、何やら感慨に――
「こちらが玉座の間です」
それをイレーヌは気にせずに、すたすたと玉座の間向かった。
「……そうだ! ルン王子!! 今のうちに言っておこうかと。……そしてレイス姫にも」
立ち止まるイレーヌ。そして振り返って。
「ウルスン村の殲滅ですが、あれ……ウソなのですよ」
「ウソ? ですか、イレーヌ!」
と、大声をあげたのはルン……ではなくて、その後から恐る恐るついて来ていたレイスだった。その声が回廊に響く。
「はい……」
淡々と返したイレーヌは、レイスに一瞬目が合ってから頭を下げた。
「私が、そうレイス姫と王子に伝達しろと……仰せつかり」
「俺達にそう言えってことか?」
「はい。そうです。ルン王子……」
「……………」
なんか回廊の真ん中でみんなが立ち尽くして、会話が途切れてしまった。
みんな無言になって俯いた。
無理もないのである――
アルテクロス代々の領主の生まれ故郷であるウルスン村が、魔族に殲滅されたと近衛兵から一報を聞かされて、案の定、クリスタ王女は悲痛に落ちて、それがウソだったなんて……。
「レイス姫……実際にはウソというのは語弊があります。確かにウルスン村では、オメガオーディンとの死闘はありました」
「……あったの?」
レイスが少しキョトンとして、
「はい。けれど、その戦闘は……なんというか、前哨戦というか威嚇というか、……つまり殲滅には至らなかった小規模な戦闘なのでした」
イレーヌは回廊の天井を見上げて、
「アルテクロスの多くの兵士が戦死したことは事実です。けれど全滅はウソでした」
「……イレーヌ? どうしてそんなウソを?」
「……殲滅と聞いて、レイス姫は腹が立ったでしょう。自分も姫として、なんとかオメガオーディンをと思いましたでしょう。自分には究極魔法レイスマがあるのだからと……、そう思ったことでしょう」
すると、イレーヌから聞かされたその言い様に対して、
「……ああっ!」
しばらくのシンキングの後に、レイスが声を荒げる。怒り心頭な表情――髪の毛が逆撫でるとはこのことだ。
「わ……私を、その気にさせるためにウソを……イレーヌ! あんた一体何者なの?」
「まあまあ……レイスさんも、イレーヌさんも……落ち着いてください。私が運んできた依頼で、電波塔で偶然知り合った運び屋じゃないか」
アリアはレイスがイレーヌに対して、血相を高めて突っかかろうとしていたところを諌めた。
「イレーヌさんはサロニアムの情報通なんですから……まあ、その。いろいろ知ってたんですよね?」
チラッとイレーヌを見るアリア――いつもは天然呼ばわりされているけれど、ここは機転を利かせる。
元々は温厚な性格の持ち主であるからして、自分の目の前で仲間達がケンカすることは心底嫌気がするのだ。
「……そうですよね。イレーヌさん?」
対して、
「アリアありがとう。 ……でも違うんだ」
イレーヌはふふっとアリアに対して、いつも見せているような爽やかな表情ではなくて、奥歯に物が挟まったような気持ちで、後ろめたさのような……だから少し俯いてしまう。
「何が違うんだ?」
そこへ、ルンがイレーヌを見つめて……問い詰める。
「……………」
イレーヌは俯いたまま口籠った。けれど、
「うん。言おうか」
それでも、意を決して、
「……あ、あたしは、アリアの遡上も、実は全部知ってる……んだ」
「知ってる……って? 何がですか?」
はてな『?』を頭上に浮かべて眉を寄せたアリアだった。
「アリア! あんたの生い立ちをだよ!」
声を大聞くして、イレーヌがぶっちゃけてしまう。
その声は回廊に木霊して――
刹那――
「イレーヌよ。今は……」
それを諌めたのは聖剣士リヴァイアだった。
リヴァイアはイレーヌの両肩に手を添えて、じっと彼女を見つめた。
「目的を……忘れぬではないぞ」
「はい……。聖剣士さま。申し訳……」
「うむ」
リヴァイアは大きく頷いた。
「で、ですが、これだけは言わなければ! 聖剣士さま……」
イレーヌの目には、少しウルウルと……涙腺が緩んだようで。
――それを無言で見入っていたリヴァイアは、
「お前の自責は……十分に分かっておる。でもな、目的を忘れるな」
と言って両肩から手を離した。
イレーヌは聖剣士リヴァイアに深く頭を下げて、その後神妙な表情で俯いた。
「聖剣士さま―― 少しだけあたしに時間をください」
「……少しだけだぞ」
しょうがないなと見たリヴァイアは、イレーヌの肩に再び手を当てて、発言を許したのだった。
「みんな……、あたしの話を聞いてほしい」
一呼吸、イレーヌが言い始める。
「イレーヌ……」
「イレーヌ……」
「イレーヌさん」
飛空艇の仲間達が側にいる。それが仲間である。みんなずっと一緒にクエストをこなしてきた。
私がリーダーだと言い張るレイス、彼女を諌め飛空艇を操縦するルン、色気満載でクエストを探してくるアリア……。
そして、心強い情報通で魔獣持ちのイレーヌ!!
出逢えて良かったと……みんなで思おう。
イレーヌは心落ち着かせてから話を始めた――
「ルン王子は覚えていますか? 私がメイドでお城にお仕えしていたことをです」
「メイド?」
ルンの頭上に大きく疑問符が浮かんだ。
「――――」
彼の表情を一目してから、イレーヌは肩で呼吸を整えて、
「私はある時サロニアムの地下の聖剣エクスカリバーを見ようと地下に行った時に、王子が『ここに聖剣は無いよ』と、にっこりしながら笑って、」
「そして、『全部ウソなんだ。聖剣の英雄伝も作り話なんだよ』……そう王子は仰られて……。その後、私は上級メイドを辞めて情報屋になった……」
「なった……なんて、これこそがウソなのです。まあ、サロニアム流のウソのオンパレードと言ったらいいでしょうか? ルン王子―― あたしは……あなたがあなたの記憶が消えていることを、電波塔で再開したその時に知ってしまい……、」
「そして、愕然として。あたしは、上級メイドを綺麗サッパリと辞めて、城を去ったのですよ」
「イレーヌ……!」
疑問符が、突如にビックリマークへと代わるなり、
「ああ! あの地下の……あのスカート短めのあのメイド!! あれ君だったのか??」
「はい。……スカート短めのは余計ですけれど」
少し頬を赤らめたイレーヌ――でも、面影だけでも思い出してくれたことに対しては、正直嬉しい気持ちだ。
「あの地下の部屋で出会ったメイド……がイレーヌ? でも確かあの地下とかは上級メイドしか入れないんだっけ?」
「はい……。あたしは上級メイドでしたから」
と言うとイレーヌはルンに対して頭を下げて、
「日々、王子の身のお世話とか、語学を教えていましたよ」
ニッコリと、けれどどこか寂しい笑みだった。
元は法神官ダンテマのニンジャとして、サロニアム城の内実を知るためのスパイで――
ルンが思い出してくれたことは嬉しかったのだけれど、所詮はニンジャという立場、上級メイドと王子という関係を本当の意味で築くことは……できなかったのだ。
「あ……あの時は、ありがとう」
ルンがコクリと頷いて……しかしだった。
「でもさ、……確か上級メイドって募集年齢が高かったはずじゃ」
と……言わなくてもいい一言を。すると、
ズドン!
何故かここで、レイスの『おんどりゃー』な肘撃ちが一発ルンのお腹へとヒット!!
「ルンって! あんたは乙女心ってものを知り足りないんだってば!」
「だって、上級メイドって。そもそも募集年齢が高くって……これ有名だぞ、そりゃそうだ、頭脳明晰じゃなければ……」
ルンは全く女子全員の気持ちを……空気感が掴めずにいた。
ボコッ
もう一発……、レイスが……。
イレーヌは毅然として話を続けた――
「あたしは、実は聖剣が無いことは知っていました。そう、それを確認したかったのです。本当に聖剣があるのか無いかを」
「確認ですか? イレーヌさん」
アリアが思わず声を出した。
「ああ……」
その声に気が付いて、イレーヌはアリアを見る。
「あたしはサロニアムの古代図書館で、ずっと聖剣の歴史を調べていたことがあって……それで、ある一冊の書籍を見つけて――」
「見つけて……、そして、分かったんだな。イレーヌよ」
リヴァイアが堂々と立ち尽くして、腕を組みながらイレーヌを見る。
「はい。その書籍の名は――」
『究極魔法レイスマ』
それは1000年前の古代図書館に寄贈されていた預言書――
「でも、確かめた結果、やっぱり聖剣はありませんでした」
「当然だ……」
と、断言したのはリヴァイアである。
「リヴァイア?」
レイスが振り向いて、
「どういうことですか? リヴァイアさま」
「当然だ……。我が聖剣エクスカリバーでは、あやつを封印することはできても葬ることはできぬ。だから私が始めから持ち去ったんだ」
リヴァイアは鞘からエクスカリバーを抜いて、自らの胸前へ掲げた。
そのエクスカリバーは、異様なまでに7色の光を微妙に放っている。
「はやるな……。聖剣エクスカリバーよ」
リヴァイアは聖剣エクスカリバーを優しく摩ってから、そう呟いた。
「それは……どうしてですか? リヴァイアちゃん」
今度はアリアが尋ねた……けどさ、
「リヴァイアちゃん……じゃなくて、ーーそのリヴァイアでいいぞ」
聖剣士リヴァイアちゃん……もとい、リヴァイアさまが照れて頬を膨らました。
気を取り直して――
「覚えているか? オメガオーディンからの毒気で私は聖剣士リヴァイアになり……、聖剣エクスカリバーも誕生した」
「そうだったっけ。リヴァイアちゃん?」
ルンが返した。勿論冗談の言い様で……であるけれど。
「……リヴァイアだ!!」
聖剣士リヴァイアの赤面は続いている。
更に気を取り直して――
「考えてみろ! あやつの毒気で誕生した聖剣だ。あやつを倒せないことは想像がつくだろう」
リヴァイアが法神官ダンテマと同じことを説明し始めた。
簡単に言うと、[バブルスライム]は自分の毒で死にません。……ということです。
「じゃあ? リヴァイアっち」
「どういうことですか? リヴァイアさま……」
「え~わかんなーい! リヴァイアちゃん」
「お前等よ……。わざとか。……まあいい」
一筋の汗を額に垂らして、1000年を生きてきた人生の大先輩聖剣士リヴァイアさまは、矛を納める。
「話を続けよう……。だから私は、今の法神官ダンテマの先祖と、その……まあ、赤ちゃんを産んだ。オメガオーディンの毒気から誕生した聖剣エクスカリバーは、兄弟のようなものだからな……。歴代の法神官は研究に研究を重ねて、オメガオーディンの真の目的が、この地に子孫を残すことであると推測したのだった:
「子孫……」
レイスが静かに呟く。
それをチラッと一目見たリヴァイア……話を続けて。
「子孫を確実に残すには、『異族の血』でなければ無理だ。近郊係数が近ければ子孫の命は弱くなる」
ここでも、リヴァイアは法神官ダンテマと同じ話“近郊係数”の話を始める……。
「だから、私はあの時、それを決意して初代ダンテマと…………きゃ!!」
ちょっと赤面しリヴァイア――
「きゃ!! 赤ちゃん!!!」
レイスが両手で自分の頬を押さえてから、すると今度はレイスが赤面し始めた。
……それを、シラーと横目のルンだ。
「へえ~リヴァイア。お母さんになったんだ。すごーい!」
アリアが頬を……赤らめることなく、あっけらかんに言い放つ。
「……これも言っておこうかと」
「まだ何かあるのリヴァイア?」
ルンが聞いた。
「ああ……」
リヴァイアが彼を見つめてから頷いて、
「私がダンテマと……大昔の初代ダンテマと恋仲になって、子供ができて」
「存じております」 ×4がペコリ。
「……ま、まあ今言ったからな。ちょい恥ずいけど」
なんかリヴァイア聖剣士らしからぬ。
「その……今の法神官ダンテマが14代目だから」
「リヴァイア?」
レイスが思わず身をせり出して――しかし、その身をリヴァイアが片手で止めた。
「……だから、お前の母君のクリスタ王女は確か14代目だったな」
もじもじ……聖剣士、何照れているのですか?
「はい……仰る通りです。リヴァイアさま」
レイスが頷いて、
「確かこの前の、お城の開放日の垂れ幕に『初代クリスタ王女からの建国アルテクロス万歳!!』を祝して……とか書かれていたような……」
視線を回廊の天井に向けながら、レイスが思い出す。
「ああ! 俺も見たことある」
「私もです~」
ルンとアリアが言う。そして、
「あの、それが何か?」
レイスはリヴァイアに顔を向けて傾げる。
「……まったく」
それを見たイレーヌは、たまらず頭を抱えて。
「だから!」
たまらずイレーヌは――
「イレーヌよ! よい……私から話そう」
グッと思わず身を乗り出して3人に教えようとしたイレーヌを、聖剣士リヴァイアが右手を差し出して、彼女を止めた。
「一度しか言わないからな……」
コホン……
聖剣士リヴァイアの咳払い。
「……アルテクロスの初代クリスタ王女は、初代の法神官ダンテマの子供だ。そして、その初代クリスタ王女の数人誕生した御子様の末っ子が……、二代目法神官ダンテマだ。つまり、私の孫だ」
きゃ!!
聖剣士リヴァイア――らしからぬだけれど、頬を赤らめてから、その頬に両手を当てて……。
まあその、乙女の恥じらいのようにと……表現しておこう。
初代クリスタ王女は、聖剣士リヴァイアの娘です。
2人の出逢いの物語は、第二章に書きました――
ということは、レイスは――
「あ! そういうことですか? リヴァイアさま」
「そういうこと……ですか。リヴァイアさま」
アリアとレイスは気が付いた。
「やはり……、預言書の書術の通りに、事が進んだのですね」
一人心痛な思いで。表情を曇らせながら頷いたのはイレーヌだった。
一方、
「な……何がだ? リヴァイア」
ルンは気が付いていない――
「もう鈍いんですから……。ルン君は」
アリアが招き猫のように手招いては、ルンを見て失笑な表情を見せた。
何を招いているのやら……
「ルン王子―― つまりはアルテクロスで出会った法神官ダンテマさまと、クリスタ王女は一族同士なんだって。そんでもって、その子孫のレイスは、聖剣士リヴァイアさまの末裔ということになるんですね?」
イレーヌが淡々と説明をするけれど、
「……なんか難しい話だな」
ルンには猫に小判的な、するとアリアが、右手の人差し指をピンと上にさしてから、
「つまり法神官ダンテマさまも、今上のクリスタ王女も、スラム育ちのレイスも(それ余計ですよ)、そして1000年を生きてきた聖剣士リヴァイアさまも、みーんな兄弟姉妹な関係ってことに……」
「ちがーう! 遠戚関係じゃい!!」
聖剣士リヴァイアの会心のツッコミだった!!
「ほら、ルンって!」
ルンの袖をグイグイ引っ張るレイスは、
「いい? 法神官ダンテマとクリスタ王女は、一族としての血縁関係があるということ! 近郊係数が高いのよ!」
[サロニアムの王族]
|
―――――――――――――――
| |
| サロニアム王
↓ |
聖剣士リヴァイア ダンテマ ↓
| |
――――――――
↓
初代クリスタ王女
↓
[アルテクロスの王族]
|
――――――――
| ↓
| 2代ダンテマ
↓ ↓
14代クリスタ王女 14代ダンテマ
| |
↓ ↓
レイス ルン
「わかった? だから簡単に言うと結婚できない関係なのよ」
……ぶっちゃけ、どこまで近郊係数が関係してくるのかは、ハプスブルク家のようにはなっていないけれど、でも、気にすること自体は問題は無い。
劣性遺伝が重なる確率の問題であり、これはとても重要なのだから。
「へくしゅん!?」
「珍しいですね。法神官ダンテマさま」
と言ったのはニンジャ――
「お前って、少しは……ニンジャらしく隠れてろって」
ダンテマは右手をニンジャに払いながら邪険に示すと、
「……はあ、御意に」
ニンジャは一歩、柱へと身を隠そうと……したけれど。
「あの……」
「だから、なんだ!」
ちょっと怒った法神官ダンテマ。
「……恐れながら、どうしてこのような回りくどいやり方を、お選びになられたのでしょうか?」
「そんなに回りくどいか?」
「……恐れながら、最初からレイス姫はダンテマと血縁関係があり、その遠戚であるルン王子と結ばれれば、
『混血の聖剣ブラッドソード』
が誕生して、オメガオーディンを倒すことができて……」
「言えるか!!」
法神官ダンテマはきっぱりと言い放つ!
その言葉が、しばらく部屋中に木霊した。
「――御意」
ニンジャは深く頭を下げて沈黙してしまった。
すると、書斎は静寂になって。
「ふっ……」
法神官ダンテマが口火を切るなり、
「……そもそも、私の子孫の初代ダンテマが究極魔法を発動した結果、オメガオーディンをサロニアムの地下深くに封印することになってしまったのだからな。それから1000年もの長き間この世界は悪夢と対峙する道を選択してしまって! 本当に……我が一族の恥辱そのものだ」
「恥辱……ですか?」
恐る恐る、ニンジャが尋ねる。
しばらく……法神官ダンテマはニンジャへと視線を向ける。別に嫌悪感を抱いた訳ではないのだけれど……。
「……私の祖先が初代ダンテマが、その時にリヴァイアから言われたという。いつの日か、サロニアムの王族の末裔と、どうか一緒になって」
「一緒になって……求婚ですか?」
「ああ……ニンジャよ。そうずけずけと聞いてこないでくれ……。混血の聖剣ブラッドソードなくしては……。そう仰られたという伝説だけどな」
そう言い切ってから、法神官ダンテマは俯いた。
窓辺から港町アルテクロスを見た――
アルテクロスの城下は、一見は平和だった。
間近に来るかもして無い魔族の襲撃に怯えながらも、それでもみんな平生と日々をおくって……、城から見える港町では市場の賑わいが伺えた。
勿論だけど、その港にノーチラス・セブンは停泊していない。
なんだか、それが少し寂しくも感じていた法神官ダンテマだった。
ダンテマはその平和に見える城下を、どこか思い煩う気持ちを滲ませながら、
「ニンジャよ。お前の言うように……、一緒になっていれば。ああ聖剣士リヴァイアも聖剣エクスカリバーから解放されて、その時にこそ、『混血の聖剣ブラッドソード』が誕生して、世界は平和になっていたのだろうか?」
ダンテマの視線は、それからもずっと本来あるであろういつもノーチラス。セブンが停泊している港を見ていた。
レイスを見守るために、一体どれだけルンの飛行艇に監視を向けていたのか。
それも聖剣士リヴァイアがずっと現れてくれないからだったけれど、その間も自分は書庫に篭り、あなたを……大先祖さまを救うために、これだけ知恵の限りを尽くしてきたというのに……。
法神官ダンテマは、こんなことを心に思っていた。
「まったく大先祖よ。試練が……人気が絶えませんことを喜んでいいのやら」
また窓の外を見上げる――
勿論、アルテクロスの空は
「ああ聖剣士リヴァイアさまは……やはりお美しい。願わくば、私の大先祖でなければ……それにクリスタ王女もお美しい。その王女の愛娘である……レイス姫も同じく」
窓の外の本塔――クリスタ王女の部屋を見つめる法神官ダンテマは、
「みんな一族だ。これではオメガオーディンには勝てん」
「近郊係数……ですね」
ニンジャが呟くなり――
「ああ……そうだ」
深く頷く法神官ダンテマ、そして――
「だから……、ルン王子に託すんだ」
続く
この物語は、フィクションです。
また、[ ]の内容は引用です。
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