第35話 私が見つけたんだよ。オメガオーディンを倒す方法をな――

「さあ! 勇敢なる4戦士の勇者達よ!!」

 聖剣士リヴァイアが飛空艇の最先端に仁王立ちして語り出た。

「このまま! この飛空で一気に大帝城サロニアム・キャピタルの大塔の最上へと突っ走れ!! そして、一気にサロニアムの王冠を奪いとって、そしてそして一気に――」


「あのさ、リヴァイア?」

 ルンが舵を切りきりしながら大声で、

「そこに立ってたら……その、砂漠に落っこちちゃいます」

「そ……、そうよ」

 レイスもルンに続いて言う、

「危ないって! だから、どこか近くのマストに手を添えてくださーい。って、うぉっと……」

 レイスが飛行艇の揺れに釣られて……でも安心である。

 何故ならレイス……自分はちゃっかりと、主マストにロープで身体を括っているのだから。

 ちゃっかりしているね……


「心配するな! 諸君」

 両手を腰に当てて、振り向き大きな声を返すのはリヴァイアだ。

「何故なら……、私は空を飛べるから落っこちないのだぞ」

 飛空艇のデッキにしがみ付くは、木箱に身体を預けるはで必死の飛空艇仲間達に、リヴァイアは皆を見渡してそう言い放った。

「サンドワームだけは嫌……です。あれに食べられたらと思うと」

 同じく、であるが……主マストになんとかしがみ付いているのはアリアである。

「イレーヌさん? サンドワームって好みとかあるんですかね」

「ちょ……。今聞くか、それを」

 イレーヌは自らの分身である魔銃をしっかりと両手で抱え込んで、それを落っことさないように必死である。

 そのために揺れる飛空艇から身体を支える術は、自分の両足だけだ。

「後少しで! 最上塔へ行けるから! みんな踏ん張れ」

 ルンの舵捌きに気合いが入る。

「ほんとに、どうして砂漠の中だというのにサロニアムってのは、こうも気流が荒いんだ?」

 舵をキリキリさせながら、ルンが愚痴る。

 砂漠の中の大都会サロニアムは、本来ならば気流も安定していて、ほぼ無風状態なのであるはずだけれど。

 何故か今日のここサロニアムはというとーーはるか大海峡からか、それとも神殿からの海風が、猛烈な勢いでルンが操縦している飛空挺目掛けて吹き込んでくるのである。


「うん!!」

「はい!!」

「わかった!!」


 ルンの舵さばきを信じてレイス・アリア・イレーヌが揃って返事する。

 こういうところは、流石チームであると称賛できよう。息が合っている。


「はははっ! これは勇敢な4戦士の勇者……感心だな」

 飛空艇の先端で自分達へと振り返り、いまだ大笑いしてルン達を見回しているリヴァイアであった。

 でも、この態勢って――

「もう! リヴァイアってば、ちゃんと何かにしがみ付いていないと落ちちゃいますって!」

 レイスが慌てリヴァイアに言った。その自分はといえば、マストにしがみ付きながらの保険を掛けながら。

「大丈夫! 私は飛べるから心配ないぞ」

「と、飛べるんだったら、どうして飛空艇に乗っているのだ」

 ルンが舵さばきの合間に、リヴァイアをチラ見し大声で尋ねる。

「……イヤ、空飛ぶとMPを消費するからな。ダークバハムートを召喚するのにかなりMPを――」


 びゅーー ぐぅーーー


「うわわ、ちょっ! なんで砂漠のど真ん中なのに、こうも気流が荒いんだ」

 ルンが再びグチると、

「それさっきも聞いたわよ! ルンって舵に集中しなさいよ!」

 レイスがマストにしがみ付きながら渾身の突っ込みを――


 これ、無事にサロニアム城まで辿り着けるのか?




       *




 その頃――


「法神官ダンテマさま……恐れながら」

「なんだ? かまわん」

 ――ここはアルテクロスの別塔の、中程にある一室である。

 ちなみにルン達が寝泊まりしていたのは、別塔の最上階だ。

「では……」

 と彼に尋ねるのは、まるで“ニンジャ”のように柱の陰に隠れて身を潜めている者。

 その者は――法神官ダンテマのお付きの者。

 法神官ダンテマの意に叶うように情報を集め、分析し、それを彼に伝える。要するにスパイである。

 でも、ここでは分かりやすく“ニンジャ”と称させてもらいます。


 [FF3]あっての聖剣士リヴァイアのストーリー。

 その最強ジョブであるニンジャに敬意を表して――


「私はルン殿に、サロニアムの内情はウソの塊だと――法神官ダンテマさまからの言いつけの通り申し上げました」

「ああ、確かにそう言った。それが?」

 法神官ダンテマは書斎の一角から1冊の書籍を取り出して、ページをめくりめくしながら返した。

 そんな素っ気ない態度の彼を、眉間に皺を寄せることなく見つめているのはニンジャである。

「……教える必要があったのでしょうか?」

 ニンジャは……なんだか戸惑いぎみに、

「教えて、何かに不都合でもあったか?」

 法神官ダンテマ、ニンジャを横目でチラッと見た。

 別に睨んではいない――

「恐れながら、法神官ダンテマさまは、お人が悪いかと――」


「はは、はははっ……」

 相変わらず、よく笑う人である。


「ははっ……。まあ、お前の言いたいことは分かる。確かに私は人たらしかもな」

 ニンジャに向けていた視線を再び書籍に、ペラリ……と、ゆっくりページをめくる。

「恐れながら……」

 ニンジャ、それでも表情を変えずに深く頭を下げて。

「別に恐れなくてかまわんぞ」

 視線は書籍のまま、ダンテマは軽くそう言って返した。


「……サロニアムの王はすでに他界され」

「知っておる……」

「王子も王位を継承――できずに、現在も行方不明とか」

「それも知っておる……」


「レイス姫もルン殿も、御一行も……そのことに関しては」

「ああ、知らないだろうな。教えなかったし。ふふっ」

 少し含み笑う法神官ダンテマ。書籍のページをペラリとめくった……。


「……………」

 ニンジャは口籠ってしまった。


「……なあ、だから何が言いたいのだ。ニンジャよ」

「……………」

 ニンジャは依然と口籠る。恐れ多くも法神官に苦言を呈するなんてことが、ニンジャとして――裏で生きる者としての、ある意味の礼儀に反すると自認しているからだ。

「……まあ、言ってみろ。無礼講だぞ」

 たじろぐ姿を見せているニンジャに、ダンテマは一瞬肩から力を抜いて……抜いてから、視線でニンジャに対して急かす。

「……では。法神官ダンテマさまは、レイス姫さま御一行に……その」

「……ああ、ウソの情報を与えたぞ」

 今キッパリと言い切った。

 衝撃的事実! 法神官ダンテマは、ルン達にウソの情報を与えたようだ――

「でも、何故にですか?」

 柱の影に潜みながら、その身体を半身前のめってニンジャが驚く。


「……サロニアムの王が崩御なされようとも、サロニアムにはしっかりと王子がいるだろう。行方不明のな。ふふふっ、ははっ」

 やはり、よく笑う法神官である。

「ああ、王子なあーーあれがな」


「……王子ですか?」

 それから、ニンジャはしばらく口籠る。

 というよりも、王子の行方不明の何がおかしいのだろうって……この人何なんだ? と本心では。

 恐れ多くも泣く子も黙る法神官である。それを口が裂けても言っちゃおしまいだ。

「会議の時に大広間出会ったイレーヌが、かつて仕えていた王子のことか?」

「イ……イレーヌが……サロニアム王子と?」

 ニンジャ、またまた驚く。

「お前、知らなかったのか?」

 再び書籍から……視線をニンジャに向けて、

「イレーヌはサロニアムの元上級メイドだぞ……。というよりも、あいつはお前と同じスパイだ――ニンジャだ」

「同じですか?」

「ああ、お前と同じニンジャだ。私が大帝城サロニアム・キャピタルの内情を調べさせるための、彼女はニンジャだ」

「な、なんと……それ初耳です」

「当たり前だ。ニンジャ同士に面識あるわけないだろ」

 古今東西、スパイって孤独なんです――


「はっはははっ……」

 法神官ダンテマは、またまた大きく笑う。

 ほんと、よく笑いますね……


「なあ、ニンジャよ」

「……はっ!」

 法神官ダンテマの視線は鋭く、ニンジャの糸のような細い目を見つめる。

 ニンジャは……畏怖を覚え、深く頭を下げて返事をする。

「今、お前はサロニアムの王子は行方不明だと言ったな」

「御意……そのように調べてきました」

 ニンジャは頭を下げたままで、


 バタン!


 法神官ダンテマが手に持っていた書籍を閉じた。

「なあ、ニンジャ……もしも、そのサロニアムの王子が、すぐ近くに生き生きと……生きているとしたら驚くか?」

「……そ、そんなことが」

 刹那――言葉に詰まる。

「……そりゃ」

 ニンジャがムクっと立ち上がり、柱の陰から更に身を乗りだして言う。

 それをたまらずに、

「あのさ、お前……ニンジャなんだから、ずっと隠れてろよ。って、まあいいか」

 ニンジャの大胆不敵さに、思わず緊張がふ~と解けたのか?

 肩に入っていた力を緩める法神官ダンテマ、数度腕を振り肩を慣らす――

「ギッ御意! これは……失敬至極」

 一方、ニンジャは一歩柱の陰へと後ずさりしてしまう。


「……サロニアムの王子が、今では飛空艇の操縦士……か。なんだか滑稽だな はははっ」


 ここはアルテクロスの別塔の一室、法神官ダンテマ書斎である――

 日はまだ高い。天気も快晴だ――

 その一方で、ダンテマが見つめる窓の先には――オメガオーディンの襲撃を恐れている港町アルテクロスの人々が見える。


「飛空艇の?? ……もしかして、あの者がサロニアムの王子なのですか? ……えええっ!!」

 ニンジャ、またしても一歩身を乗り出した。

 ……あんた、そんなに大声出したらニンジャ失格じゃん。


 コクリ――


 法神官ダンテマは深く頷く。そして、

「聖剣士リヴァイアさまも――御先祖さまもお人が悪い。でも、これしかオメガオーディンを封印せず、倒す方法は、これしかないのだから……仕方がないのだろう」

 見つめていた眼下から今度は室内の書斎へと、ダンテマはまた書棚の本を指で品定めながら、

「……どういうことでしょうか?」

 またまた後ずさりして、今度はニンジャらしく跪いた。

 そう聞くなり、ダンテマは指を止めて一旦深呼吸を小さくそれから、


「私が見つけたんだよ。オメガオーディンを倒す方法をな――」


「なんと!」

 驚いたニンジャ。……って、それはニンジャとしていかがな所作なのか?

 あんた、もう少し忍びを極めなされ。

「……そのためには、王女と王子が結ばれなけれいけない。正式に戴冠を済ませた王子とレイスのしるし、そして聖剣エクスカリバーの名の下に」

「名の下に?」

 ニンジャが、またしても一歩身を乗り出した。

 だからダメだってば……


「名の下に……聖剣エクスカリバーを進化させるのだ。その名は、


『混血の聖剣ブラッドソード』


 ……だ。その名の如く血の、血縁の証となる聖剣である」


「……………」

 刹那、ニンジャはだんまりであった。

 意味が分からなかった。

 伝説の聖剣エクスカリバーは歴史書にも記載されている名剣。対して、その名の剣は聞いたことがなかったからだ。

「……………」

 一方、無言になったニンジャを見つめるダンテマも、口を閉ざした。

 その名を聞くだけで泣く子も黙る法神官の如く、ありとあらゆるモンスター達がその剣を一目見ただけで、コマンド――逃げる――

 しかし、回り込まれてしまった――攻撃!

 コマンド――トンズラ――するくらいの、畏怖を漂わせる存在感、その存在感から発せられた新たなる名剣の名を……


 じゃなくて!!

 法神官ダンテマの本心はというと、

(こいつ、どうせ知らね~だろ……)

 という白けた視線をニンジャに向けていただけであった。




       *




 その頃――


「あれ?」

 と言ったのはルンである。

 上昇気流にも恵まれて、飛空艇はなんとか最上塔のデッキへと着陸した――

 今まで……よく反撃されなかった。

 そうじゃない。それどころか、不思議なくらい大帝城サロニアム・キャピタルの重要箇所である中央の大塔は平穏だった。

 敵兵も見当たらない――


「あれ? ここなんか……」

「どうしたのルン?」

「どうしたんですか? ルン君」

 レイスとアリアが、まあ……魔銃を構えているイレーヌの後ろからソワソワしながら聞いてくる。

 魔銃があれば敵兵を――


 ずぎゅーーーん!!


 できちゃいますからね。


「見たことある……。ここを」

 ルンは、さっきから怖がる様子を見せていない。

「どういうこと……」

 レイスがいつもの堂々とした様子と違って見える彼に気が付く。

「いや……、なんだか見覚えがな」

「ルン!」

 キョロキョロしている彼を安じ、レイスが大きく言った。

 というのも――

「ちょっと! あんたしっかりしてよ! あんたがしっかりしなきゃ、このアルテクロスのレイス姫兼飛空艇ノーチラス・セブンのリーダーが、敵兵にやられちゃうじゃないの」

「……それリーダーの言うセリフじゃないよね。本末転倒だと思うけれど」

 元は港町アルテクロスのスラム街のスリ女としての意地汚さが、こういう緊張の場で正体をさらけ出すものです……ねぇ。


「そんなこと言っても、でも見覚えがさ……」

 キョロキョロとデッキの上から大帝城を見渡すルンである。

「もうルン君! そんなわけないじゃないですって! しっかりしましょうよ」

 アリアも魔銃を構えているイレーヌの後ろから、

 ちなみにレイスも同じく――



「おかえりなさいませ。ルン王子――」



 イレーヌが魔銃を下げて、両足を揃えて、そして深々と頭を下げる。

 流石にスカートは履いていないけれど木綿生地のパンツ……にもかかわらず、カーテシーで“王子”に対し礼を見せる。

 ちなみにレイス姫はこちらも木綿生地のような少し厚手の、大草原の田舎娘が履いているような(想像上の例えです)ロングのスカートだ。


「ルン王子?」

「ルン……王子?」

「王子ですか? ルン君が」

 ルンも当然、次いでレイスとアリアもイレーヌの突飛な発言に、同じく驚いた。

 そりゃ驚くよね。ルンは勿論スカートは履いていない……。いるのは七分丈のこちらもまた木綿生地風のズボンである。

 上着はというと……ぼろっちい着ヨレした長袖シャツの重ね着。

 まるで作業着みたいな装い、大き目のポッケが胸のところに――


「ルン王子――懐かしゅうございます」

 再びイレーヌは頭を深く上げた。

「ど……どういうことだ? イレーヌ……」

 ルンがたまらず聞く。当然である。

 自分のことを“王子”と称されては飛空艇でクエストをこなしてきた身からして、かなり違和感を感じてしまう。

 するとイレーヌは、

「ルン王子。……少し城内を歩きましょう」

 イレーヌはそそくさ前へと歩いて行く。その先は大塔の入り口である。

「……ちぃよい。イレーヌ! 中には敵兵が」

 右手をちょいまってよという具合に、ルンが身を乗り出して言う。

「ご心配なく。ルン王子……敵兵なんていませんよ」

「……どういうことだ?」

 ルンがキョトンと右手を差し出したまま、一方で、

「……ねえ、イレーヌ それって?」

 レイスも当然のこと、何がなんやら現状を呑み込めない――

「あの、レイス姫……」

 イレーヌがレイスを呼ぶ。

「……あの、もしかしてサロニアムの城は廃墟で、かつては繁栄していたけれど……、そこに生きていた兵士や近衛やメイド達はオメガオーディンに殲滅されて、その骸は城中央の墓石に眠っていて……とか思っていませんか?」

「……へ? そうじゃないの??」

 どうやら、本気でそう思っていたようだ。

 港町アルテクロスのスラム育ちからすれば、サロニアムは大都会の中の大都会で、幼い頃からよく両親に聞かされてきた。

 けれど、御城の事に関しては中々内情を知ることはできなかった。

 トップシークレットの塊のような大帝城サロニアム・キャピタルだということくらいで――


「……当たり前です」

 嘆息を一つ、大きくついたイレーヌ。

「サロニアムは今も健在ですよ。法神官ダンテマさまのお力をもらって、サロニアムの近衛も誰も彼も、玉座の間に来させないように配慮してもらっているんです」

 チラッとルンを見つけたイレーヌ、

「色々と面倒なことにーーーーならないためにも。それだけのことですよ」

 そう言うなり、またそそくさと前進して塔の中に入って行った。


「ちぃ ちょっと。……これどういうこと? ねえ、リヴァイア」

 いてもたってもいられずのレイス、この状況をなんとか理解しようと聖剣士リヴァイアに寄り添い尋ねると、


「……レイス」


 するとリヴァイアが彼女をギュッと抱き締めた。

「……あの、分かんない。……だからさ、私は……分かんないってリヴァイア」

 ウルウルとしてきたレイスの瞳。意味が分からないのは当然だ。

 サロニアムに着くなり、敵兵は襲ってこない。

 デッキに到着するとイレーヌが豹変して、城内を案内すると言い出した。

 なんか思っていた展開とかなり違うよね。

 もっとこうボコスカと始まるんじゃって――

「レイス――我が最愛の妹よ。おめでとう」

「おめでとう? リヴァイア??」

「ああ……」

 リヴァイアのハグは続いていて、

「……何が、その……おめでとう? なのですか」

 自らは力を入れず、レイスはそれを受け止めながら尋ねる。

「……いいか、レイス。よく聞いてほしい」

「……はい」

「確かにオメガオーディンを封印するには、レイスのしるしと、サロニアムの王冠と、そして聖剣エクスカリバーが揃い。究極魔法レイスマを発動して、ダークバハムートを召喚して、奴を封印する――これが常道だった」

「……………」

「だけれど、その後に何が待っているのかを私が今教えよう――」

「リヴァイア?」

 ハグされている両手をゆっくりと手で解きながら……レイスがリヴァイアを見つめて、

「お前が究極魔法レイスマを発動して、ダークバハムートが召喚される。ダークバハムートはな……自らエネルギーを得る為に、オメガオーディンを封印する力を得る為に、お前を食べる」


「たた食べる。ですか?」

 なんだかね……。

 サンドワームやら大海原の怪獣とか、よく狙われますね――


「ああ食べる。でも、肉体まで食べるかは分からない……」

「……………」

 体がちょっとブルブルと震え出してきたレイス。絶句だ――

「運が良ければ、魂だけを食われるだろう。そうすると肉体は残るから大丈夫だ」

「何が大丈夫? どっちみち食われる運命であることには違いないですよね?」

「……まあそうだな。確率は2分の1だろう」

 ハグしていた両腕を離してからも淡々と……身の毛も与奪ことを平然と言い続けているリヴァイアである。

「そんな……」

 レイスの体が一層ブルブルと震えだした。当たり前です!

「しかしな! 安心しろ」

「安心? 何がでしょうか……」


「お前がそうならない術を、アルテクロスの法神官ダンテマが発見してくれたんだよ!」

「そ、そうならない……何のことですか?」

 レイスは分からないのは当然だ。

 さっきからリヴァイアが言い続けてくる言葉――

 自分が食われるとか……そりゃ覚悟は決めてきているけれど。

「ダンテマって……リヴァイアと結婚したダンテマの子孫ですよね?」

「……その彼が教えてくれた。否! 1000年前に時空を飛んで、私に運命を預言を教えてくれた頃にーー彼はオメガオーディンとの決戦……その対処策も調べ上げてくれていた――」


「調べて? 時空を?」


 これもレイスが分からないのは当然で――

 時空を飛んで1000年前のリヴァイアに会いに行った現代のダンテマとの物語は、第二章に書きました。

「だから、もう安心していい」

 と言うと、リヴァイアがとびっきりの笑顔をレイスに見せる。

「……は、はあ。安心ですか」

 何がなんやら、レイスの頭の中は、勿論、ちんぷんかんぷんで――




       *




 その頃――


「混血の聖剣ブラッドソードですか? 恐れながら私は初耳です」

 とニンジャ。

 ニンジャらしからぬ姿で……、両手で肘を抱えながら疑問に思っている。


 ここはアルテクロス別塔の法神官ダンテマの書斎である――

 柱の陰に潜むニンジャと、書斎の本棚に向いているダンテマの会話は続いていた。

「私は何度も、どうしてオメガオーディンが復活し続けるのかを思慮してきた。研究してきた」

「御意……。それは承知しておりますが」

 深く頭を下げるニンジャ。

 この世界を知見して、ありとあらゆる情報を仕入れてきては、それをアルテクロスの領主や大臣そして王女に届けてきたニンジャであったけれど……その聖剣の名称は知らなかった。

「これはな、すごい発見だった!」

 法神官ダンテマがふふっと笑いながら、

「すごい発見ですか?」

「ああ!」

 柱の陰に潜むニンジャを見つめ、ちょっとほくそ笑みながら、

「今から、こういう例えをしよう!」

 法神官ダンテマはそう言うと、手に持っていた書籍を本棚に戻して、一つ大きく肩で呼吸をして整えてから。

 ついでに、何やら微笑みを見せながらも――


「究極魔法を『雄蕊』とするならば、その具象化した存在がダークバハムートである。ダークバハムートはオメガオーディンを封印する存在だ。だったらオメガオーディンは『雌蕊』に例えられよう」

 そこまで言うと、チラッとニンジャを見つめたダンテマ――

「――聖剣士リヴァイアさまは、我が御先祖、あの御方は、元々はサロニアムの兵士だった」

「はい。存じております」

 ニンジャはコクリと頭を下げた。

「実は、正確にはサロニアムの王族の女性だ」


「……まさか!」

 ニンジャ――また前のめりに柱の影からムクッと。

 出てきたらいいじゃんて、こそこそせずにね。

 法神官ダンテマはそれを気にせず話を続けた――

「オメガオーディンはサロニアムの地下に永く封印してきた。ドワーフの力もあったが。何より、サロニアムの王族の末裔の……女性の……」

「女性の……?」

「……古い風習だ。つまり生贄によって、オメガオーディンを卵の状態ヘ封印し続けてきたのだ」

「そのような悪しき風習によって、オメガオーディンを……ですか?」

 ニンジャ驚く。

 コクリと……ダンテマも頷いた。

「……っていうか、ニンジャよ。この程度で驚くなって」

 ダンテマが両手をおいおいとニンジャに向ける。

「お前も承知だろう……。オメガオーディンからの毒気によって、リヴァイアは聖剣士リヴァイアとなり、同時に聖剣エクスカリバーが誕生した」

「御意。そう存じて……伝承にも、そう記録されておりますゆえ」


「いいか、考えろ!」


 クルッと柱に立つニンジャの方へ身体を向けて、法神官ダンテマが声を少し荒げた。

「サロニアムの王族の女性の生贄で封印されてきたオメガオーディンと言う『雌蕊』が、同じ王族の女性である聖剣士リヴァイア……その聖剣エクスカリバーによって、どんなに血を……」

「血を……」

「毒気に侵された血を借りて、ダークバハムートという『雄蕊』をオメガオーディンという『雌蕊』にぶつけても、ぶっちゃけ近郊係数が高いであろう」


「近郊係数……ですか?」


 ニンジャ……、なんだか難しい言葉が出てきたぞっという具合に、元見せたニンジャとしての所為も仕草も隠すことを忘れている。

 やっぱダメだよ。それはニンジャとして――

「近郊係数……つまり野花の受粉だ。これがオメガオーディンを倒せない理由だった」

 法神官ダンテマは窓辺へと歩きながら、そして窓辺にある観葉植物の異世界の花の綺麗な花びらを触り――

「受粉できなくては、死んでも死にきれない……。聖剣士リヴァイアさま以前のやつとの対戦では、これは伝説であるが」

「……はあ? どういうことでしょうか」

「魔法都市アムルルには……オメガオーディンとの死闘から生まれた……、生み出された大魔道士さまがご存命だというが。その子孫が……まあ弟子と言うべきか?」

 法神官ダンテマは静かにそう呟くと、それから沈黙して窓を見上げた。


 最後の弟子――


 なんだか憂う法神官ダンテマとは対照的に、今日のアルテクロスは快晴なのだけれど。





 続く


 この物語は、フィクションです。

 また、[ ]の内容は引用です。



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