第32話 聖剣エクスカリバー

「……レイス。……今頃、どうしていることやら?」

 ……と、レイスのママンがボソッと呟いた。

 ここはアルテクロスのスラムの下水の地下――そう、レイスの育ての親ママンである。

「……元々は、あの城の姫さんじゃから、……俺らには、もう関係ないことだよ」

 と、パパン。

「……そんな寂しいこと、言わないでくださいな」

「寂しいことって言ったって……、事実そうじゃろう?」

「……まあ、そうなのですけれど」

「……………」


 ――2人は沈黙する。


「……レイスには幸せになってほしい。だから、レイスには、こんなスラムの生簀いけすで……一生を終えてはほしくない」

 パパンは俯いてしまった――

 肩の力を落とした姿勢のまま、釣り針のような大きな道具を持っては、……それを綺麗に研磨し始めた。


 本音は――寂しい。

 でも、アルテクロス城の御姫様であることは事実なのだから、スラムで暮らす自分達とレイスは、始めから釣り合わないことは理解していた。

 磨きながら脳裏に浮かぶのは、城からレイスをかっさらてきたシーン。

 一人で歩くことも覚束無かった幼い頃のレイスだった。


 ギギーー ギーー


 スラムの地下に、パパンの研磨する音が無機質に響いている――

「あれで、よかったんでしょうか?」

 ママンは、どうやら夕食の支度なのだろう?

 焚き木の上に乗せた中くらいの窯を覗き、菜箸でゆっくりかき混ぜながら呟いた。

「何がだ……?」

「あの時、お城でレイスを引き取って、……かっさらってきたことですよ」

 ママンはパパンに顔を向けた。

「……結果論だ。分からん」

 顔を振り向けることなく、研磨するそれを見つめながらパパンが言う。


「……………」

「……………」


 そして、……また2人は沈黙した。



 ――その時!

 暖簾をくぐって、3人の孤児達が入って来た。

「ママン! 今日はね、これをかっさらってきたよ」

 1人の幼な子が嬉しそうに――続いて、

「そうじゃないでしょう! みんなで、チームワークでかっさらってきたんだからね。あんただけの手柄じゃないってば」

 ゴツン! 拳をその幼な子にゲンコツする、その子供よりも少し背丈の高い女の子。

「ねえねえ? ママン!! すごいでしょ? あたしたち……」

 最後に、乳飲子をようやく抜け切れた幼児が嬉しい顔を見せる。

 そして、3人は一緒に揃って大切に手に持っていたそれを、ママンに見せた……。


「……あっ! ……ああっ!!」

 それを手に持つママン。

 表情をちょっとだけぎこちなく……作り笑顔を孤児達に見せる。

「あんた達! よくやったね〜。今日はご馳走だよ」


 わーいわーい!!


 ……3人の孤児達はまるでお祭りのように、部屋の中を騒いで駆けたのだった。


 ――スラムで生きる者の運命か?

 この孤児達が持ってきた……かっぱらってきたものは、


『ドラゴンフルーツ……』


 だった――




       *




 ……ドン! ドン!


 入り口の近衛兵が槍を突いた。

「え? はい……」

 応える2人、ここはアリアとイレーヌがいる別塔の部屋である。

「アリア殿。そして、イレーヌ殿。ご準備を……」

 扉の向こうから、淡々と喋ってきた近衛兵――

「え? ……どういうことですか?」

 アリアは扉に近寄り、扉越しに声を上げた。

「兎に角、ご準備を……。詳細はしばらく……」

「……はい。……分かりました」


 耳を澄まして……近衛兵が去って行く足音を聞いてから――

 アリアはそう返事をした……のだけれど、なんだか納得できない様子だった。

 だから――

「あの、イレーヌさん? 今の、……何だったんでしょうね?」

「分からない……」

 イレーヌは窓の外に顔を向けたまま、そう返事をした。

 彼女が見ていたもの――それは窓の向こうの、レイスがいる中央の塔の窓から漏れる金色の光であった。

「……これは、ただ事じゃなさそうだ」

 眉間に少し力が入る。

「……イレーヌさん? ただ事じゃって?」

 それを聞いたアリアがイレーヌのもとへと歩いて来た。

 彼女の気配に気が付いたイレーヌは、

「……アリア」

 振り向いてそう呟き、それから……なんと魔銃を構えたのだった!


「……イ、イレーヌさん?」

 アリア、魔銃を構えるイレーヌに驚きを隠さない。


「アリア! あんたにも今の内にさ、この魔銃の扱いを教えなければね!!」

 魔銃を構えたままで、イレーヌの表情は真剣だった。

「……魔? あの魔銃なんて! ……私が、ですか?」

 アリアはたじろいだ。当たり前である――

「いいから! あたしが命を落としたら、この魔銃は、あんたが扱うんだからね」

 イレーヌが急かす!

 構えていた魔銃をくるりと反転させ、銃床をアリアに向けて、さあ持ちなさい! というように――


「えー!! イレーヌさん。それって、いつ決め……」

 びっくり仰天のアリアは、たまらず両手をほっぺたに当てた。

「今、あたしが今決めた!」

「命を落とすってイレーヌさん? どういう意味……」

 突然、二等兵志願者にされてしまった感のアリア――

 まるで[FF-X]のオープニング『覚悟を決めろ……』のシーンである。


 物語は突然に始まるもんだ――


「アリア……。あんたには分からないだろうけれどさ。あたしには、傭兵としての戦闘経験があるの」

 赤裸々に語るイレーヌ。

 それにしても、保険屋、運び屋、事情通から……上級メイド、更には戦闘経験まで――

 これだけアビリティがあったら、勇者に転職できますね。

「……そうなんですか。だから……イレーヌさん?」

 そうだった。アリアは天然だったんだ……。

 アリアにとって魔銃を手にするなんて、猫に小判だよ――

「……もう、仲間が死ぬところは、……あたしは見たくないんだから」

 イレーヌは、また窓の向こうのレイスが居る中央の塔の窓を見る。

 以前として、金色の光は……光り輝いていた。




       *




「……始まったか」

 と言ったのは、法神官ダンテマである。

 窓から見える黄金の光が、彼にも見えた――

「……なあ? ダンテマ」

 同じくルンも法神官ダンテマの視線の先、レイスが居る中央の塔の窓を見つめる。

「なんだ?」

 光を見つめたままの法神官ダンテマ。

「お、俺達って……元は飛空艇の仕事屋で……でも、その、なんでこうなったのかなってさ」

 ルンの額には一滴の冷や汗が流れている。

 その冷や汗を、ルンは服の袖で慌てて拭いた。

「ルン、怖気づいたのか? それも、お前らしいのか?」

 身体を半分だけルンに向けて、流し目をするようにルンを見つめる。

 同じ男同士として――お前も飛空艇に乗ってクエストをこなしていた時に、魔物の一つ二つくらい遭遇しただろう?

 心の中でそう思っている法神官ダンテマである。

「――いいか、ルンよ。お前にも愛する人を守りたいと言う……覚悟くらいはあるだろう」

「あ、愛する?」

 ルンはきょとんとして返す。

「……まあ、ぶっちゃけレイス姫様のことだ」


「……………」

 刹那、ルンの時間が止まった――


 そして、

「……は? はっぁ〜??」

 ルンが発狂――?

 一方の法神官ダンテマは、冷静に、

「レイス姫様は今後、オメガオーディンとの戦闘で、最終的に命を落とすのかもしれない――しかし、その結果、世界は平和になるのだろう」

「ダ……ダンテマ? お前、何言ってんの?」

 レイスが死ぬって?

 飛空艇が燃料不足で山裾に不時着した時――夜中、山小屋で目が覚めると魔物に取り囲まれてしまっていて。

 でも、レイス……飛び蹴り連発して自分やアリアを守ってくれた……そのレイスが?

「ルンよ! お前はそれをどう思う? 許すのか、そうでないのか? お前は愛する人をどう助ける?」


「……あ? 愛する?? ……レイスを? ……俺が? 俺がか!!」

 あいつって、元々はスラムのスリ女じゃん。

 俺はちゃんと飛空艇の免許取っていて、真っ当に生きてきた。

 ……レイスとは雲泥の差の人生――雲泥だ!

 ルンは心の中いっぱいに、レイスとの飛空艇ラブストーリーを全否定した。


 ……でも、今はお城の御姫様か?


 一瞬、御姫様とくっついたら、結構暮らしも楽になるかもな……と思ったルンである。

「……………」

 パチパチと瞬きをして、ルンはだんまりしてしまう。

 それを凝視する法神官ダンテマ――

「ふふっ。はは……、ははは……。ふふっ ……あははは」

 こんな風に、お腹を抱えて笑ったのであった。よく笑う人ですね――

 

 法神官ダンテマは、笑いながら窓の向こうを見上げる。

 レイスがいる中央の塔の窓である。


 黄金に光っている窓、見ていると、光がスッーと薄くなり消えていく――




       *




「魔法電文! 追加届きました!!」

「そこで読み上げなさい!!」

 クリスタ王女が叫んだ。



“我 一兵にて 最後に伝達 村は壊滅 村人も 子供も 虐殺”


“我 力尽きる前に これを伝達 アルテクロス 永遠にあれ――”



「い、以上です……」


「……………」

 クリスタ王女はしばらく沈黙した。しかし、すぐに――

「我が君臣の兵士よ! そなたの最後の伝達は必ずや、アルテクロスの歴史に残すことを……、残すことを約束します。……必ず、…………」

 命尽きるその最後まで、アルテクロスの兵士として忠誠を誓い戦ってくれたことに、クリスタ王女は自らの気持ちを天に届ける思いで、大部屋の中央で叫んだのだった。

 王女が、枯れた花瓶の花のようにガクッと項垂れてしまう――

 へなへな……と、とうとう力尽きて床に伏せてしまったのだった。


「クリスタ王女様! 母様!!」

 たまらず、レイスは王女に寄り添い両肩を摩る。

 レイスはクリスタ王女の項垂れたその姿を……もはや正視できない。

 瞬間、頭の中に恐怖心が芽生えた。

 両目をギュッと瞑るレイス――怖くなる。

「私は……どうしたら? ……なんで、こんな目に? ……私の人生って、人生って、これから過酷なんだなろうな? 私は、どうしたら……? どうしよう……」


 ……スタスタと、目前の床から足音が聞こえてきた。

 その足音は……次第に項垂れるクリスタ王女と自分――レイスの方へと向かってくる。

 レイスは、ゆっくり目を開けた……。


 恐怖に支配されているレイス――瞳孔を大きく開いたまま無心で……、縋る思いでその人物を見上げていく。

 聖剣士リヴァイアを――



「くくっ……。ははっ! ははははっ……」

 なんとも、リヴァイアは笑った。

「……へ?」

 ウルスン村のアルテクロス兵が全滅したことを聞いて、それと目の前で力尽き倒れているクリスタ王女を見て、恐怖で頭な中が真っ白になってしまっていたレイス――対照的に、魂を分けた姉である聖剣士リヴァイアはおもいっきり笑っていた。

「……。リヴァ……?」

 レイスは……というと絶句である。

 肩を揺らし笑い続けているリヴァイアをしばらく見上げていて、いつの間にか恐怖心も消えてしまった。


「いや……申し訳ない」

 リヴァイアがレイスを一目見てから言う。

 聖剣士さま――ポケットからハンカチを取り出し、それを口に当ててから一呼吸。

「レイスよ……。お前には分からないだろう。私は1000年の時を奴と……オメガオーディンと戦ってきた。奴は何も気が付いていない様子だ。古来からの虐殺の繰り返しをして、何も学んではこなかったようだな……」

 両足を広げて腕を組み、レイスを見つめて立っているリヴァイア――

「あの? 聖剣士さま? ……何がおかしいのでしょうか?」

 至極当然のレイスからの質問である――

「レイスよ……。お前には、多分、分からないだろうな」

「……ですから、何がでしょう?」

 大きく開いていた瞳孔も元の大きさに戻り、今度はキョトンとした表情に変える。

 それをリヴァイアは見ると、また……くくくっと口を緩めて笑う。

「……なあ、レイスよ! 私は長くオメガオーディンとの戦闘を生きてきた。私が一番初めにオメガオーディンと戦った時のことを話しておこう……」

 突然、リヴァイアが昔話を語りだす――




       *




 ――私は、その時は、まだ剣士のリーダーでしかなかった。

 サロニアムの第四騎士団の長リヴァイアとして、城を魔物から敵兵から守っていた。


 ――奴は……オメガオーディンは、どこからともなく現れてサロニアムを襲って来た。

 後で知ったことだが、奴は『最果ての異空間』からやって来たという。


 私は……サロニアムの兵士達は、私と共にとても勇敢に戦ってくれた。

 でも、奴は強すぎた。

 一人、また一人と力尽きて倒れて死んでいったのだった……。


 最後に、味方は私を含めて数十人にまで減ってしまった。

 それでも奴は、攻撃の手を緩めはしない……。

 闇そのものであるオメガオーディンは、光に反射されて見える、そのすべてが敵なのであった。


 私の目の前に奴が来た。

 もうダメだと……、私は殺される覚悟をして、最後の力を振り絞ってこの剣を両手で握り締めた。

 その時だ――


 オメガオーディンは召喚魔法を使って、『大海獣だいかいじゅうリヴァイアサン』を召喚した――



「大海獣リヴァイアサン……」

 話を聞き入っているレイスが、思わずその名前を呟く。

 コクリと……。

 リヴァイアは一つ静かに首を縦に振ってから、

「――リヴァイアサンの吐く霊水れいすい、……毒を盛って毒を制すとは言うけれど、その霊水の毒気をリヴァイアサンが私目掛けて、勢いよく吹き掛けてきたのだった」

 そう話してから、リヴァイアはレイスに向けていた視線を隣の床へと反らす――

 組んでいた両腕を解いて、腰に下げている聖剣エクスカリバーを摩った。

「まともにリヴァイアサンの霊水を浴びた私だった――本来ならば即死だったろう。だけどな……私は死ななかった」

「……どうして、……死ななかったのですか?」

「分からない。霊水の毒気を浴びた時に、この剣を条件反射のように突き出した、そうしたら剣がさっきのように光りだして――」

 


 聖剣エクスカリバーが誕生した――


 私は毒気をもらい――1000年を生きる聖剣士リヴァイアになってしまった――



 それは永遠に生きて、奴と戦う宿命を背負った伝説の聖剣士の誕生なんていう綺麗事ではない。

 聖剣士は、美しい伝説なんかじゃない。



「……あの? 聖剣士さま」

 レイスがリヴァイアに話し掛けた。

 傍で憔悴しているクリスタ王女は、兵士全滅でリヴァイアの言葉が耳に入っていない。

「……リヴァイアでいい」

 リヴァイアは、再びレイスに視線を向けた。

「……大海獣リヴァイアサンって、リヴァイアと同じ名前じゃ」

「ああ、そうだな!」

 少し口角を上げて、リヴァイアが微笑んだ。

「大海獣リヴァイアサン――私の故郷カズースの海に住む神獣しんじゅうだ」

「神獣……」

「カズースで古くから信仰の対象としてきた。オメガオーディンめ……どうして我らの神を召喚できた? ……それとも、まさかリヴァイアサンが心変わりしたとでも?」

 目を伏せてそうブツブツと呟いているリヴァイア、握り締めている剣――聖剣エクスカリバーの柄に力を入れる。


「……リヴァイア?」

「なんでもない……。そうそう! そうだ……私の名である『リヴァイア・レ・クリスタリア』は大海獣リヴァイアサンにあやかったんだ」

「……レ・クリスタリア?」

「ああ! 私もレイスと同じクリスタリア……まあ、その話は今度にしておこう」

 自分の一人娘である初代クリスタ王女の末裔であるレイス――と言う理由がこれである。

「私は――永遠の呪いを背負わされたヴァンパイア・ハーフ、異端の魔女、闇を生きる暗黒魔剣士……。呼び方はどうでもいい。本当に……“末恐ろしい”呪いだよ」

「……………」

 末恐ろしいというリヴァイアの言葉――彼女からすれば毒気により死ぬに死ねなくなってしまったことを皮肉った言い方だったのだろう。

 けれどレイスは、微笑みながらその皮肉を言ったリヴァイアの、表情の奥に見えた“残酷で過酷な運命”に気が付いた。


 こんなのって……、誰に分かってくれと言っても無理なのだろう。


「……それで、オメガオーディンとの戦いはどうなったと思う?」

 リヴァイアは微笑みを終わらせることなく、あっけらかんにレイスに聞く。

「……あの、分かりません」

 小刻みに、レイスは首を左右に振った。

「じゃあ! 教えてやろう」

 一つ大きく肩で息を吐いたリヴァイアが、窓の外に見える月を見上げた――

「本当に懐かしい思い出だな……。運命というのは全く分からん。聖サクランボで修道士見習いをしていた……、何も分からずに子供達に本を読み聞かせていた……あの頃に、私は帰りたい」


「……聖剣士さま?」

「……リヴァイアでいいよ」


 しばらく――月を見上げていたリヴァイアだった。

 微動せず……、時たま瞬きをして月を見上げるリヴァイア。

 月夜に照らされている彼女に見とれてしまうレイス――同性ながらも嫉妬心は芽生えてこず、純粋に美しいと思った。

 だから思わずリヴァイアを、名前で呼ばずに称号である“聖剣士”と呼んだのであった。


 リヴァイアの唇が少し開く――

「大海獣リヴァイアサンが召喚された時も……こうして月が綺麗だった。サロニアムの騎士団は、こんなにも綺麗な月夜に死に物狂いになって……ボコスカに……そう戦っていた」


「騎士団だから……。ここで命を落としても……。そう、割り切って――」

 リヴァイアは呟く。

 すると――

「リヴァイア?」

 レイスが彼女の名前を呼んだ。


「みんな……本当は死ぬのが怖かった」

 見上げて月を見つめたままだった。

 リヴァイアはその神妙な表情を変えずに、そう言ったのだった。

「――私は毒気を浴びて、永遠に……この世界のために、奴から、オメガオーディンから救う運命を背負わされたのだ。お陰で私はこうして今も生きて、そしてこれからも……運命を背負わされて」

 1000年を生きてきたリヴァイア――

 その長い長い一日を、彼女はどう思い過ごしてきたのか?

 “末恐ろしい”呪いで死ぬことができなくなり、闇そのものの存在であるラスボス・オメガオーディンと幾度も戦ってきたのだろう。

 周囲にいた騎士団の兵士達は、皆戦いに敗れ死んでいった――


 自分だけが生きている――という負い目もあるのかもしれないが、見上げる彼女の横顔からはその心痛をうかがうことはできなかった。

「……恐れながら、リヴァイア」

 だから、レイスは勇気を出して――

「恐れなくていい……我が最愛の妹よ」

「……リヴァイア。あの聖剣士になったことを……なってしまったことを、……あの恨んでいますか?」

 ――その質問。

 それはレイス……自分自身にも重ねた質問だった。

 いつの間にかレイスも、アルテクロスの御姫様ということ、『究極魔法レイスマ』のトリガーになっているということ、飛空艇仲間4人が世界を救う運命を背負っていること、それらを知ってしまい。

 リヴァイアも……、オメガオーディンとの戦いで聖剣士になってしまったということを、毒気で永遠に生きなければいけなくなってしまったことを……。

 どう、自分自身で消化したのか?


「はははっ……」


 リヴァイアは目を閉じて少し下を向くと……、はにかんで笑い飛ばす。 

 彼女の表情は、なんだか晴れ晴れとしている。

「……?」

 レイス、瞬きを数回パチパチさせた――自分の過酷で残酷な運命を、どうして笑えるのだろうと。



 作者が教えましょう――


 聖剣士リヴァイアの心の中の本音は、『私を褒めてください』です。

 彼女にとって、リヴァイアサンから受けた毒気による呪いはコンプレックスそのもの、だけれど、その呪いは永遠に消すことはできません。


 リヴァイアは、それを心の中でどう受け入れればいいのかを――人知れず1000年も苦しんで考えました。

 その解答が、今、彼女の見せている笑顔なのです。


 せめて、あなたに褒めてもらえませんか?

 我が最愛の妹、レイスよ――私は戦い続けてきたのです。



「――さあ! 聖剣エクスカリバーよ!!」

 刹那、リヴァイアが再び輝く始めたそれを見る!

「私は死ねなくなった……。オメガオーディンよ、お前が召喚した大海獣リヴァイアサンが吐いた毒気のせいで、私は死ねなくなってしまった。……でも、それもこれまでだ!!」


「――私は、もうこの戦いに飽きたぞ! オメガオーディンよ!! ……たから、この聖剣エクスカリバーを新たに……新たにして。……なあ! 聖剣エクスカリバーよ!!」


「………新たに?」

 リヴァイアが言い放った言葉の……最後の方で、レイスは彼女が少し言葉を詰めらせたことを気にした。

(この聖剣エクスカリバーを新たに……)

 どういう意味なのだろう? ……そうレイスは思った。

 そして――

 同時にスラムでスリ女として生きていた自分の姿が、頭の中に浮かんだ。

 何故、浮かんだかといえば……、


 スラムの頃の私――私なりの後ろめたさがあったっけ。



 グオンッ!!



 リヴァイアが、聖剣エクスカリバーを鞘から抜いた!

 抜いて! その剣を高らかに掲げたのだった!!


「――我、聖剣士リヴァイアが愛する分身、太古の覇者、死骨竜の骨身たらしめる『リヴァのつるぎ』よ! その正なる、せいなる、聖なる!!」

 ……と、ここでクリスタ王女を抱え続けるレイスを見つめる。

 クリスタ王女も大分気持ちが治まったようで、リヴァイアの顔を見上げていた。



「――聖剣エクスカリバーよ!! 我と新たに生まれ変わり、そして共にあろうぞ!!」





 第三章 終わり


 この物語は、フィクションです。

 また、[ ]の名称は引用です。

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