第31話 聖剣士リヴァイアは、両目から一筋の涙を静かに流した――

「彼女にとってレイス姫は、最愛の妹……、なのだから。……だから、最愛の妹を死なすわけにはいかないのだ。――彼女は必ず動く、動くしかない! ――動いて、オメガオーディンと対峙することを望むだろう。必ずな!!」


 嵐の前の静けさか……、港町アルテクロスが、オメガオーディンの魔の手に掴まるかもしれない中でも、静かに輝き続けている月が、窓辺に立つ法神官ダンテマを鋭く照らしている――


「……聖剣エクスカリバーさえ無くなれば、どれだけの時が流れても、究極魔法を発動することができなくなるのだからな……」

 何事もない夜であるなら、絶好の月見日和な光景なのだろうけれど……、それとは、似ても似つかない法神官ダンテマのシリアスな話。

 ついさっきまでは、月を見上げて美しいなと見とれていた法神官ダンテマだったが、今はそうではない。

 彼の表情は憂いていた――

「オメガオーディンの本当の目的は、……レイスを囮にして彼女を倒すことなのか?」

 なんだか急転直下な話になってきたな……と、ルンは思った。

 そして、少し怖くなってきた様子で、組んでいた胡坐を止め両足を床へと静かにおろす。


 法神官ダンテマは、ルンの言葉にうんうんと何回も頷く。そして唇を噛み締めながら――

「大帝城サロニアム・キャピタルの皇帝が、考えそうなことだ……。そこまでしても、アルテクロスの塩が欲しいらしい……」

 ガクッと顔を下げて呆れ果てた表情になり、そう静かに呟いたのであった。


「……? 塩?」


 あまりに小声でそう呟いたものであるから、ルンには法神官ダンテマの言葉……正確には語尾の辺りがよく聞き取れなかった。

「…………ダンテマ?」

 ルンが問い掛ける。

 けれど、法神官ダンテマは彼を見ようとはしなかった――


「ルン殿……」

 代わりに話し掛けてきたのは、部屋の入口近くでフードを被り低姿勢で待機していた預言者だった。

「……?」

 あまりの存在感の薄さで忘れ掛けていたルン、ちょっと不意を突かれた感で、少し慌てて預言者へと振り向く。

 ……預言者はそんなルンを何とも思わず無表情で見つめる。

 見つめる両目が鋭くて、それなりに事態の深刻さを感じつつあったルンである。

「……………」

 預言者はしばし沈黙した。

 胸の辺りが大きくなったり小さくなったり……呼吸しているのが分かった。

「……ルン殿。オメガオーディンを封印するために必要不可欠なアイテムの一つ『キングのしるし』が、すでに悪の手の中にあるということを意味しています」

 無表情のまま、素っ気ない口調で預言者はルンに言った。

「……どうして分かるんだ? サロニアムが自分達人間やエルフやドワーフを裏切って、オメガオーディンに寝返るってことを?」

「……ですから、最初に申し上げた通り大帝城サロニアム・キャピタルは、全てウソでできている帝国なのですよ」

 預言者はグッと顔を上げるや、ルンの目を見つめてハッキリと言い切った。

 それから……、何故かは分からないけれど深く一礼した。


「教えてやろう! ルン」

 顔を上げた法神官ダンテマが、ルンに語り掛ける――

「サロニアムは内陸の砂漠の帝国だ。古来から、ここアルテクロスの塩を狙っている。それは……今も同じだ」

「……そうなのか? あの大都会のサロニアムが……、皇帝の力でなんでも手に入るんじゃ」

「砂漠では塩は取れないからな……。ルンよ、我々が生きているこの世界というのは、所詮、こういうものなのだ。何不自由無く……海水から塩を取っているアルテクロスの住民には、砂漠の国の苦労なんて実感が持てないな……」

 法神官ダンテマは、窓辺から港町アルテクロスの街を見下ろす……。

「……長いサロニアムの歴史で、一時期南方のゾゴルフレア・シティに遷都して、ウォルシェの岩塩鉱で塩を取っていた時代もあったのだけれど……岩塩が枯渇してしまい廃都されてしまった」


 藁にも縋る思いというのを醜いと言ってしまうことは容易ではあるけれど、砂漠の国の帝国――大都会の住人にとって飛空艇のエネルギー源である“塩”がなくては生きてはいかれない。

「戦の始まりというのは……そういうものだ。まあ、世の常だな……」

 悪魔に魂を売ってまで、魔物にひれ伏し奴らと組んででも生き延びたい――

「密輸してまでも手に入れたい……。独り占めしたい……。アルテクロスと結んだ関税条約なんて反故にしたい。帝国らしいプライドそのものだ!」

 窓の外に吐き捨てるかの勢いで法神官ダンテマは愚痴をこぼすと、それから一呼吸して気持ちを整える。

「……その帝国の地下深くに眠っていたオメガオーディンが目覚めた。いいか、ルン? よく聞け!」

「ダンテマ?」

 くるりと向きを変える法神官ダンテマ、ベッドの上にちょこんと座っているルンを見る。

「……………」


「……ダンテマ?」


 2回パチパチと瞬きをして……、なんだか緊張しているルンだ。

「ルンよ……。オメガオーディン……自分を封印する要素の一つ『レイスのしるし』が、いまここアルテクロスにあることは……分かるか?」

「……レイス、自身のことだよな?」

「ああ、そうだ」

 天秤の間でサスーガ領主とオーラン大臣から聞かされた、オメガオーディンを封印する3つのアイテム。

 その一つである『レイスのしるし』、

「……レイス姫の胸元に刻まれているというそれだ。……まあ私は見たことはないけどな、クリスタ王女は当然のこと知っているはずだ」

「生みの母親だから?」

 ルンが言うと、法神官ダンテマは大きく頷いた――

「……なあルンよ。もしも、ラスボスから世界の半分を与えてやるから……だから協力しろと言われたら。お前はどうする? 拒むか? それとも迎合するか??」

 法神官ダンテマからルンへの、唐突な問い掛けであった。

 相手は、オメガオーディンは決して死なないラスボスである。

 そのラスボスと戦わなければいけなくなった、レイス。そして、自分達――ルン、アリア、イレーヌ。


 この世界を――アルテクロスを平穏へと導きたければ、“戦う”を選択しなければいけないことは分かり切っていた。

 けれど――

「勝てるのか? 俺達は、ダンテマ??」

 ルンが問うた――いつも明るい表情をしているルンが、珍しく切羽詰まった表情になって、


「さあ……」


 法神官ダンテマはここに至って、そう曖昧な返答をした。

 一方のルン、意外にも――おいおい牢屋で言ってたじゃんか……。

 預言者が自分達は世界を救うことになるって――ここでお墨付き、太鼓判をもらって意気投合したかった。


 あわわと少し慌てるルン、そんな彼の姿をじーっと見つめる法神官ダンテマ。

 ふふっと口元を緩めてほほ笑むなり、窓の外――レイスがいる塔を見つめる。

 そして――



「…………さすが、伝説の聖剣士リヴァイアさま。……お早い御着きで」




       *




 ここは、アルテクロス城の最上部の塔――


 月明かりが雲に隠れて、レイスとクリスタ王女がいるこの大部屋が、暗闇に包まれていく……。

 しばらくして――


 〜〜 ~


 気が付くと、ベランダへと続くガラス扉が半開きになっている。

 ……そこから、ひんやりとした海風が中へと入ってくる。

 海風に触れて窓のカーテンがなびいている。白いテーブルクロスもゆらゆらと揺れている。


「ん?」


 レイスが……大部屋の自分達がいる空間に、なんだか分からないのだけれど違和感を感じた。

 自分の髪が海風に触られ、撫でられるかのように優しく当たっている。


 アルテクロス城のそれぞれの塔の上の、はためくクリスタ王家の旗と同じように――

 月の光が差し込む大部屋に、吹き込んでくるひんやりとした海風。

 夜も深まりつつある中で、光と風が織り成す光景は俯瞰して考えると神秘的に見えるのではあるが、どうもそのようではない。

 ――レイスが違和感を感じているように、大部屋の中に見えない緊張感が張り詰めている。


 〜〜


 クリスタ王女の髪も、同じく海風によって靡いている。……けれど王女は微動せず、髪を手櫛で整えようともせずに、大部屋の隅の一点を見つめている――

 そこは月明かりも届いていない暗闇だった。

「……ああ嬉しい。……来てくださったのですね」

 クリスタ王女は感極まりながらそう呟き、立ち上がり……思わず数歩、その一点に向かい歩き出す――


「――当たり前だ。私が来ないでは戦えないであろう」


 その人物も王女と同じように、数歩前へと足を出した。

 足元から上半身へと、月明りを浴びていく人物――

 海風に吹かれて……、脹脛ふくらはぎまで伸びる髪が大きく揺れているのが見えた。

「……誰?」

 レイスもその一点――その人物を、瞬きするのも忘れ見入った。


 ――すべてが、そこに立つ人物のシルエットを姿形だけでなく、その人物の存在感までをも引き立たせている。



「……ああ。聖剣士リヴァイアさま!!」



 クリスタ王女は感動――すぐに片膝を突いて深く頭を下げたのであった。

「……聖剣士リヴァイアさま?」

 続いてレイスも呟くと、無意識に……ベッドから立ち上がっていた。

 両足を肩幅に開けて立ち尽しているレイス、その人物――聖剣士リヴァイアを見た。



 1000年前から生き続ける聖剣士リヴァイア――リヴァイア・レ・クリスタリア。

 背丈は一般的な女子より少し高めで、細身である……けれどバスト・ウエスト・ヒップはそれなりにメリハリがつく。

 ストレートの髪の毛……脹脛まで伸びていると書いた。

 雪山の頂上に降り積もっている万年雪のような色……ホワイトの髪の毛。

 首の後ろにオレンジ色のリボンで結っている。


 第四騎士団の長という経歴から、騎士らしく甲冑を身にまとっている……かと思ったら、そうではない。

 レイスが今着ているような、港町アルテクロスの路地で売っているカジュアルな服とスカートをリヴァイアも着ていた。

 街中で色鮮やかな花々を売り歩いている花売りの女の子のような、軽くて動き易そうなそれに近い。


 勿論、腰には聖剣エクスカリバーを提げている――


 このような容姿で聖剣士と冠がつくのだから、彼女の剣の腕前は確かなのだろう。

 そうでなければ、あっさりと深手を負うのだから――



「……レイス。我が最愛の妹」

 と言うなり、リヴァイアはレイスのもとに駆け寄った。

 そして、彼女はギュッとレイスを固く抱き締めたのだった。

「……………」

 呆然としてしまった、レイス。

「……すまない」

 リヴァイアが魂を分けた妹レイスに語った言葉は……それであった。


 聖剣士リヴァイアは、両目から一筋の涙を静かに流した――


「……分かんない。あの、分かんない。……分かんないです」

 レイスは呪文のように言い続ける。

 次第にレイスも目に涙の粒を潤ませた――

「私……リヴァイアが魂を分けた、お前の姉でなければ。……お前は、ずっと、ずっと、……ずっと自由に、アルテクロスで生きられたのに……」

「どういう? そんなこと?? どうして……」

「生きられたのに……すまない」

「……すまない、こと……なんてことは、……」

 レイスは混乱した。当然だった――

 伝説の聖剣士リヴァイアと対面して、いきなり抱擁されて、更にはいきなり謝られ……。

 レイスにとっては、連続して降り掛かってくる難解な情景なのだから。


「レイスよ……。今はまだ分からないだろう。でも、それでいいのだよ」

「どういうことですか? 聖剣士さま」

「私のことは、リヴァイアでいい」

「……リヴァイア? どういう……」

 抱擁していた力を緩めつつ、リヴァイアはレイスの腰に両手を伸ばして当てる。

 久方ぶりに再会した姪っ子を見つめるように……。

 ――レイスは、未だキョトンとしている。

 頭の中の混乱を整理するには、まだ早かった。


「私は誓う……。お前の胸元に刻まれている『レイスのしるし』を……決して、決して、決してお前の命を守り抜いて……リヴァイアは、必ず我が命題を乗り越えることを」

「我が命題……?」

「オメガオーディンと対峙するということだ……。レイス、お前の胸元のそれと一緒に……」

「私のしるし……? 胸元の、これのことですか? 母様が仰ったオメガオーディンの呪いと対峙するための紋章?」

「ああ、そうだ……」

 リヴァイアは深く頷いた。

 レイスは上着のシャツのリボンを少し緩めて、胸に刻まれているを彼女に見せた。


 ……大胆だね。


「これって単なるあざだって。ママんとパパんから……そう聞かされて」

 レイスの胸元には、うっすらと十字のしるしが刻まれている。

「これが、しるしなのですか? 聖剣士リヴァイアさま??」

「リヴァイアでいい。そうだ……」

 もう一度深く頷いたリヴァイア、顔を戻すとレイスの目から視線を外さない。

「あの……、リヴァイア。……その“私の命を守り抜いて”というのは、どういう意味なのですか?」

「……レイス。お前はまだ幼い姫様だったから覚えてはいないだろうが、神官達がお前を生贄にしてダークバハムートを無理矢理召喚させようとして」

「……サスーガ領主様とオーラン大臣様が仰っていた話ですね」

 それは、自分を生贄にしてオメガオーディンを封印しようとしたこと、その自分をサスーガ領主とクリスタ王女が強引に神官達から引き離したこと。

 自分をかくまい続けていた丁度その時に、お城の財宝を強奪しようと偶然に城内に忍び込んでいたスラムの盗賊――育ての親であるパパンとママン。

 城から逃がすために2人に幼い我が娘を渡したこと。

 レイスはしっかりと心に留めておいた、自分の生い立ちを思い出す――


「お前の命を犠牲にして、例えオメガオーディンを封印できたとしても……。お前のいない世界に何の価値があるというのか? ……レイス、お前はこの世界が好きか?」

 表情を変えないままのリヴァイアは、そうレイスに質問する。

「……好き……か、ですか?」

 どうなんだろ? ……レイスは瞬間そう思った。

 世界が好きか嫌いかなんて、今まで思ったことがなかった。

「レイス……。ルン達は好きか? アリアやイレーヌは好きか?」

「……ルン? あいつですか?」

 はあ~? ……と、またも瞬間思った。

 う~ん? ルンは、どちらかというと嫌いだ!

 ……いまだ、自分をチームリーダーとして認めてくれないルンなんて、飛空艇のキッチンの隅に置いてある残飯たっぷり詰め込んだゴミ袋程度にしか思えない。

 それに対して、アリアはせっせとクエストを仕入れてくれるし、イレーヌは魔銃をもっているから正直言って逆らえない……。

 飛空艇ノーチラスセブンの上下関係はというと……、


 イレーヌ > レイス > アリア > ゴミ袋 > 港に停泊中にそのゴミをおねだりしてくる野良猫 > ルン 


 ……としか思っていない。


「……まあ、みんな好きですよ」

 レイスは少しだけ口籠って、リヴァイアの質問に建前で返した。

「みんな……それなりに個性的だし、これから一緒にクエストを一つ一つこなして行けたらなって……思いますから」

「……そうか、……そうだな。…………ふふふっ」

 レイスの腰から手を放し、両腕を組んだリヴァイアが前屈みになって微笑んだ。

「……ふふっ。仲間がいることはいいものだな、レイスよ」

「……リヴァイア?」

 更に微笑みを増したリヴァイア、前屈みの姿勢を一層丸める。

 一方のレイス、一体何がそんなにおかしいのか? ……何か自分が変なことを言ったからかな?

 まったく分からなかった。

「ふふっ……。守りたい人がいることは、いい……」


 カツッ……


 腰に下げていた聖剣エクスカリバーのさやの先、こじりが床に突く――


 その音に我に返るリヴァイア、しばらくしてスクッと背を伸ばしてから、

「オメガオーディンとの戦いが終わったら……。レイス、お前に見て欲しい。――カズース、私の生まれ故郷の木組みの街の岬から見る大海原を――壮観だぞ」

「木組みの街カズース? ……って、あの大通りの掲示板に貼られている観光名所の……、大雪の中に浸かる天然温泉街があることで有名な」

「……そう、戦いが終わったら一緒に入って疲労を癒そう」

 くくっと口角を上げて笑顔になる。

「……はい、約束します」

 レイスは大きく頷く。何故なら、本当に天然温泉に浸かりたかったからだ――


「ああ、約束だ。レイス――レイス・ラ・クリスタリア」


「……レイス……ラ……?」

「レイス・ラ・クリスタリア……。お前の本当の名前だ」

「……レイス・ラ……クリスタリア……、ですか? 私の本当の……」

「そうだ……」

 リヴァイアはゆっくりと右手を上げて、レイスの胸前に垂らしている髪を優しく触った。

「1000年前から継承されている、由緒正しきクリスタリア家の末裔の証だ――」



 私達の娘からの――



 レイス――

 その笑顔になったリヴァイアの姿を間近に見ていて……、なんだか想像していた人物と違うなと感じた。

 聖剣士と冠がつくのだから、いつぞやの洞窟クエストでバッタリの鉢合わせになった、骸骨の女騎士の蘇りヴァージョンみたいかなと……内心恐怖していたのだけれど。

 頼れるお姉さん――に見えた。


 ……慕ってもいいのだろうと、否、慕うべきなのだろうと……。

 世界を救うためにも、アルテクロスの御姫様としても、私は……。


 今宵、初めて出会ったリヴァイアに対して、心の中にじわじわと信頼感が芽生えるレイスが、覚悟を決めた自分自身に一層の自信を加える。

 アルテクロスの御姫様としても、皆の期待に応えなければいけないと。


 このリヴァイアと一緒に――




 ――その時である!




 ドン!! ドン!!


 扉の向こうから、近衛兵が床に槍を突いた。

「何事ですか?」

 クリスタ王女が扉に向かって大声で尋ねた。

「申し上げます! ウルスン村から緊急の魔法電文が届きました」

「緊急の……? そこで魔法電文を読み上げなさい!!」

 一瞬、表情をしかめたクリスタ王女、厳しい口調で言い放った。


「はっはい! では……」



“我ら 軍令に 忠実に従い”

“今日まで 村を死守せんと”


“必死に 戦い抜いて”

“結果 玉砕が濃厚と判断”


“アルテクロス 万歳――”



「なんです……? ウルスン村が堕ちたというのですか!」

 力が抜けヘナヘナと……、クリスタ王女がベッドに倒れ込もうとして、

「母様! ……聖剣士さま!!」

 すかさず、レイスはクリスタ王女に寄り添い王女を両手で支える。

 そして、目前に立つリヴァイアを見上げたのだった。


 リヴァイアはというと、

「……ほう、私を誘き出す手間を削いだか? 悪に屈服したサロニアムよ。悪そのものであるオメガオーディンよ」

 リヴァイアの鋭い声が大部屋を震わせた!

 と同時に、リヴァイアが腰に提げている聖剣エクスカリバーが光り始めた!!


「……ほう、お前もうずくか。聖剣エクスカリバーよ。まあ逸るでない……」

 リヴァイアが柄頭を摩る。

「所詮は、分かり易い愚行だ……」

 呆れた感じの物言いだった――

 1000年を生きるリヴァイアにとっては、何度も何度も遭遇してきた魔族達との、戦の中の一場面にしか思ってかった。

「オメガオーディンよ……お前らしい。自分は封印されるだけだからとか、安易な考えで……。そう、いつまでも、いつまでも思っているのだろうな?」

 想い見つめる宿敵に対して言い放ったリヴァイアが、ギュッと柄を握り締めた。

 唇は口角を上げたままで……、見ようによっては不適さ極まった表情である。

「この聖剣エクスカリバーの使を……、今度こそ、今度こそ、……今度こそお前に。この世界に闇は今宵のような闇夜だけで十分だ。――消えなさい!!」

 リヴァイアが言った使とは、何を意味しているのか?

 クリスタ王女を支えながら見上げていたレイスは、当然のこと分かるはずもなく――


「我が聖剣エクスカリバーと、我が身をもって、必ず!!」


 おもむろに鞘からそれを抜いて、大部屋の天井高くまで掲げる。

 刹那――聖剣エクスカリバーの輝きが、まるで山裾から昇る朝日の最初の光のように、大部屋を明るく包み込んだ。



 ――それは決して、淡く優しげな小春日和のような温かい光ではない。

 何度も何度も勝敗を潜り抜き、戦いを挑み続けた聖剣の血気漲る闘志と言っていいだろう。

 港町アルテクロスを月夜が照らす中で、対照的な聖剣から放たれる力強い光というのは、……なんとも、つり合わない光景だった。


 けれども、聖剣士リヴァイアとオメガオーディンとの“再戦”を告げていることは確実だった。





 続く


 この物語は、フィクションです。

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