第30話 なんで、こんな大それたストーリーになっちゃったんでしょう?
「ってば、思い出した! アリア!」
ここは別塔の最上部の迎賓の間――アリアとイレーヌが宿泊する部屋である。
「あんた、王様に何質問しまくっているのよ!」
「もう……、イレーヌさんって!」
イレーヌがアリアを正座させて、どこかの名作アニメのように座布団で長時間……じゃないいけど、ガミガミと説教を始めたのでした。
「イレーヌさん……。そんなに怒らないでくださいよ」
アリアはしょんげりとな。
「怒ってるって! あんな恥ずかしい質問を、よくもまあ……できるよな」
イレーヌ、ゲットアングリーしまくりだった。
「えっ~。全然恥ずかしくもないですって。だって、分からないから質問したんだし……」
あーもう!!
イレーヌが髪の毛を掻き毟る。
分かるよ……。天然な人に文句を言った時の、立て板に水なリアクションされたその苛立ちが……。
「だ・か・ら!! 聞いてるあたし達が、恥ずかしかったんだってばさ!」
「え~。なんでですか?」
首を傾げて(本気で)理由を尋ねるアリアである。
「なんでも! あんたさ!! 広間に法神官ダンテマ様がいらしたこと知ってるでしょうが!」
「はい、勿論ですけど……」
「勿論ですけど、じゃなーーい!」
再び、イレーヌが髪の毛を――
しかし、アリアはいまだキョトンとした表情で続けて、
「イレーヌさんってば! そんなに髪の毛が洗いたいなら、先にあのバスルームに入ってくればよかったのに。先に使っていいですよ。……私は後から入りますから」
指さした先は、自分達が今晩泊まる部屋のバスルームであった――
「じゃなーーい!!」
すかさず、ツッコむイレーヌだ。
「……もう? 今日のイレーヌさんって、何か変ですよ? どうしたんですか?」
「あんたが変なのよ! アリアってば!!」
天然ぶりはいつも本領発揮のフルパワーである。
この別塔にも、朧月から差し込んでくる淡い明かりが当たっている――
「……あたしを知ってるでしょ?」
「何がですか?」
「何がですか、じゃない! あたしの立場のことを……」
「はあ……立場ですか?」
と、アリアはしばらくイレーヌ曰くの立場というものを考えてはみたけれど、やっぱり分からない様子だ。
腕を組んで上半身を揺らしながら……
……ふう。
たまらず一呼吸ついたイレーヌだった。
「……あたしは、その……塩の運び屋とか、密売とかやってきたから……。その法神官ダンテマ様がね、その気になれば簡単に」
「簡単に……何ですか?」
「簡単に、あの世行きな立場なの。だから、そこんところを、しっかり分かってよね……」
天然のアリアに説明するのは気が折れる……。
自分は“裏稼業”の経歴があるのだから、発言には注意してほしいというイレーヌからのお願い。
それを伝えて、そしたら今度は彼女がしょんげりとな……。
例えるならば[FF9]のオープニングに登場する、主人公が雨に打たれている場面です。確か?
「ああ!!」
アリアは、両手をパチンと鳴らした。
「港で魔銃をズギューーンのことですか? あははー。いくらなんでもあれはヤバいですね。はははっ」
「笑うなーー!! あたし達は仲間なんだから……あんた、もう少し私の気持ちを察しようよね?」
「ね? はい、勿論ですよ。イレーヌさん」
正座させられたままのアリアだけれど、とびきりの笑みで返事した。
「兎に角、法神官ダンテマ様の前でズギューーンの話は、あれ、あかんやろ?」
少し気を取り戻したかイレーヌ。
しょんげりしていた姿から一変して、スタスタと窓際の椅子まで歩いてズドッと深く腰掛けた。
頭に血が上って高揚してしまった自分を抑えようと、肩で深呼吸してからゆっくりと目を閉じる。
窓から差し込む淡い月の光を、全身に浴びている――
「でもでもね! イレーヌさん。あのズギューーンってやつ、アルテクロス中に噂が広がっていますって。だから、今更隠しても……」
「もういいよ……アリア。少し静かにしてくれないか……」
しばらく時が流れて――
「ところで、大丈夫ですかね?」
正座を律儀に続けていたアリアが、ふと思い出したのか立ち上がる。
スタスタとイレーヌが座っている窓辺まで来ると、窓枠に両手を乗せて朧月の左にそびえる大きな中央の塔――両天秤の間があるところから、更に上を見上げた。
「……大丈夫って?」
眉間に垂れた前髪を手で掻き分けながら、目を開けたイレーヌ。
「レイスさんのことですよ。特別のお部屋に行った……特別というからには、あの中央の塔のてっぺんですよね?」
「レイス……」
イレーヌも座りながら、同じく視線を中央の塔へと向ける。
「イレーヌさん。私達4人。これからさ、どうなっちゃうんでしょうね?」
「……うん」
浅く頷いただけのイレーヌ――正直、自分にも分からないが本心だった。
本当に、なんでこんな大それたストーリーになっちゃったんでしょう?
レイスもルンも、アリアもイレーヌも、4人って港町アルテクロスの飛空艇の便利屋と、元上級メイドで密輸兼情報屋ですよ。
「……私、ルンさんの飛空艇チームに志願した時の動機ってね。うわー!! 飛空艇があったらどこにでもひとっ飛びこれで、楽して稼げるって……」
「アリア……、あんたって人は。志願した動機がまるで遊園地の子供だな」
イレーヌは視線をアリアには向けず、レイスのいる中央の塔をじっと見つめ続けていた。
内心、動機不純な内容に呆れながら……。
「……イレーヌさん?」
「……なあアリア。あたしって後からチームに入って来たけれどさ。あんたは、あたしのことを仲間だと思ってくれている?」
顔を向けて、自分を見ているアリアにイレーヌが唐突に尋ねる。
「どうしたんですか? イレーヌさん……」
「あたしはさ……仲間だと思っているから」
そう呟いてから、ずっと手に持っていた魔銃の銃口を下に向けた。
(えっ? ずっと持ってたの、イレーヌ??)
「藪から棒ですね~イレーヌさん。そんなの当たり前じゃないですか……」
少し頬を赤らめて、照れながらイレーヌの素直な言葉に感謝したアリアだった――
*
「ルンよ。今後の参考のために、お前に言っておこうと思う――」
ダンテマは窓辺の椅子に腰掛けて、テーブルのグラスにチェリージュースを注いだ。この世界にもサクランボがあるのです。
そういえば――リヴァイアが修道士見習いとして働いていた児童養護施設は『聖サクランボ』だったよね。
チェリージュースを少し口に含んでから――
「私の先祖はかつて聖剣士リヴァイアさまと共に、オメガオーディンと戦って奴を封印することに成功した……」
「……そうなのか? そんなことがあったのか」
ベッドの上に胡坐をかいて座っているルンは驚いた。
「大昔の話だぞ――」
と、もう一杯クラスに口をつけてチェリージュースを飲む。
「聖剣士リヴァイアさまは、私の先祖をトリガーにして、
究極魔法ダンテマ
――を発動させて、オメガオーディンを封印したと聞く」
「究極魔法ダ……」
ルンにとっては、この言葉を聞いても、さっぱり意味が分からなかった。
「究極魔法ダンテマだ……。光と命が合わさって完成する
法神官ダンテマは続ける――
「その結果、オメガオーディンを封印して、しかし、私の先祖はその究極魔法ダンテマとともに、同じくオメガオーディンと共に封じられてしまったらしい……」
「……それって死んだってことなのか?」
「……………」
言葉を詰まらせる法神官ダンテマ。
手に持っていた飲み干したグラスを静かにテーブルに置いて、
「……それは、分からない。……結果、世界は平和を取り戻すことに成功し歓喜した。世界中が……。そして、その功績を称えられて、ダンテマ家は代々、大帝城サロニアム・キャピタルの高官として務めることが許可されたんだ。その末裔たる私――14代ダンテマは港町アルテクロスに努めているかがな……ふふっ」
「サロニアムからアルテクロスに……何かあったのか? ダンテマ……」
あんな大都会から辺境の港町へ、新鮮で美味しい魚介類と豊富な塩しかないアルテクロスにどうして?
当然ルンは気になった。
「まあ、いろいろあったんだ。1000年の間にダンテマ家は――」
と言うと、法神官ダンテマは下を向いて目を閉じて含み笑う。
「……ダンテマ? どうした」
「すまん、失敬した。」
顔を上げた法神官ダンテマ、窓の外を見上げる。
――見つめる先はレイスがいる中央の塔である。
その塔のずっと上に、いつの間にか霞が消え去っていて、再び綺麗に映える月が見えている――
こんなに幻想的で、心が洗われる今宵の月夜であるのに……。
オメガオーディンの声を聞いて慌てふためき、港町アルテクロスから脱出していった人々にも、見てもらいたかった。
「あのさ? ……だから何が言いたいんだ。法神官ダンテマ? 俺ってさ……お前より頭悪いから、その、もっと端的に言ってくれないかな……」
「そうだな……。もう夜も遅いし、私も自分の部屋に戻らなければ……」
ルンの言葉を聞いて気持ちを切り替えたダンテマ。
月を見つめたままスッと立ち上がって、しばらくして……ゆっくりと身体と顔をベッドの上に座るルンに向けた。
「……オメガオーディンが、レイス姫様の御先祖様が眠るウルスン村を襲った理由だ」
「理由?」
「そう理由だ……」
「……理由」
天井を見上げて、ルンは考えてみる。
「はっ! もしかして、レイスをウルスン村におびき出して命を!」
思わずルンが大きな声を上げた。
「ははっ、はははは…………」
そのルンの声よりも更に大きく、法神官ダンテマの笑い声が部屋に響いた。
「ルンよ。お前は相変わらず分かり易い」
「分かり易い?」
「そう分かり易いよ、はははは……」
そう笑ってから、ダンテマはまた椅子に腰掛ける。
「究極魔法ダンテマから確か1000年以上。レイス姫が、今度はダンテマ家の代わりになってしまった――究極魔法レイスマだったか」
「究極魔法レイスマ?」
「そのうちルンよ。お前は目撃することになると思う」
「目撃する? ど、どういうことだ、ダンテマ?」
相変わらずルンは、ダンテマの言葉の真意が理解できない。
「ダンテマの次にレイスマ――オメガオーディンは永遠に死なないのだ。分からないか?」
「オメガオーディンは永遠に死ぬことはありませんが……封印することは可能なのです……ルン様」
部屋の隅、月明かりの陰に身を潜めていた預言者が教えてくれた。
「…………?」
「封印するためには聖剣士リヴァイアさまの聖剣エクスカリバー、大帝城サロニアム・キャピタルの皇帝の王冠、そして、レイス姫様……このすべてが揃わなければ究極魔法は発動できません」
「端的に教えてやろう! ルン!!」
すると、椅子から立ち上がった法神官ダンテマは腰に左手を当てて、
「アルテクロスに危機が訪れれば、オメガオーディンを封印するためにスラムに隠されていたレイス姫様を探すだろう。そして、《《最愛の妹」》であるレイス姫様が表舞台に登場すれば、聖剣士リヴァイアも駆け付ける」
右手の人差し指を、窓の外、中央の塔に鋭く向ける――
「ウルスン村を襲った本当の目的は……。今まさに、レイス姫様がいらっしゃるあの中央の塔の人物……彼女を誘き出すことだ」
続く
この物語は、フィクションです。
また、[ ]の名称は引用です。
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