第28話 レイスさん大丈夫ですかね?

「レイスさん、大丈夫ですかね? なんか、領主様に呼び止められてから、……だ~いぶ時間が経っちゃいましたけれど」

「レイスの事なら心配はいらないさ。彼女は、あれで真の強い女性だからな」


 ここは別塔の迎賓の間――アリアとイレーヌの寝室が用意されている部屋である。


 2人は共にレイスを憂いていた。

 そのレイスの部屋は同じ女性同士であっても、別格に扱われた……。

 というのも、『レイス姫様、あなた様には特別のお部屋をご用意致しております……』という近衛兵のご丁寧な返答を、レイスの隣でしっかりと聞いていた。


 その特別のお部屋というのは、クリスタ女王の大部屋なのだけれど、2人には知るよしもない。



「なんかさ、レイスさん大丈夫ですかね?」

「何が?」

 イレーヌがアリアに聞き返す。

「なーんか、今まで飛空艇で一緒にお仕事をこなしてきて、だから言えるんですけどね……。レイスさんの性格を知っているから言えるのですけど……。レイスさんってさ、1人で抱え込んじゃうタイプなんですよ」

「そうか……。まあ確かにな」

 2人揃って部屋の窓辺に立っている。窓から見上げると空には月が――その月明かりが2人を明るく照らしていた。

「ずーと前に、ルン君と3人でクエストをこなしていた時に、……とある洞窟の中にあるお宝を取って依頼主のところに持っていこうとしていた時なんですけどね」

 人差し指を顎に当てるアリア。お月様を眺めながら――

「その洞窟ってゾンビだらけのモンスターの巣窟だったんです。――レイスさんって、なんだかゾンビが苦手みたいで」

「……で?」

「レイスさん、育ちが下水道のスラムなくせに……下水道にだって大ネズミなんかが沢山いるはずなのに。どうして洞窟のゾンビがあれだけ苦手なのかって?」

「……なんの話だ?」

 横に立つイレーヌが頭をかきながらアリアに尋ねる。


 すると、同じようにアリアもイレーヌへ振り向いた。

「レイスさん。ずっと、『だ、だから回復系魔法の仲間を募集しよって言ったじゃん!!』ってずっと、呪文のように喋り続けていて、多分怖かったからなんでしょうけれど……。そのあと宿に帰って、レイスさんって、ずっとベッドに潜って。回復魔法も使えないくせに回復呪文を唱え続けちゃって……」

(解説:ゾンビ系のアンデットモンスターには回復呪文が効果的である)

「それ、おまじないの類だろ……?」

 イレーヌの髪の毛が、まるで寝起きのハイカラ乙女のようにムジャムジャと逆立ってきた。

「ていうかさ……アリア? 下水道の大ネズミとアンデッドのゾンビを一緒に考えてもさ……」

「え~? どうしてですか? いけないですか?」

「いけないっていうかさ……相手は魔物なんだから、誰だって怖いだろ……」

 呆れてそう呟いたイレーヌ。

 レイスの性格の例え話を、何かと思えば……魔物と出会った体験談で語るには無理があるだろと。

「……私、レイスさんって、やっぱストレスが結構溜まっているんじゃないかなって思います」

「ストレス?」

「ええ。飛空艇で墜落しかけたり、ある日突然お城の御姫様と教えられたり、生みの親と再会したり……」

 アリアは、レイスの今までの環境の変化を連ねると、再び空に輝くお月様を見た。

「……ああ見えて、実は後から1人で抱え込んじゃうんですよ、レイスさんって」

「……そうなのか?」

 以前と、アリアの顔を……お月様を眺めている横顔を見ているイレーヌ。

「だって、スラムの育ての親に挨拶に行ったくらいですよ……」


 それを聞いたイレーヌ……。


「……なあ? アリア」

「はい?」

 またまた、アリアは横を振り向いて隣に立つアリアの顔を見る。

「――突然だけど。あたしが……どうして裏稼業をしてきたのか話してやろうか?」

 こうして塔の部屋の中で、今ここにいないレイスの心配をしても埒が明かないし。

 イレーヌは話題を変えようと思った。

「ええっ!! イレーヌさんって裏稼業していたんですか?」

 その言葉を聞くなり、それが爆弾発言と大げさに聞いたアリアが口に手の平を当ててびっくり。

「……お前さ、いい加減に気付けよ。私が電波塔で塩を密輸してとか、そういう稼業を“裏稼業”って言うんだ! ……まあ、それはいいとして。話しておきたいんだ――」

 一度は収まった髪の毛のモジャモジャだったけれど、……相変わらずのアリアの天然ぶりに、またもイレーヌのヘアースタイルは寝起き状態になってしまった。


 イレーヌは窓際の椅子に腰掛けた――


「ええ。私もイレーヌさんのこと、もっともっと知りたいです。だから、イレーヌさんの話を聞かせてください!」

 アリアも窓際の椅子に……テーブルを挟んだ向かいの椅子に座った。


 ずっと、2人を月明かりが優しく照らしている……と思ったら、アルテクロスの大海原から吹き抜けてくる風に流れて雲が流れて来た。

 ……やがて、いくつかの雲がそっと月を覆い隠して、イレーヌとアリアが居る部屋が薄暗くなる。

 薄暗くなったことで月が隠れたのだと気が付いたイレーヌは、窓を見上げてそれを確認した。

 そして、すぐに上げていた顔を向かいに座るアリアに向けたのだった。


 そっとイレーヌは息を吐く……。

 呼吸を整えて気持ちを落ち着かせた――

「あたしはさ、元々は大帝城サロニアム・キャピタルの城で働いていたメイドだったんだ」

「メ、メイドですか? イレーヌさんが??」

 びっくり仰天! 両手をバンザーイして、ちょっと大げさに驚いちゃったぞ。

「……あのオムライスに、ケチャップで『お前最悪だから“ダメ男”じゃい!』とか描く……あのメイドですよね?」

 どんなメイドだ?


 あんたの想像するメイドって、この世界に存在するのか?

 思わず目尻をピクッと動かして……またまた呆れるイレーヌだ。

「……メイドと言っても、ただ掃除洗濯や食事を作るだけのメイドではなくって、王族の子供達の身の回りのお世話とかをする直近のメイドで、まあ……サロニアムでは“上級メイド”と言われていた」

 アリアの想像するメイドをスルーして、イレーヌは自分のメイドイメージをちゃんと伝達する。

「あたしは、こう見えても幼い頃から英才教育を両親から受けてきて。……まあ、毎日が勉強の日々で両親からは、イレーヌは必ずあのお城で働きなさいと言われて育ったんだ。……いつもいつも両親は、勉強部屋の窓の外に見えていたサロニアム・キャピタルの城を指差してあたしに言ったんだ……」

 一瞬俯いてしまったイレーヌ。

 しばらくはそのままの状態で――メイド時代の頃の自分を思い出していたのか? ふっ……とひとつ息を吐いて、窓の外へ顔を向ける。

 ――月は雲に隠れているままで、当然2人がいる部屋は薄暗いままである。


「あたしは、ずっと自宅にこもって勉強を続けてきた。そういう家庭だった……。あたしは、それが当たり前だと思っていた。あたしには家庭教師が付いた。付きっ切りだった……。ずっと。あたしは学校に行かず、その家庭教師の先生から勉強を学んだ。ずっとな……」

 遠くを見つめながら、遠い過去のメイド時代のエピソードを思い出し話し続けている――

「――ある時、家の外からあたしを呼ぶ声が聞こえてきた。あたしは窓に近寄って……見ると、あたしが幼い頃に一緒に遊んでいた友達だった。その友達は、あたしを学校に連れて行こうと思っていたみたいだった」


「あたしは窓を開けて、友達に返事をしようと思った。でもさ、その時、家庭教師の先生は、あたしが開けようとした窓を強引に閉めちゃったんだ。カーテンも覆ってしまって――」

「……イレーヌさん」

 ずっと、聞き入っているアリア。

 一言一言を聞き漏らさまいと、まっすぐ視線をイレーヌに向けている。

 イレーヌは――いまだ遠く窓の外を見つめたままで、

「その後に言った……家庭教師の言葉をさ。……あたしは今でも覚えている」


 “いけません! イレーヌ”

 

“あのような友達と、一緒になってはいけませんよ”


 “イレーヌ……。あなたは、やがてお城で働かなければならないのです” 



“さあ、勉強を続けましょうね。イレーヌ……”



 ――薄暗くなっていた部屋……だったけれど、ようやく雲は程なく流れて行く。

 少しずつ……月明かりの光が2人を静かに照らしてくれた。

「……やがてさ、あたしはサロニアムの城でメイドとして採用されて、しかも、上級のメイドとして王族の身の回りを任されたんだ」

「すごーい! イレーヌさんって頭良いんだ! 凄いじゃないですか!! 良かったじゃないですか!!」


「……………」

 イレーヌは一言も返さなかった。


 話を続ける――

「ある時、あたしは聞いてしまったんだ……」

「聞いた? 何をですか??」

 首を傾げるアリアは当然聞いている手前、話の流れに乗って尋ねる。

「聖剣士リヴァイアさまの話をだ……。あたしは以前から、聖剣士リヴァイアさまが大帝城サロニアム・キャピタルの城の成り立ちと、何かしら深い関係があることを聞いていた。メイド仲間達とも噂していた」


「……聖剣士さまって、一体何者なのですか?」

 率直な質問を躊躇ためらううことなく、アリアはあっさりと尋ねた。

「神の剣エクスカリバーを持ち魔族達と戦った英雄だ。いくつかの伝記にも登場する尊いお方……って、アリア……あんた昔話を読んだことないのか?」

「……私、子供時代の頃は、その……あまり記憶にないんですよ」

「……そ、そうなんだ」

 ああ、だからアリアって天然なんだな……と、イレーヌ。

 心の中で自分なりに納得いく回答を得たのだった。

「英雄と習ったけれど……。あたしが上級メイドとしてお城で働いていた時に知った、王族達のリヴァイア様への思いというのは、あたし達が知っているそれとは……かなり違っていたんだ」


「えー! そーなんですか?」

「ああ……そうなんだ」

 イレーヌの話は核心へと――

「リヴァイア様は、その昔、この地を奪還するために立ち上がった女剣士に過ぎなかった。……今でこそ、救国の聖女とか聖剣士と伝説化しているが、要するに……もとは騎士団のリーダーに過ぎなかった」

「騎士団ですか?」

「騎士団というのは、サロニアムを守護する精鋭部隊のことだ」


 聖剣士リヴァイア――リヴァイア・レ・クリスタリアはサロニアムの第四騎士団のおさである――


「リヴァイアが治める騎士団は、魔族との戦いの末に、見事にサロニアムの地を奪還することに成功した。あたしはそう学んだ。メイド仲間達との会話でも度々話題になったから、はっきりと覚えている」

「イレーヌさんって、物知りなんですね~」

 うんうん。私も勉強になります……てな具合で聞き入っているアリアである。

「……やがて、リヴァイア様は魔族の長オメガオーディンと一騎打ちして。……そして、大帝城サロニアム・キャピタルの地下に封印することに成功した。でも、話の本題はここからなんだ、アリア!!」

「……ここから? イレーヌさん、何か問題があったんですか?」


「……まあな」

 遠くの空を見上げていたイレーヌが、向けていた顔を椅子に座る自分の両膝に落とす――

「リヴァイア様は――オメガオーディンを封印した後、サロニアムの覇者になりたいと考えた。――王族を差し置いてだ。実は、リヴァイア様は王族達のことを、心からは信用してはいなかった。何故なら、リヴァイア率いる騎士団達が死に物狂いで魔族と戦っている時に、王族達は援軍のひとつも寄こさず。それどころか、ウルスン村近辺の森の奥に避難していたのだから……」

「それって、王軍が逃げてですよね? サロニアム防衛のための戦争なのに?」

 至極、真っ当な問い掛けだ。

「……ああ。どうやらリヴァイア様は、サロニアムのそういう……一般的には知られていない、深い所にある正体を知っていたのだと……だから、覇者を志したのだと。あたしはいろんな勉学から推測して、今ではそう考えている」


「……ですよね~」

 入れ代わるように、今度はアリアが窓の外を遠目に眺めた――

「……だって、聖剣士さまですもの。何かしらの信念あっての決断でしょう? イレーヌさん」

「……あたしも、そう信じている」

 イレーヌは顔を上げアリアに向かって頷いた。



「……ところで、イレーヌさん?」

 突然、アリアは何か思い出したかのように、真正面に座っているイレーヌへ顔を向けた。

「あの、イレーヌさん? この話って、確かイレーヌさんがどうして裏稼業を始めたのか……でしたよね?」

 いつもは天然ぶりを発揮して、時にとぼけて、時にトラブルメーカーになって……。

 そのアリアが話を本題に戻そうとした。

「……これから、その話に続いていくから聞いてくれ」

 早まらずに、これから話すからと――イレーヌは唇を少し濡らしてから口を開けて、

「……やがて、サロニアムの地で戦がなくなり。すると、リヴァイアの企みを知った王族達は、リヴァイアの剣『エクスカリバー』を取り上げた。サロニアム・キャピタルの地下に封印し、聖剣士リヴァイアさまを……最果てに追放したのだ」

「……追放ですか? 聖剣士さまがですか??」

「……理由は、よく分からないままだった。これは、歴史では『聖剣士リヴァイアの旅路』と記述されている。……実像は追放だったようだ」


「あたしはさ! それがずっと疑問だった。家庭教師からサロニアムの歴史も聖剣士リヴァイアさまの歴史も……全て学んできたけれど。あの“救国の聖女”リヴァイア様が、一塊の人間達に安々とエクスカリバーを奪われるものなのかと……。簡単に追放されるものなのかと、


 どうして、聖剣士リヴァイアさまは抵抗しなかった?


 と、あたしは、ずっと疑問に思ってきた」



 ――イレーヌの話は更に続いて。

「ある時、あたしはサロニアムの地下に封印されているエクスカリバーを確かめてみたいと思った。他のメイド達を欺いて。地下に王子様からの言い付けで……、そろそろチーズが熟成している頃だから、そろそろ王子はチーズフォンデュを召し上がりたいそうです。そう誤魔化して、あたしは地下に行きエクスカリバーが封印されている部屋へと入ったんだ――」


「……入ったんですか? どうやって」

「……鍵を盗んだ」


 あっさりと、封印されている部屋に入る手段の種明かしを喋るなり……

 急にアリアは椅子の背もたれに背中を着けて、背筋を伸ばした。

 でも、別にイレーヌの長話に疲労を感じたから座り直した訳ではない。


 アリア、目を細めている――


「……ああ、やっぱし。驚愕ものですよ……。イレーヌさんってば、この頃から裏稼業の練習みたいなことして」

 首を“のノ字”に回して、アリアはやってらんない感丸出しで『……やっぱ、裏稼業に興味ある人ってこんな経歴なんだな~』という具合に、妙な納得をしてしまう。

「……そ、それはな。もう少し先の話だ! まあ聞いてくれ!」

 ちょっと待ってくれ! と慌ててアリアの発言に口を挟みこんだイレーヌ。


「……まあ、部屋には入った。とても薄暗くて……殺風景だったけれど側壁の石がザラザラとしていて、いくつか窪みがあって。松明の明かりで、それがゴーストの顔のように見えて……兎に角、不気味な部屋っだった。でさ……。あたしは愕然とした。そこにあるはずのエクスカリバーが、なかったんだ。……というよりも、始めからなかったんだ」

「なかった? どういうことですか??」


「その時――、サロニアム王子が部屋に入ってきた。『……イレーヌ、だめだよ。勝手に入っちゃいけないんだから』と王子は部屋の中で驚いているあたしに仰った。あたしはその場面を今でも夢に見てしまう――」


『王子、あたしは……。大帝城サロニアム・キャピタルを守護した聖剣士リヴァイアさまは、エクスカリバーを奪われて、この部屋に……』

『ああ、それで君はこの部屋に入ったんだね。あははっ! そんなのウソなんだって、イレーヌ!』

 王子はあっけらかんに、そう仰った。

『ウソ……ですか? 王子……』

『そう、ウソ。これは罠だったんだよ、イレーヌ』

『罠ですか?』


「――それから王子からの説明を、あたしは聞き入った。……ずっと王子とは、あたしがメイドで家庭教師していた頃からの仲だった。それもあってか、王子はあたしに地下の部屋に、エクスカリバーが封印されていない理由を教えてくださったんだ」


 ――それは、衝撃的な事実だった。

 

「サロニアムの王族は、すでにオメガオーディンの闇の力に屈していたんだ。ずーっと昔からの話だった。リヴァイアに、サロニアム教会を築かせたのは、オメガオーディンを封印するためじゃなかった……」

 膝の上で両手の指を触りながら、ここでイレーヌは少し口籠ってしまた。

「……と、どういうことなんです?」

 前のめりになり、イレーヌの顔を覗き込んでイレーヌに迫る。

 

 イレーヌはアリアの教えてください! という勢いに折れ、重い口を開ける。

「……オメガオーディンを復活させるための、カモフラージュとしての役割だったんだ。すでに、サロニアムは堕ちていたんだ……」



 ――月明かりは、いまだ2人を明るく照らしている。


 アリアはしばらくの間、無言だった。

 彼女には、信じがたいイレーヌからの告白だった。

 今まで自分が思ってきたアルテクロスの平和や、世界すべてが、まるでPCのOSがヴァージョンアップした後の、どうすればいいのだろうという操作感のように、かなり混乱していた。

 

 一方のイレーヌは淡々と……。

「聖剣士リヴァイアさまは、早くにこのことに気が付いて……そして最果てへと逃避して行った。それを王族が、リヴァイアの謀反をでっち上げて、エクスカリバーをさ……」

 もう、言わなくても分かるよね?

「――あたしは、その日のうちにメイドを辞職した」

「辞めちゃったんですか?」

「ああ……」

「ええー! サロニアムのメイドって永久就職ものじゃないですか?」

「世間ではな……。でも、実情は経験した者にしかわからない、伏魔殿だ!!」


「……そんなものですか? ふ~ん」

「……ああ、そんなもんだよ。アリア!」


 アリアが億劫な表情を作ると、それ一目見てから、イレーヌはクスッと微笑んだ。

「辞職してさ……そんで、知りたいと思った。この世界の何が真実なのかってことを……。んで、あたしは裏稼業に足を踏み込んだってわけ。……裏稼業で働いていれば、それなりに情報を手に入れることができるんじゃと思ってな」

「……あのイレーヌさん」

「なんだ?」

 突然、ちょっとちょっとという具合に右手を手招きさせるアリアに、イレーヌは首を傾けた。


「……イレーヌさん。あんまり裏稼業がどーたらこーたらって赤裸々に喋っちゃったら、また牢屋行になっちゃいますって。今度はイレーヌさん1人で牢屋に入ってくださいね」

「おい! あたしが親切丁寧にリヴァイア様の物語を交えて、あんたに教えてやったんだぞ!!」

 あんまり過去の自分のことを言いたくなかったけれど、アリアとは飛空艇仲間の間でも仲良しになったのだから、そのよしみで教えてやったのに……天然は最強だとイレーヌは呆れる。


「……まあ、そういうことで。……あたしは知りたい、この世界の何が真実なのかを知りたくなった。そして大帝城サロニアム・キャピタルの真実を知りたい。だから……」

「ああ、……だから魔銃で塩を運べってバキューンバキューンって?」

「はっ? それは成り行きで……だからさ、あんた達と飛空艇で行動を共にしたいと!」

 頭に過ったのは、港で自分がぶっ放した魔銃エピソード。


「……塩を密輸して、サロニアムの真実に辿り着けるんですか? 密輸ですよ~」

 しら~と細めていた目を、更にアリアは一本の線のように細めた。

「……あ、あのさ! 裏稼業にも……日々の生活というものが……」

「聖剣士リヴァイアさまも呆れていますね~」

「こら! アリア!! 聖剣士リヴァイアさまの名前を、軽々しく言うんじゃないって!!」


「……ところで、ルン君。今頃もう就寝しているのかな? 私も、もう寝ないと」

「……アリア」


 アリアは、相変わらずの天然ぶりだったのでした……。

 イレーヌはガクッと頭を下げて、項垂れてしまった……。


 彼女の燃え尽きた姿を――月明かりは、それでも優しく包み込んでくれていた。





 続く


 この物語は、フィクションです。

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