第17話 リヴァイアの思い出――究極魔法レイスマ
――もうすぐ春?
私は、ずっとそのそれを、サクランボさんじゃなくって、サクランボでもなくって、大樹の……そう、サクラの大樹を、今、私の目の前に見えているサクラの大樹を見つめて、私はそう感じたんだ。
チェリーレイス……
彼は、その魔法の言葉を言い続けていた……。
そしたら、芽が……。
サクランボを埋めたところから生えてきた芽が出てきて……有り得ない。
ぐんぐんと……すくすく、すくすくと成長し始めた。
有り得ませんよね?
――ぐんぐんと、……どんどんと、大きくなっていく。
私は、その過程をぽかーんと口を開けて凝視していた……。
サクランボを埋めた場所から生えた芽は、すぐに背丈くらいにまで成長し、私の目線を越えて、どんどん上へと大きく生育していく。
それは、すぐに木へ……幹になって、巨木になって。
上へと……私はずっと凝視していて、私の目線は天を見上げる形になっていた。
……それは更に更に、サロニアム・キャピタルの砂漠を越えたところに生える深い深いジャングルの中にあるような、まるで“屋久島”の奥深くにあるような、“縄文杉”のような超巨大な大樹へと成長していったのだった……。
私、腰は抜かしていないけれど、後ろにへなへな……っていう具合に腰をついてしまった。
なんだか怖かったのだ。
そりゃ怖いよね? 有り得ないんだもの……。
サクランボって種子じゃないよね? 少なくとも実がある内はさ。……分かんないけれど。
埋めて数分で芽が生えていくなんて……現実離れすぎて、もう意味が分かんない。
しかも、それが、ぐんぐんと、ぐんぐんと生育しちゃうなんて、非科学的ですよね?
(まあ、異世界で非科学的と言うのもどうかなって……)
――私、しばらく、その大樹を真下からあっけらかんに見上げていた。
見上げていたら、……彼、私の頭をなでなで……って。
(えっ?? なんで、なでなでするの?)
って、少し疑問に思って、私は見上げていた視線を彼の方へ向けて、これもボーっという感じで、無言で彼の顔を見た。しばらく、そのままずっと……。
(……よく考えてみれば、サクランボさん、何をしているのだろう?)
私は当然、そう不思議に思ったんだな。
この人、いったい何がしたいんだって。また、何をしたのかってのもある。
単に私を驚かせたかっただけ? いやいや、私は子供じゃないし……。いい大人だぞ……。
……もしかしたら、あの時の骨折した子供を気遣ってかな?
う~ん……、あの時、傍にあの子供いたっけ? ……覚えていない。
そりゃそーだ。あの時は応急処置することで、頭の中が必死だったんだから。
そういえば、「はい、終わったよ……」と、彼は言ったっけ? 私の顔を見て、そう確か言ったっけ?
「……………」
私はというと、じーっと彼……ではなくて、大樹をずーと見上げていて、だから、その時彼からそう語り掛けてくれても、彼の方を見ていなかったんだ。
そして、その言葉の意味、終わったという言葉、これも、やっぱり意味が分からなかった。
――サクランボを土に埋めて、魔法を掛けてできた超巨大な大樹。勿論、それはサクラの大樹である。
ずーとサクラの大樹を見上げていた。
『綺麗……』と素直にそう思った。
――しばらく時が経ったのかな? 私は、見上げていた首が痛くなったということもあり、次にサクランボさんの方を見ようとした。
見て、ちょっと質問したかった。この現象、なんなのですか? って
「あの~??」
私はそう聞きながら……そしたら、サクランボさん!!
どこにもいなかった……。
あれれ? 私、キョロキョロ??
ついでに、サクラの大樹も……消えていた。
『……もう、俺は君には逢ってはいけないのだろう。……それでも、いつの日にか、必ず、君の前に姿を現す日が来ることを、君は信じてくれるかい?』
逢ってはいけないのに……どうして、必ず、私の前に姿を現わそうとするのかなって??
……逢ってはいけないのに、私に逢った時。そのあなたは、もはや逢ってはいけないの時の、あなたではなくなったということでしょうか?
では、私はいつの日かあなたに……、新しいあなたに逢っていいのですか?
ほんと、分かんないんだから。教えてくださいよ……。
それとも私は、あなたのことは、きっぱりと忘れた方がいいのですか?
*
「あなた、これ預言書ですよ?」
「ええ、知ってます。エリア司書長――」
「……呆れた。あなた預言書を子供達に読み聞かせる気なの?」
「はいな!」
机を挟んで、リヴァイアとエリア司書長がお茶を囲んでいる。
「だって、この預言書、私が幼い頃からずっと読んでいたナンバーワンのベストセラーですから!」
「……ベストセラーって。リヴァイア、あなたにとってでしょ??」
さっきまで山積みにされていた、リヴァイアが子供達に読みかせるために借りた書籍の山。
その山からエリア司書長が一冊手に取って眺めている。
なんだか、お茶の肴になっているようだ。その書籍の名称はというと――
『究極魔法レイスマ』
「エリア司書長! これ面白いんですよ」
と言うと、リヴァイアは自分のティーカップにお湯を注いだ。茶葉を少し加えて……彼女は前のめりでその香りを嗅いだのだった。お行儀悪いよ、修道士見習いさん……。
「聖剣エクスカリバーを依り代として、それを混血の聖剣ブラッドソードに
グーと親指を立てて、それをエリア司書長に向ける。
「とくに! この預言書って書き出しのところがナイスセンス!! って思いませんか?」
「……そうですか? 私は別にそうは思いませんけれど??」
エリア司書長はそう言うなり、ちょいと首を傾げてリヴァイアに見せた。
「え~?? エリア司書長ってセンスないですね。……いいですか?
リヴァイアは、魔法電文を受け取った――そして覚悟を決める。
すべてはその魔法電文から始まる。
ほらほ~ら! カッコいいとは思いませんか??」
……作者の感想としては、そうは思わないけれど。
「そうは思いませんってば。……だからね、これは預言書なのです」
同じくエリア司書長も、そして、ティーカップにお湯を注ぎ直した。
「リヴァイア――あなた、この預言書の主人公の名前を……名前に興味があったから読んでいたんでしょ?」
「……バレちゃいました?」
「……まったく。図星だこと…………」
エリア司書長は、クスクスと笑った。
「この預言書の主人公の名前――私と同じ『リヴァイア』なんですもの!」
と言うなり、ニタ~とほほ笑むリヴァイアだ。
「でもね……エリア司書長。この預言書、肝心の依り代となる者の名前の箇所が破れてて……分からないんです」
リヴァイアはエリア司書長が手に持っていた『究極魔法レイスマ』の預言書を拝借して、そう言った。
「……まあ、古い古い預言書ですから。しょうがないです」
エリア司書長はティーカップに口を当てながら呟いた。
「でも……確か幼名の箇所は書かれていたはずでは?」
「……はい。それは読みました。……えっと確か?」
チェリーレイス――
*
――ここは、聖サクランボのテラス。
季節は春――もうすぐ春だ。
私の故郷――『カズース』にも、本格的な雪解けの季節がやってくる。
でも、ここサロニアム・キャピタルには、めったに雪は積もらない。まあ、砂漠の都市だから。
あの、寒かった冬が今でも懐かしい。あれは本当に寒かった。
雪降るカズース……懐かしいな。
旅立とうと決心したのは、いつの日か……?
確か、そう実家の両親から魔法電文が届いたからだ。
『あんたさ、たまには実家の畑を手伝いないさい」
という魔法電文が届いて、私はすぐに……
『今は、子供達の身の回りの事とか、やんなきゃいけないことがさ、……たくさ~んさ、あってさ。畑とか、それどころじゃないんだってばさ!!』
って言ったら、
『……そんなことを言ってないで、聖サクランボにだって休暇はあるんでしょ?』
って。
『……あるけど、でもね。聖サクランボには、ずっと寝食を共にしている子供達が、ず~っと暮らしていて、夜中の幼い子どもの夜泣きとか急な発熱とかの対処が、ホント大変なんだから……』
『だったらさ! あんたその職場を退職して、実家の畑を手伝いないさいって……あんたも、もう20歳過ぎなんだからね! 婚活ギリギリなんだからね!』
な なんてこと……。
『だってそうじゃない……。いい相手を、今さ、探してあげているから。だから実家の畑を……』
『……………お、恐れながら。……………あ 私はさ、私の自分の結婚は自分で決めますからさ。余計なことしなさんな……』
……て、魔法電文を一方的にガチャーンして。
――私は、今、テラスにいる。
なんだか後ろを振り向いて、窓越しに……子供達を見たくなった。
みんな、お昼寝中でぐっすりだ。
……………なんだか、分かる気もするけれどね。両親の気持ちがさ。それでもねぇ……。
続く
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