第7話 いんやー! おだいかんさまー!!

 ――正午のニュースです。


 今朝早く、アルテクロスの港町から少し離れた場所にある、冒険者が集う建物に『法神庁捜査部』の数名が家宅捜査しました。

 法神庁の発表によりますと、この建物に、このところ頻繁に出入りしていたアリア容疑者が、法律で認められていない冒険の依頼を引き受けていた模様です。

 なんでも、その依頼は万屋にガシャーンしてしまった弟からの依頼による、保険屋との密会による示談交渉だということです。


 これは、アルテクロスで禁止されている飛空艇に関するあらゆる交渉は、アルテロクスの港町で行わなければならないという法律に違反しています。


 なお、その示談交渉に関連してアリア容疑者と、示談交渉していた保険屋のイレーヌ容疑者も、すでに法神庁によって身柄を拘束された模様です。

 そのイレーヌ容疑者、表向きの職業は保険屋ということですが、それは隠れ蓑で、裏の職業はアルテクロスで塩を仕入れ、サロニアム・キャピタルで高額で売りさばいている、仲介業者であることが法神庁の調べで明らかになりました。


 また、その示談交渉の場所に指定された、アルテクロスのはずれにある山の上の電波塔は、数日前に何者かによって木っ端微塵に破壊されした。

 その影響で、アルテクロス周辺地域のネットが数日使えなくなり、現在はほぼ復旧している模様ですが――いまだ全快するには時間が掛かる模様です。


 その電波塔破壊の首謀者と思われるルン容疑者とレイス容疑者も、法神庁によって身柄を拘束された模様です。




【速報】アルテクロスの平和を乱した4人、法神庁に身柄を送検!


 中継――

「あっ! 出てきました!! 今、アルテクロスを騒がせた4人の空賊達が、飛空艇から法神庁捜査部の役人に両脇を抱えられて出てきました!」

 空賊にされてるし……。

「あっ! あなたは塩を密輸していたイレーヌ容疑者ですよね? 何か一言?」

「……ねえ? どうして何も言ってくれないんですか?」


 ……キッ! とイレーヌが隣に並行して歩いているアリアを睨み付けた。小声で――

「あんたが……あのスイッチを押したから……」

「いやーん! イレーヌさんの目、こわーい!」

 送検されている最中でも、アリアの天然ぶりは現在だ……。



【街の声 通行人 女性】

「え? 逮捕されたんですか!! ですよね~。あれだけ世間を混乱させておいて……」


「だって、私のスマホも電波塔が破壊されて数日の間、音信普通が続いてねぇ……。そのせいで、彼とのデートの約束も有耶無耶になってしまって……ほんと、いい気味ですよ」



【街の声 通行人 子供とその母親】

「まあ怖い! アルテクロスからサロニアム・キャピタルに塩を密輸していたなんて……」

「でも、あちらの国では塩は貴重なんでしょうね……。昔はね、アルテクロスとサロニアム・キャピタルは、とても友好国同士で、交易も頻繁に行っていました」

「アルテクロスの市場でも、サロニアム・キャピタルの特産品のサンドウォームのぶつ切り燻製焼きとか、大サソリの毒抜き酢漬けとかがあって、けっこう人気の品だったんですけどね……」


「お母ちゃん、それって美味しいの?」

「子供は知らなくていいからね。うふふ……」



【街の声 通行人 男子】

「当然ですよ! アルテクロスの法に背いた愚か者に法の裁きを下すことは、当たり前じゃないですか!」

「目には目を、歯には歯を。ここアルテロクスの法に背いた愚か者には――当然アルテクロスの法の裁きをです!」





「あ~あ。こうなると思ったけど……」

 と言ったのはルンである。

「やっぱ電波塔をぶっ壊したのは、まずかったわよね……」

 こちらはレイスである。


「……なあ、みんな。あたしみんなと一緒に行動してから、その……しばらく経過していないけれど……、言わせてもらってもいいかな?」

 イレーヌである。

「こいつが電波塔で、あの時にスイッチを押さなかったら、あたしの仲介屋としても……足が付かなかったんだけどさ……」

 と、言い終わるなり、またしても隣にいるアリアを睨み付けた。


「いや~ん! イレーヌさんって、止めてくださいよ~。こわ~い!」

 相変わらずのアリアである。



 ――ルンの飛空艇ノーチラスセブンが九死に一生を得て、なんとかアルテクロスの港に辿り着けたのは、まさに奇跡だった。

 港に辿り着けた時……4人が歓喜したのは言うまでもない。

 しかしである。

 その歓喜は、あっという間に終わったのであった。


 港に到着した瞬間に法神庁捜査部の捜査官が逮捕状をもって、4人の身柄拘束を開始した。

 ついでに飛空艇内にも家宅捜査。


 で、この4人が今いる拘束されている場所はというと。

 ここはアルテクロスを治める領主のお城――アルテクロス城の牢獄である。



「……私達、これからどうなるのかな?」

 壁に掛かっている粗末なベッドに座り込んでいるのは、レイス。

 すっかり肩の力を落とし、涙ぐみながら言った。

「どうなるのかなって? お前はチームリーダーなんだから主犯確定だぞ」

 目線より少し高いところにある格子窓――

 その格子越しアルテクロスの青い空を見つめていたルン。

 少しレイスの方へ顔を向けて言った。


「……えー!! そんな……。私、ただ飛空艇を操縦していただけじゃない!」

「無免許で飛空艇を操縦していて、こんな大騒動になってしまって反省しろよ」


 牢獄内でのレイスを除いた3人からの、白々しい視線がレイスへと向けられている。

 その視線に気が付いたレイスは絶句、さすがに言い逃れできないと思って……。

「重々反省してます……」

 だら~んと座っていた姿勢を正し……深く深く頭を下げた。


「……ああ、なんであたしはこのチームに関わってんだろう? この人達と関わってから、1つもいいことない……」

 レイスとは反対側――簡易の洗面所の隣の壁に身体を寄り掛からせて、天井を見上げてイレーヌが気の抜けたソーダの味のような声で呟いた。

「……まあまあ、落ち着きましょうよイレーヌさん」

 イレーヌの隣で同じように、壁に寄り掛かっているのはアリアである。

「まあ電波塔があれだけ破壊されて、アルテクロスで大事になったんだから、こうして4人がこうなるのもしょうがないじゃないですか。諦めるしかありませんよ……」

 アリアは自分の前髪を一本一本を見ながら言った。……枝毛を気にしてだろう。

「そのさ! 電波塔をぶっ壊した張本人はアリア! あんただろ!!」

「も~イレーヌさんって! そう大きな声で怒らないでくださって」



 ――その時。


 コツン コツン……


 今4人がいる牢獄を繋いでいる階段から、なにやら足音が聞こえてきた。

 その足音は……次第に次第に大きくなってくる。

「ねえ? 誰かこっちに来ているよ、ルン?」

「分かってる、レイス……」


 コツン…… ツ…………


 当然のこと、成り行きから考えてルン、レイス、アリア、イレーヌがいる牢獄の真正面で足音は止んだ。


 ――通路後ろの松明を背にして、誰かが立っているのが分かる。

 その明かりのせいで、その人物全体が薄暗くなる。また、松明の篝火が揺れるのに合わせて、足元の影もゆらゆらと大きくなったり小さくなったりして……不気味である。


「……私は、アルテクロス城の法神官ダンテマである」

 その人物が口を開いた。

 ――ちょっと体格の良いアスリートタイプの男であった。

 薄暗くてハッキリとは確認できないけれど、顎は尖ってはいないけれど、丸くはない。鼻筋はまっすぐ、目付きは少しだけ鋭く見えている。

 RPGのジョブで例えるならば、バトルマスターとパラディンを足して割ったような――イケメン風な姿と顔立ちだ。……言っとくけど風ですよ。

 つまり、武道家や商人のようではないと言いたい。


 ――そりゃそうだ。法神官なんだもの。


 礼服らしい……法衣みたいな服をきっちりと着こなして、まとっている。いかにも法神官であるという風貌だった。


「……まったく。前々から、お前達を監視しておいてよかった」

 ペラペラと手に持っているのは、書類の束のようだ。

「……えーと、アルテクロスの港からの急発進は飛空艇航空法違反。速度超過は……ルン。お前は法定速度を知らないのか?」

 紙を捲りながら、法神官ダンテマが嘆いた。

「依頼の受け取りで有利になるために、お店の主人に賄賂を渡すは……依頼公正取引法違反だな。へぇ~依頼主に色気を使っているのかアリア、風営法違反だぞ……」

 捲る手をとめ、格子越しの壁に寄り掛かっているアリアをチラッと見た。


 ――更に紙をパラリと捲る。

「レイスは旧市街で万引き置き引きの常連さん。ほぉ~、結構いい腕しているんだな! 非合法といえども感心感心だ、レイス!」

 石棺のように石壁の牢獄で、自分の名前を大きな声で言われたものだから……それがよく響いた。

 ベッドに座っていたレイスは、身体がビクッと緊張した。


「お前の飛空艇の修理の腕前って、この時に身に付けたのか?」

 格子窓のところからルンが、コソコソと歩いてきて聞いてきた。

「ルンって! ……今はそれどころじゃないでしょ」

 レイスは小声でルンを突き放す。


「そうそう。イレーヌは塩の運び屋だったっけ? お前のことよーく知っているぞ。バレていないとでも思っていたか?」

 紙を捲る手を止めた法神官ダンテマ、今度はイレーヌを見た。

 イレーヌは目を合わせず、牢屋奥の格子窓の向こうを見つめた。

「……確かサロニアム・キャピタルでは塩の密輸がばれたら、仲介屋は証拠隠滅とかなんとかで消されるんだっけ? 怖い国だな」

 それを気にすることもなく、法神官ダンテマは言った。

 そして――


「だめだなこりゃ? お前達、残りの人生は死ぬまでこの牢獄で、つまり終身刑だ」

 顔を左右に振っての法神官ダンテマ。

 分厚い紙の束を、傍にいる部下らしき人物に手渡した――



 ええっ!!!!



 っと、勿論、どよめく4人である。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 法神官!!」

 牢獄越しにレイスが、法神官ダンテマに駆け寄った。両手で格子をギュッと握り締める。

「……ん? なんだ。私のことは名前のあとに様を付けなさい。私はアルテクロスの守護神『リヴァイアサン』に法務の忠義を誓い、認められた法神官ダンテマ様であるぞ……」

 ギロッとレイスを睨み付ける。



 ですってよ皆さん。静粛に……



「ほっ、法神官ダンテマ様! どうして私達に裁判を受ける権利を与えてくれないのですか?」

 切実なるレイスの主張である。

「私達には当然、弁護官がいて……その前に法神官による取り調べで起訴不起訴とか起訴猶予……起訴猶予とかを決定して……」

 さりげなく起訴猶予の所を強調しているレイスである……。

「それから、裁判が始まって最後に陪審官の評決を受けて――有罪無罪が……無罪評決が下されて。その後に裁判官から帰ってよろしいって」

 無罪評決を刷り込んでるでしょ?


 忘れてないか? 山の上の電波塔をぶっ壊した事実を。どう考えても有罪確定だろ!


「レイス。自分が今まで犯してきた喫緊の事実、から逃れられるとでも……」

 と言うと、法神官ダンテマはしばらく――格子向こうから切実に訴えてくるレイスを見下げた。

「……法神官ダンテマ様? 事実と……は?」

 瞼を数回、ぱちくりと動かしたレイス。

「……どうしようもないな、お前は。無免許で飛空艇を操縦していただろ? その結果エンジンが……調べはついているのだからな。神妙にしろ」

 ……それを聞くなり、ヘナヘナと力尽きたレイスである。



「お前ら、アホか!!!!」



 法神官ダンテマが大きな声を出した。

「ここアルテクロスに、そんな流暢な裁判制度があると思っているのか? 弁護官とか陪審官とか……評決とかいう裁判制度はな! サロニアム・キャピタルにしかない!」

 キッパリ言い切った。

 じゃあ? 法神庁とか法神官とか……なんのためにあるのだろう?

「お前達! これ以上、法神官ダンテマ様を怒らせると、私の職権でお前達を……し・け・いにするぞ」

 その『し・け・い』を強調しながら、自らの首を自らの手で絞める法神官ダンテマである。




「いんやー! おだいかんさまー!!」


 ブルブル……ブルブル……。

 牢獄の奥で、まるで猿山の猿達が密集して痛い北風に耐えるかのように――

 怯えに怯えているレイス・ルン・アリア・イレーヌだった。




「もう確定だな……。諦めろ」

「だから、いんやー! おだいかんさまー!!」


 ブルブルブルブル……


 ――まったく。

 法神官ダンテマは右手を額に当てて、頭を抱えてしまった。


(どうして領主様は、こいつら4人をお認めになったんだか)


 なにやら、一人ボソボソと口を動かして喋っている。

(いくらこの牢獄で……ビビりまくっているレイスとやらが、実は『王女様の娘』だなんて……それも、ほんとかどうか? ……大体、本当に本物なのか?)

 法神官ダンテマは、ブルブルと震えているレイスを見つめる。


 その視線に気が付くレイス。またしても身体が『ビクッ』と条件反射した。


(部下達の長年の内定調査の結果を……どこまで信じてよいものやら?)

 ……と、レイスをずっと見つめ続けながら、ホゾボソと。

 それに気が付いたのはレイス。


「ほ……法神官ダンテマさ……ま……」

 あまりの恐怖心から、思うように声を出せないレイスだった。

 それを、気にすることもなく法神官ダンテマは――

「大体、法神庁捜査部も……後少し、私に報告が遅れていたらアルテクロス中が連日連夜のニュース合戦のお祭り騒ぎになって、もっと大騒ぎになっていたぞ。捜査部の仲間からのリークで、『レイス――王女様の娘』というこんな重要な情報を、早急に得ることができたけれど……」

 一人の世界に入って、考え事を続ける。

 ちなみに、本人は気が付いていない様子だけれど……声が漏れている。


「……あのう。法神官ダンテマ……様?」

 さっきから、ずっとレイスは法神官ダンテマを呼び続けているけれど、肝心の法神官は聞いていない。


「まあ、法神官ダンテマが捜査部に一言……口添えして、報道官との間を取り持ちトントン話に落ち着けたから、大事には至らなかったけれど……」


「……法神官ダンテマ様!」

 居ても立っても居られず、レイスは力を振り絞って声を上げた。


 ――その声に、ようやく気が付いた法神官ダンテマは、

「……ああ、すまん。これは、どうしようもなく失敬だな。レイスよ!」

 と、レイスに言ったのだった。


 その言葉を聞いたレイス。

 実は……彼女には法神官ダンテマのその言葉は、こう聞こえたのである。


『……ああ、すまんな。これは、どうすることもできずに死刑だ。レイスよ……』


 無論――レイスの頭の中が真っ白に染まったのは書くまでもない。





 こほん!


 法神官ダンテマは、軽く咳払いをした。

「レイス様とルン殿。それに、アリア殿とイレーヌ殿……」


 ????


 様? それに殿って??

 牢獄の奥で震えに震えていたレイス・ルン・アリア・イレーヌだったが、その震えが一斉に、電池切れの玩具の如くピタッと止まった。

「あなた達4人は、すでにアルテクロス城の領主様から恩赦をもらっているぞ。……まあ、だから釈放だ!」


「釈放?」

 4人が声を揃えて呟いた。


「おい、看守! 格子を開けてよいぞ」

 地下牢の階段下で待機していた看守が、「ハッ!」と右手で敬礼して返事をする。

 ――タッタッタッタッ……と急ぎ足で駆け寄り、扉の鍵を使って格子を開けた。



 ギギィ………



 あ! ほんとに牢獄が開いた。


「勘違いするな!」

 開いたのを見守ると、法神官ダンテマは少し声を大きめに言う。

「釈放と言っても恩赦を受けてのこと。……お前達の犯した罪が決して許され……まあ、それは今度にしておこう。ルン殿の飛空艇も、所有権を返せとの御命令を受けている。……そうそう! イレーヌ殿が密輸しようとしていた塩も、すべて返すようにと……」

 腕を組み、視線を床に向けて、法神官ダンテマはなんだか投げやりっぽい言い方で4人に言った。

 その心の中では彼は――


(あ~あ……。飛空艇が墜落しなくて幸いだったぞ。なんせ『王女様の娘』だぞ……)


 であった。



「……ふう。助かった」

 ルンは大きく背伸びして、リラックスする。

「助かったですねえ~。イレーヌさん」

「……あ、ああ。理由は、よく分からないけれどな」

 とくにこれといって悲痛な気持ちにも表情もなく、アリアはイレーヌの腕を両手で抱えた。

 そのイレーヌは、アリアの(いつもの)擦り寄りを気に掛けず……法神官ダンテマが言った“恩赦”というキーワードが気になっていた。


 ――4人、ゾロゾロと牢屋から出てくる。


「……レイス様」

 最後に出てきたレイスを、法神官ダンテマは呼び止めた。

「はい……。何か?」

 レイスは扉の前で足を止めた。


 法神官ダンテマは、静かに息を吐いた。

「――実は今、レイス様の御先祖様が眠っている『ウルスン村』が、我らアルテクロス切っての官軍達の監視を抜けて襲われているのです」

「……ウルスン村ですか? あのゴブリン達が寝床にしている大森林の、ずっと向こうの山里の村……」

 レイスは人伝で聞いたことのあるウルスン村の知識を、思い出そうとした。

「……豊富に採れる野苺と、放牧された牛から採れるバターをミックスした――ウルスン村名産のアイス『ウルスンルビー』で有名な……ですよね?」

 レイスはそう言うと法神官ダンテマを見た。


「――ウルスンの村は、現アルテクロスの領主様の生まれ故郷です」

「え? そうだったんですか? 領主様の……」

 レイスは初耳だった。

「あの……その私、ずっと、アルテクロスの下水道で、孤児みなしごで生きたから、今初めて知りました」

 とかなんとか……法神管ダンテマの言わんとする意味が分からないレイス。

 自分が知っているウルスン村のことを全部喋って、後は話を合わせればいいかなって思っていたから……当たり障りない言葉を選んでいた。


「レイス様……」

 法神官ダンテマの表情は険しい――


「……あなた様は、アルテロクスの領主様と王女様の娘です」

「……はあ。……そーなんだ。私がねぇ」

 キョトンとした表情で、法神官ダンテマの顔を見上げるレイスだった。

 言葉の意味が理解できなかったのである……。


「……私がねぇ。……へぇ。そう…な……」

 ……レイスの脳内で遅ればせながら情報が処理される。




『んだーーーー!!!』




 先にも書いたけれど、石壁で囲まれているから、声が……嫌という程よく響く!!

「ほ……法神官ダンテマ様! 今なんと仰いましたか??」

「――私達は、ずっと探しておりました。私は、今は法神官の身分ですが、以前はレイス様――あなた様の幼き日にに使えていた教育係なのです」


「……大きくなられましたね。レイス姫――」


 その時!

 法神官ダンテマの周囲にいた従属4人が、一斉に跪いた。

「ああレイス姫!! 我らの姫!! この無事な御姿を御拝謁できて、我ら一同感無量!!」


「え? えっ何?」


 跪いた従属4人の姿をキョロキョロ見回して、レイス、ますます意味不明な心境になってしまった……。

 ――そこに法神官ダンテマが、

「ひとまず、飛空艇へ戻っておいてください。いずれ、お城から使いの者を寄こしますので。それから、領主様に御拝謁して……ウルスン村を奪還するための戦略会議にご出席ください」

 驚くレイスに対して気に掛けず、法神官ダンテマは淡々とこれからのスケジュールを彼女に教える。


「あっ、私が出席……?」

「はい。ウルスン村はあなたの父――領主様の生まれ故郷です。例えウルスン村が、これからどのような運命に遭おうとも、しっかりと見届けてほしいのです。アルテクロスの姫として――」

 言い終わると、法神官ダンテマはレイスに向かって深く頭を下げた。



「……なんだか、その……よく分からないけれど」

 本当に……囚人から姫への急な展開で、状況がまったく分かっていないレイスであった。

「……分かりました。そのように……します」

 ――けれど、兎に角、ウルスン村が何者かに襲われていることだけは、気に掛けていた。


 港町アルテクロスとウルスン村は、飛空艇で半日くらいの――それ程遠くはない距離にある。

 野菜や穀物は勿論のこと、山菜もキノコも豊富に採れる。アルテクロスの人々が、魚介類以外の食材を口にするものは、ほとんどが、この村からの輸入品である。


「ただ一つ条件があります。……ルン、アリア、イレーヌも、勿論恩赦をもらえていますよね?」

 レイスはそう言うと、飛空艇仲間の3人の顔を順に見つめる。

「――無論です。そのように領主様から仰せつかっております」


「良かったです……」


 さすがは、チームリーダのレイスなのか?

 しっかりとチームのメンバーのことを気に掛けていた。


「それに、この度の事案ではルン殿の飛空艇が必要になると、アルテクロスの賢者達も……そう預言しておりましたから」



 預言?



「これも賢者達の預言ですが、アルテクロスの姫と共に生きる飛空艇乗り達は、必ず世界を救うと――」



 救う?



 法神官ダンテマは、話を続けた……。

「つまりレイス姫。皆様が、この世界を救うチームになると……。まったく、あの預言者達ときたら……いつもいつも、よく分からない意味不明な預言しか言わないんだから……正直、ダンテマにも詳しくは分かりません」





(なんなんだ? この話の展開は??)


 と思っていたのは、ルンであった――ルンはレイスの横顔を見つめていた。





 続く


 この物語は、フィクションです。

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