サヨナラ、小さな罪

柚緒駆

サヨナラ、小さな罪

 彼女との待ち合わせは午前十時。そして今は十時五分。やってしまった。完全に寝坊した。何がいけなかったんだ。夜中までゲームしていた事か。酒を飲んでいた事か。両方のような気もするが、どっちでもいい。とにかく急いで着替えよう。また彼女に怒鳴られなければならん。


 怒鳴られるためだけに出かけるなんて馬鹿げているとは思うのだが、行かなきゃもっと怖い事になる。怒鳴られるだけで済めば儲けものとも言える。


 けど、何と言い訳しようか。怒鳴られるのは覚悟の上だが、できればあまり怒鳴られたくはない。ホドホドに叱られて許してもらえれば有り難い。しかしゲームや酒は言い訳にならないよな。どうしたものか。誰か親戚でも殺すか? いや、やめておこう。絶対バレて余計に酷い事になる。


 ああ、そう言えば変な夢を見たな。でも夢見たから遅刻したって言い訳はさすがに無理があるか。


「すべての命の代表としておまえに問う」


 光の中から聞こえた声。いまでもハッキリ覚えている。こういう夢もあるんだな。


「人間の世界を残すべきか滅ぼすべきか」


 ムシャクシャしてたのか、それとも何か欲求不満でもあったのか。確か俺、こう答えたんだ。


「全滅させるべきです!」


 って。裏切っちゃったよ人類。でもサヨナラ、小さな罪。これから彼女に怒鳴られまくるから、それでチャラにしてくれ。


 さて服も着替えた、財布も持った。ヒゲは剃ってないけど、このくらいは勘弁してくれるだろう。とにかく急ごうか。雨は降ってないかな。


 ん? いま朝の十時だよな。夜十時じゃないよな。何で月が出てるんだろう。それも三つ、真っ赤な満月が。あれ、何か大きくなってる気がするんだけど。

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サヨナラ、小さな罪 柚緒駆 @yuzuo

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